表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリス・レポート 異世界人見聞録  作者: con
風来坊と記者
3/6

悪魔の手口


爆発音が川辺に響いてから数分。


異常に気づいた山賊たちが、河原へと駆け込んで来る。


「おい! なんだ今の爆発は――」


「……は?」


先にたどり着いた男の足が止まる。


そこに広がっていたのは――


焼け焦げた死体の山。


肉の焦げた臭いが、夜気に混ざって鼻を突いた。


「な、なんだこれ……おい! アイツらどうしたんだよ!」


「くっせぇ……このニオイ……」


呻きながら、1人の山賊が顔をしかめる。


「違う……焼けた肉の臭いに混じって、なんかおかしい……油みたいな……」


「ああ? 何言ってやが――」


その時だった。

松明を持って近づいた山賊が、死体の傍にそれを差し出した、その瞬間――


ゴオッ!


死体の周囲が、まるで油を撒いたように一斉に燃え上がる。


「ぎゃああああああ!!」


「なんだ! なんで燃えて――うわっ、俺にも火が――!」


逃げようとした者に火の粉が飛び散り、瞬く間に火達磨が三人、四人と続出した。


完全に仕掛けられていた。


駆けつけた山賊たちは、突然の地獄絵図に足を止めるしかなかった。


「なんだ、これ……罠か!? 誰だ、こんな真似を……」


呆然と立ち尽くしていた1人の山賊の背後。


スッ――


冷たい金属の感触が、背中に突きつけられる。


「――酷いモンだろ?」


背後から、低い声。


男は凍りついた。


「て、てめぇ……何者だ!」


「おい、こっちが質問する側だ。お前に解答権はねぇ」


「は?」


「俺の質問に答えろ。……さもなくば、風穴を開けて火達磨の仲間入りか、どっちがいい?」


「な、なぁ……」


林藤は問答無用で山賊の首元に、死体から抜き取った汚れた矢を突き立てた。


「がっ……!」


鈍く肉を裂く音。


血がぴゅっと噴き出し、男の足元を赤く染める。


「心配するな。頸動脈は外してる。運が良けりゃ治療院で助かる」


「……っ!」


「ただし、矢を抜けば終わりだ。……分かるな?」


男の顔から血の気が引いた。心臓の音が、耳の奥で響いていた。


――コイツは、本物だ。

人の皮をかぶった悪魔。


「わ、わかった……言う……言うよ……だから……殺さないでくれ……!」


「聞こう。お前らは何人いる? そして――お前らのボスはどこにいる?」


一方その頃、アリスはあの小高い丘に一人、動けずに立ち尽くしていた。


「……私、何してるんだろ」


呆然とつぶやいた言葉は、夜風に紛れて誰にも届かない。


足が――動かない。


頭の中は、混乱の渦だった。村の光景、張り付けにされた人々、吐き気を催す死の匂い。そして林藤の冷たい言葉と、突き刺さったナイフの音――


昨日までの平和な日常が、まるで幻だったかのように思えた。


ほんの少し、退屈だと思っていた日常。


だけど、それはただの表層だった。

目を逸らしていただけで、この世界には未だ、あの戦争のような地獄が確かに残っていた。

しかも――それを起こしているのは、魔王軍ではない。

“連合”の、同じ側に立つはずの人間たちだ。


「……なんで、あんな酷いことができるの……どうして……」


問いは宙に浮いたまま、答えはどこにもない。


無意識に、アリスは懐から一冊の手帳を取り出す。

それは、異世界人を探すための記録帳だった。

ページの隙間から、布切れがふわりと落ちる。


深緑の布。サジタリウスのエンブレムが刺繍されていた。


アリスの目が、はっと見開かれる。


――思い出した。


十年前。焼け落ちた街で、瓦礫の中から手を伸ばしてくれた“誰か”。


その人が、最後まで握りしめていたこの布切れを、アリスは今まで肌身離さず持っていた。


だからこそ、自分は異世界人を探していたのだ。

あの時、命を救ってくれた“誰か”の真実を知るために。

あの時の無力な自分を、超えるために――。


アリスは手帳と布切れを胸元に抱き、しばらく街のほうを見つめた。


暗闇の中でも、火の手と騒ぎが聞こえる。


恐怖は、まだある。

だけど、それ以上に――


「……私は、行くよ」


ゆっくりと、しかし確かな足取りで、アリスは丘を下り始めた。


揺らぎのない瞳に宿るのは、決意の光だった。


村の一角――半ば朽ちかけた広場のような場所。

林藤は物陰から様子を窺っていた。


村の娘たちは、縄で縛られ、無理やり山賊どもの酒宴の「見世物」としてさらされていた。

足元には鎖、口には猿轡。怯えた目で辺りを見回す姿に、林藤は唇を噛む。


「何か外でデカイ音したが・・・アイツら花火でもしてるのか?」


「さぁーな、案外村人使って遊んでるじゃねぇーの?」


「マジか、なら俺も混ざろうか!」


「アハハハ」


「ダハハハ」


「……最低の連中だ」


拳を握る。だが、すぐにそれを緩めた。


敵の頭――首謀者の姿も見えている。

だが、ここで奴を仕留める前に囚われた娘たちを助ければ、すぐにまた捕まるだけだ。

最悪の場合、反撃の盾として殺される。


「……今、助けてもかえって危険に晒す……悪いが、もう少しだけ我慢してくれ」


そう小さく呟いたその時だった。


――ガシャァン!


