戦人の戦い
私は、拘束された村娘を庇いながら、彼ら──魔王大戦の生き残りである異世界人たちの戦いを初めて目にしていた。
当時、連合国が異世界召喚を何年も続けた理由が、今の戦いを見ていると理解できる気がする。
「すごい……これが異世界人同士の戦い……!」
「悪いが、俺は気が短いんでな。一気に行くぞ!」
動いたのは、あの巨漢・金田だった。
まるで見えないような速度で、一気に間合いを詰めてくる。
「うそ……あの体格で、速い!?」
「喰らえぇっ!!」
振り下ろされた金田の剣が床を砕き、その衝撃で建物の一部が崩壊。
さらに発生した衝撃波で、私たちは壁際まで吹き飛ばされた。
「ふん、俺の強さに──!」
「そういう台詞は、手応えあってから言え!」
その瞬間。
金田の頭上、天井から林道さんが落下。
その勢いのまま、彼の顔面に右ストレートを叩き込む!
「ぐはっ!!」
「林道さん!」
「ボサッとしてるな。早くここから離れろ。さもないと──」
ザンッ!
林道さんが差し出していた右腕が、私たちの頭上を飛んだ。
次の瞬間、入口の扉が爆発するように吹き飛ばされる。
「林道さぁぁぁん!!」
「さっきの言葉──お前に返してやるよ。“手応えあってから言え”」
「驚いたな。斬撃を飛ばす剣士なんて、近年じゃ見かけなくなったが……確かに、今のは俺の油断だった」
その時、林道さんは残った右腕の袖を破く。
「えっ、林道さん、その腕は……?」
そこに現れたのは、木製の義手だった。
「ああ。戦争の時にな……」
「なるほど。殴られた時と剣を斬った時で、感触が違ったのはその義手のせいか!」
「まぁな。木製だから軽いし、これは俺の生命エネルギーを媒介にして動いてる」
そう言って、林道さんの義手が強烈な光を放った。
斬られた部分から木が芽吹き、みるみるうちに腕の形へと再生していく。
「──こうやって再生もする」
「自己修復機能付きの義手だと……まぁいい、殺した後で高値で売れそうだ」
金田は再び一気に間合いを詰め、ロングソードで突いてきた。
だが、林道さんはスライディングして金田の足元を蹴り、転倒させようとする。
「甘いわ!」
金田はとっさに跳び上がり、林道さんのスライディングを回避。そのまま真下にいる林道さんを狙って剣を突き立てようとした瞬間――
ドカーン!
金田の背後が爆発し、彼は入り口付近まで吹き飛ばされた。
「お前もな……巨漢ゆえに足元の警戒は固い。だからこそ、俺は足元にスライディングした瞬間、真上に手榴弾を投げていた」
「まさか……金田の背後に落ちるように?」
金田の身体能力の高さにも驚かされたけど、それ以上に林道さんの対応力が凄い……これが、戦争を生き延びた異世界人の力――。
「お前らは大人しくここにいろ。外でケリをつける」
そう言って、林道さんは金田の待つ外へと歩いていった。
「うそでしょ? 金田はあの爆発で……」
「あいつの通り名は“鉄鬼”だ。本物なら、あれくらいでくたばるわけがねぇ」
林道さんが外に出ると、爆煙の中から現れた金田の腹には、先ほどまでは無かったボディアーマーが装着されていた。
「なんで!? あの距離で手榴弾を食らったのに……先までは防具なんて――」
「あいつの剣か。鎖を媒介にして作ったんだろ?」
「正解だ。あの瞬間、俺のスキルで分銅鎖を鎖帷子に変化させ、剣を鎧へと作り変えた。あの一瞬じゃフルメイルは無理だったがな」
金田はスキルを発動すると、足元にある山賊の残党の剣を取り、身に着けた鎖帷子と鎧が、うねるように形を変え始めた。
「次はこれだ……蛇腹剣。」
金属が軋むような音を立て、鎖が刀身へと変化していく。刃が分節に分かれ、鞭のようにしなりながら地面を這った。
「それ、反則でしょ……!」
私は声を震わせる。
蛇腹剣は予測不能な軌道で襲いかかり、林道さんは間一髪で躱すが、次第にその体は傷で赤く染まり始めていた。
「分銅鎖を持っていたのは、この蛇腹剣を使うためか。」
「俺はこの剣が好きだからな。もっとも、この剣はこの世界の鍛冶師じゃ作れないがな。」
何とか間合いに入ろうと、金田の周囲を走りながら回り込む林道さん。しかし、蛇腹剣による連続攻撃に阻まれ、攻撃を仕掛ける隙がない。
「気のせいか、その手の“剣”を使う奴って、主役になる作品は少ない気がするがな。」
円を描くように動いていた林道さんは、次の攻撃のために金田が振り上げた動きに合わせ、急加速して間合いを詰めようとする。
懐に入るチャンス――!
「……っと思ったか?」
次の瞬間、駆け出した林道の背後に金田が現れていた。
「なんで、あの巨漢でこんなに俊敏に動くの……?」
「もらった!」
ツルッ――!
背後に回り込んだ金田は、勢い余って滑り、体勢を崩した。よく見ると、割れた風船が床に転がっていた。
「足元に油だと……!?」
「お前のことだ、足に自信がある。あの蛇腹剣で距離を取りつつ、いざという時に相手の背後に回る。それが狙いだろう。」
「林道さん、それを読んで……足元に油入りの風船を割ってたの!?」
「喰らえ。」
林道さんは手榴弾を金田に向かって投げた。金田は剣を杖代わりにして体勢を立て直そうとしているため、蛇腹剣で迎撃することができない。
「スキル【金属変化】――防護壁!」
金田は蛇腹剣を変化させ、自身を護る大きな金属製の卵のような防壁に変えて、手榴弾の爆発を防いだ。
「これもダメなの……?」
「無駄だ。俺のスキルの前では、お前の攻撃など――……!? 何だこの熱さ……!?」
よく見ると、先ほどの手榴弾の爆発で、金田の足元に流れていた油に引火し、周囲はまさに“火の海”と化していた。灼熱の中で身動きの取れない金田。
「“鬼”と言えば地獄だろ? 灼熱地獄と洒落込むか。」
■ タグプレート
戦人
現代では、冒険者としての強さを証明するための身分証。
上位2ランクのみ、その領土のエンブレムが刻まれる。
黄金ランクは、10年前の魔王討伐の際に活躍した12人のみが所持。
その12人を支えた戦人が、白金ランクに分類されている。
民間では、以下の順にランクが振り分けられる:
銀 → 銅 → 合金 → 鉄 → 青 → 黄 → 赤 → 白
現代では、この10段階で能力が評価されており、金属ランク以上になると、常人では考えられない身体能力を持つ者が多い。
また、このタグプレートは銀行との併用システムにもなっており、
・決済
・交通手段
・メッセージ送信(音声ではなくデータのみ)
といった機能を備え、現代地球の技術が一部取り込まれている。