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アリス・レポート 異世界人見聞録  作者: con
風来坊と記者
2/6

張り付けの村

馬車を降りて、林藤はまっすぐ村に向かうかと思いきや、近くの小高い丘へと足を向けた。


「林藤さん、村に行かないんですか?」


アリスが怪訝そうに尋ねる。


「観光地じゃないんだ。占拠されてる可能性がある村に、馬鹿正直に突っ込んでどうするよ」


「うっ、それは……」


言葉に詰まったアリスに、林藤は黙って単眼鏡を手渡した。


「見てみろ。あの村の様子を見て、それでも耐えられるか?」


アリスは疑問を抱きつつ、単眼鏡を覗き込む。


視界に映ったのは、荒れ果てた村の全景だった。


道路は崩れ、屋根の抜けた民家もある。だが、そんな中で最も目を引いたのは――教会の壁。


「え……う、嘘……」


アリスの瞳が揺れる。


そこには、数人の人影が“張り付け”にされていた。距離があって表情までは見えない。だが、動いていない。


死んでいる。アリスは直感でそう感じた。


「っ……うぇ……!」


思わずその場にしゃがみ込み、胃の中身を吐き出すアリス。


林藤は顔をしかめるが、何も言わない。ただ、少しだけ視線を遠くに投げた。


「……こりゃ、道具屋として潜り込むなんて悠長な真似はできそうにねぇな」


冷たくも現実的な言葉に、アリスは唇を噛みしめるしかなかった。


「それだけですか? あの惨状見て他に言うことは!?」


アリスが林藤に文句を言おうとしたが途中で林藤に口を塞がれる。


「喚くな、ここには調査に来てるんだぞ? お前が喚いて事態が改善するのか?」


「!?」


事実を言われて大人しくなったアリスを見て、林藤は塞いでいた手を退け、道具屋として持って来た荷物を漁り、準備を始めた。


「元々、“単独”よりももう1人いた方が怪しまれないって理由で、ラビに依頼されてお前を連れてきたが……」


林藤は先の惨劇を見たアリスを見てこれからの展開を予想し、当初の方法での潜入調査は無理だと判断した。


「この状況じゃ余所者が来た時点で袋叩きに合う可能性がある。 お前は帰れ。」


「え? 何で?」


アリスは林藤に唐突に帰れと言われ呆然としていた。


「街の様子を観察して決めるが、多分、今夜忍び込んで首謀者を拘束する。 仮に戦争経験者の異世界人なら戦闘になる可能性がある。そうなると何にも出来ない奴は足手まとい以外ないんだ」


林藤は無言で鞄を漁り、小さな閃光玉を取り出すと、アリスに放り投げた。


「お前にはそれで十分だ。護身用だが、目潰しにも使える。……さっさと丘を下りて帰れ。」


「……っ」


言いたいことは山ほどあった。でも言葉は口から出てこなかった。


林藤は踵を返して、村の方へと歩き出す。


その背中に、アリスは思わず手を伸ばしかけた――


「ま、待って、私は――」


――シュッ!


何かが地を裂いて飛ぶ音。


アリスの足元に、一本のナイフが突き立った。


驚きに目を見開いたアリスに、林藤が振り返らずに告げた。


「二度目は無いぞ……」


その言葉には、一片の情も、迷いもなかった。


アリスは一歩も動けなかった。


まるで、自分の中の“何か”を見透かされたようで。


林藤の姿は、夜の帳にすぐに消えた。



焚き火の音。酒瓶の匂い。下品な笑い声。


川辺の砂利の上で、数人の山賊たちが酒をあおっていた。


「なぁ、マジで王都に売れたんか? あの娘たちよォ」


「へっ、知らねぇ。俺はカネになりゃ何でもいいのさ」


その時、川上から流れてくる小舟に気づく。


「……なんだ? あれ」


「小舟だ。まさか積荷付きか?」


山賊のひとりが縄を投げ、小舟をたぐり寄せる。


舟には……白骨死体と、小さな金貨袋。


「……マジかよ、遺体付きじゃねぇか。気味悪……お、でもコレは……!」


金貨袋を奪うように掴んだその瞬間――


「ピン!」


小さな金属音。袋の中を見る。


「は? て、手榴弾……!?」


叫びと同時に、水面から何かが飛来する。


それは正確無比に手榴弾に命中した。


――ドカァァン!


火花と水飛沫が夜空を裂いた。


爆炎に包まれる山賊たち。


爆煙の向こう、静かに川から現れる影。


コートの裾を揺らしながら、まっすぐと進むその姿は――


地獄の底から現れた“死神”だった。


「さて、後何人残ってるんだ」


林藤の声は、凍えるように冷たかった。


連合国

今から20年前魔王軍の脅威に打ち勝つために、人間・エルフ・ドワーフ・獣人族の王が12星座に習って12星座連合国、通称=連合立ち上げた。 そして、そこから数年に渡り、異世界人の召喚を試み徐々に陣地を取り戻し、12年前に林道達が来た凡そ100人が加わり、2年後に終結を迎えた。


だが、その後の異世界人の殆どは表舞台から消えた。

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