突如、建物の窓ガラスが粉々に砕けた。


何かが飛び込んできて、床に転がる。


「っ!?」


次の瞬間――


――バァンッ!!


凄まじい光が爆裂し、部屋中を閃光が包み込んだ!


「ぐあっ!? な、なんだ!? 目が、見え――ッ!!」


「閃光玉だと……? まさか、あの小娘――!」


林藤が驚愕したその直後。


「うおおおおお!!」


悲鳴に似た叫び声とともに、光の中から飛び込んできた少女がいた。


アリスだった。


震える体にムチを打ち、全身の勇気を振り絞って――

山賊の一人に向かって何かを振りかぶる!


「えいっ!!」


――ゴスッ!


何か重いものがぶつかる音。

山賊が悲鳴を上げて吹き飛ぶ。


アリスが叩きつけたのは――分厚い革袋。

金貨や銀貨、銅貨がぎっしりと詰まった“ブラック・ジャック”。


「……あいつ、あれで攻撃したのか?」


物陰から林藤が呟いた。

革袋が地面に落ち、金属のこすれる「ジャリッ」という音が鳴る。


「確かに……あれは非力な奴に向いてるが、まさか本当にやるとはな……」


閃光で混乱する山賊たちに、アリスは必死で娘たちの縄を解き始めていた。


「待ってください、直ぐに助けますから!」


「ありがとうございます・・・」


林藤は深く息を吐いた。


「……フン。 まぁ〜足手まといは取り消してやるか」


「おい、折角うたた寝気分で呑んでた宴会を台無しにしたのはオメーか? 小娘!」


「うそ……なんで閃光玉をくらってないの?」


アリスは背後に現れた巨漢の男がロングソード振り下ろそうとした。

アリスは開放した村人を庇う様に守ろうとしたが、

振り下ろそうとした剣を持つ手を鉄球が当たり、剣が弾かれた。


「何だ、まだドブネズミ居たのか?」


「悪いな、俺の仕事はそこの金髪のお嬢ちゃんの護衛なんだ」


「林藤さん!」


林藤がスリングショットで巨漢が剣を持つ指をヒットさせて剣を離した瞬間にすかさずに剣の柄を当てて巨漢の背後の床に突き刺した。


「テメー政府の回し者か?」


「だとしたらどうする?」


「本当はもう少し兵力を揃えてからやりたかったが、まぁ〜お前を狩れば、俺の経験値になる。 より強くなれる」


巨漢は目の前の林道をご馳走を見るみたいに涎を垂らしていた。


「悪いがオトコに欲情される趣味はねェーから」


「俺もだ、てめぇ〜喰らって早く女を抱いてやるさ!」


不意を着くように巨漢の腰に巻かれていた分銅鎖が投げられ、林藤に目掛けて来たが、林藤は真正面から走りつつ、紙一重でそれを避けた。

スリングショットで巨漢を狙うが・・・


「何度も喰らうかよ!!」


鎖を直ぐに引き寄せてスリングショットの鉄球を弾いて防いだ。 一般人のアリスからは早すぎて唖然としていた。


「嘘、あのスリングショットの弾を弾いた?」


「ほら、てめぇーの鉄球のお返しだ! スキル【金属変化(メタル・チェンジ)】ナイフ!」


巨漢は弾いた鉄球数個を空いた手で握りしめると、青白くひかりその光を林藤向けて投げつけると光は数本のナイフが飛び出し、林藤は近くにある燭台で振り払い、ナイフの攻撃を弾いた。


「嘘!? 鉄球がナイフに!?」


「そのスキルに巨漢・・・お前、スコーピオン領に居た。 金田 剛平・・・確か、鉄鬼(てっき)と異名だったな」


「ずいぶん懐かしい異名じゃねぇか、俺みたいな三流を知ってるとはな……お前も、あの戦争の生き残りか」


分銅鎖を弾かれた剣を巻き付けて引き寄せ、構える金田。

スリングショットをしまい、ナイフを構える林藤。


2人の戦いが、始まろうとしていた。



戦人(いくさびと)


はるか昔、魔物の脅威に対抗するため、賢者によって構築された儀式体系。

これは本来、死後に霧散するはずの生命エネルギーを対価として捧げる代わりに、

戦いの中で奪った命のエネルギーを自らに取り込み、"経験値"として蓄積することで、能力を向上させるというもの。


ただし、例えば鳥の魔物をいくら倒しても、人間が空を飛べるようになるわけではない。

取り込んだエネルギーが自身の肉体的性質や資質と適合していなければ、効果はほとんど発揮されない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