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第2話

休み時間になると影井の席は囲まれ、記者会見のように沢山の質問を投げかけられている様子だ。



他クラスからも続々と来て、廊下の窓や扉から顔を出して見ている。



椿は廊下の壁に寄りかかって人集りが去るのを隣でいちごミルクを飲む赤左と待っていた。



「この時期に転校生とか珍しいね」


「うん、私もびっくりした」


「あ、もしかして今日校内案内する感じ?」


「放課後にしようかなって、昼休みはまたこんな感じっぽいし」


「そっかー、委員長も大変だね」



ずずずっと飲み終わった紙パックを潰し、ゴミ箱に入れたと同時にチャイムが鳴ると一斉に生徒達はクラスや自分の席に戻り、解放された椿は一息付きながら席へと着いた。



それから暫くして六時間目まで無事に授業は終わり、放課後となると部活動に行く生徒やバイトに行く生徒やそのまま帰宅する生徒と別れ


事前に校内案内を伝えられていた影井は一緒に帰ろうと誘われても断っていた。



椿はゆっくりと身支度をし、いつでも帰れるよう鞄を机の上に置いて教室を見渡すと、自分と影井の二人だけになっていた事に気付く。



「委員長やんな」


「あ、うん、よろしくね」


「うい、じゃ、校内案内よろしく」



この一日目に入った時だけ少し観察していた椿は、俗に言う子犬系男子だなと感じていた。



ズボンのポケットに手を入れ、「ここは理科室」「ここは多目的室」と案内しても返事のひとつもなく、窓の外を見ながら歩く影井を椿は横目で見ていた。



「ここは音楽室、今は吹奏楽が居るから入れないけど」


と立ち止まり、扉の間から中を覗きながら呟いた。



強豪校という訳では無いが、演奏しているところに出くわしたら思わず足を止めてしまう程の綺麗な音色を響かせてくれる。



影井はそっぽを向いていた顔を音楽室に向かせ、少し前かがみになって中を覗く。



「ええやん」



と影井の表情は見えなかったが、少し微笑んだ気がする。



一通り案内を済ませた椿は


「何か他に分からない事があったら私か、皆に聞けば分かるよ」


と話して、既にリュックを背負っていた影井と昇降口前で解散しようと歩き始めた。



「屋上とか、行けへんの」



背中越しに聞こえた影井の声に、椿は振り向く。



「屋上……確か出入り禁止だよ」



と言うと、影井は「ふーん」と階段を見て、数秒経つと「ほな」と言って昇降口に身を消した。



皆の前ではあんなに笑顔を見せてワイワイと騒いでいたのに、と思った椿は「なんなの」と一人呟き、教室に戻って鞄を肩に掛ければモヤモヤした気持ちを抱きながら下校した。




____





「……早いんだね」



早く目が覚めた椿はそのままいつもよりも三十分早く登校し、誰もいない教室で音楽でも聴こうと登校中からイヤホンを耳に付けていた。



誰もいない道に、まだほんの少し冷たい風に当たりながら登校できた椿はいつもよりも気分が高まっていた。



朝練を始めようとしている部活動生を見ながら昇降口に入り、階段を上り、開いている教室に入ると、そこには席に座って風に当たりながら本を読む影井の姿が。



椿は少し驚いた表情を浮かばせながら、イヤホンを耳から外し、声をかけた。



「……」



影井は集中しているのか、はたまた意図的に無視しているのか分からないが言葉は返ってこなかった。



椿はまた昨日と同じ気持ちが湧いてきたが、しっかり抑えて自分の席につき、左耳にだけイヤホンを付けて止めた曲を再開させた。



その時、ガタッと椅子を引く音が聞こえて音の方へ顔を向けると、影井は椿の方へと本を持ちながら向かってきており、隣の席の椅子を私の真横に持ってくるとドカッと座って付けていない右耳のイヤホンをつけた。



頭の中がクエスチョンマークだらけの椿を差し置いて影井は平然とした顔で本を読み始める。



「影井くん」


「喋らんといて、今ええとこやろ、この曲の」



椿は左耳のイヤホンを外して恐る恐る影井に声をかけると、影井は本に目線をやりながらも応えた。



椿の好きなアーティスト曲のサビ部分にさしかかっており、確かに良い所だった為に椿はそれ以降喋らず、用もないのにひたすら携帯をいじり続けた。



あまり男子生徒と絡む事が少ない椿は、緊張のあまり心拍数が上がり体温が上がっている。



「なあ」



曲が流れ終わり無音の間となった時、影井が口を開いた。



「あんた、処女?」



イヤホンを外して表情を一切変えずに椿の目を見ながら問いかけた影井に、椿は一気に顔を赤らめて


「きも!」


と声を上げ、席から立ち、携帯とイヤホンを持って教室から走って逃げ去った。



残された影井は、逃げ去る椿の背中が見えなくなるまで見つめ、見えなくなると黒板の方を向いて「はあ」とため息をついた。



「玲?」


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