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分かってくれない兄さん

弟に成人後の生活の相談をしたら、あっという間に解決してしまった。昨日は僕のこれからがどうなる分からずに不安でどうしようかと途方に暮れていたのに、弟は成人前なのにちゃんとこの先どんな風に生きて行くのかしっかりと考えていたのか。

一緒に育ったのに僕と違って弟は本当にしっかり者だ。


昨日とはまた違った悩みを抱えてしまったが、これは自分で考えなくてはいけない。何でも出来る弟と一緒に暮らす為に僕は何ができるかだ。取り敢えずシミュレーションしてみる。

父と毎日のように狩りに出掛けているし、弟は今後猟師として生活をしていくのだろう。森で獲物を狩って、必要な分を家に、それ以外を村に売りに行く。弟の事だからそんなに森や村から離れた場所に家は建てないだろうし早朝から出掛けて夕方くらいに帰って来るような1日だろうか?僕は家の隣に畑を作って、食べられる物を育てていこう。あとは料理と掃除と洗濯?

今とやっている事は変わらないけど、一緒に暮らすって事はそれぞれが出来る事をやっていくって事なのかな?それなら何とかなりそうな気がする!

弟は今日は出掛けて行かなかったから、きっと部屋にいるんだろう。鶏小屋の掃除が終わったら話に行ってみよう。


僕が部屋に戻ると弟は机に色々な物を乗せて何かをしていた。

勝手に触って壊してしまったらまずいので、弟の後ろから覗き込んで話し掛けた。

「何してるの?これは動物の牙?こんな小さい物に穴を空けるなんて器用だね。」

「猪の牙ですよ。他にも爪を加工したりも出来ますよ」

「!!!」

僕は心臓が飛び出すかと思った。今までのように返事が返って来るとは微塵も思わずに話し掛けたからだ。昨夜も聞いた低音の静かな声で話し掛けられた。声も顔も頭も性格もスタイルも何でもいい弟の悪い所なんてないのではないだろうか?

「君は神様の最高傑作と賞賛しても兄の贔屓目ではないと思う。君も自分でそう思わない?夕飯の準備さえなければ、僕は村中に大声で自慢して君を見せびらかせに行きたかったよ」

「兄さんが村に行った事なんて数えるくらいじゃないですか。本当に大声で自慢なんてできるんですか?そもそも神様に怒られますよ。そんな事より、何か用事があってここに来たんじゃないんですか?」

いつもよりも冷ややかな視線を浴びて正気に戻った僕は、一緒に暮らす計画の事を思い出した。


「ごめんね、君と会話が出来たのが嬉しくてつい。昨夜の話なんだけど、具体的にどうするかは決めているのかな?まだなら一緒に考えたいなと思って」

作業が一段落ついたのか、机の上を片付けて話を聞いてくれるみたいだった。窓際にあった小さな椅子を弟の前に置いて座った。

「何年も前から準備をしていたので、兄さんさえよければすぐにでも一緒に暮らせますよ。俺も今年成人なんでいつでも新しい家に行けますよ」

「え?君も成人するの??君って、同い年だったの?」

「新しい家の方に驚くかと思いましたが、さすが兄さんですね。そうですよ。俺も兄さんと同じ年齢なんですよ」

見たこともないような笑顔で、兄を強調してくる。確かに同い年の子供にずっと兄貴風を吹かされたら嫌だろう。僕は父さんから弟だと聞いてずっと兄ぶって引っ張り回していた。まさか同い年だなんて想像もしていなかった。

「まあ確かに数カ月は年上なんで兄さんと呼んでいますけど、大人になったら対等な関係ですよね」

何かもの凄い圧を感じる。そんなに嫌だったんだろうか?

「あの、君が嫌なら僕が弟になってもいいよ?」

弟は人に向かって吐き出すには失礼なサイズのため息を吐き出した。

「あなたは今の話を聞いていたんですか?そもそも血の繋がりはありませんし、無理矢理兄弟として括らなくてもいいでしょう」

僕は少し悲しくなった。弟とは血の繋がりはないけれど、血が繋がっていなくても本当の家族として過ごしてきたつもりだ。

「でも僕は家族として君と一緒にいたいんだ。君は違うの?」


弟は僕の頬を指の背で撫でて切なそうな顔になった。

「俺は兄さんがずっと一緒にいてくれるなら、今は弟でも何でもいい。でもずっと弟なのは嫌なんだ。分かるだろう?」

弟は椅子から立ち上がって座っている僕をぎゅっと抱きしめてきた。その背中に手を回してポンポンと叩いて言った。

「ごめんね。僕は君の気持ちに全く気づいてあげる事が出来なかった。そうだよね。たった数カ月先に生まれたからってずっと兄の座に居座るなんて傲慢だった!取り敢えず今から君が兄さんだ!それでいいかな?」

返事をした途端に背中が折れる程の抱擁をされた。

そんなに嬉しかったなんて、僕が兄らしさに拘っている場合ではなかった。

「兄さん!おい兄さん!!わざと言ってんのか?あんた本当は俺の事が嫌いなのか?あー。もう嫌だ…。」

僕を開放した弟は項垂れて床に座ってしまった。

「今から兄さんは君の方だろう?大丈夫?僕は兄さんの事が好きだよ!どうしたの?」


弟が兄のポジションになりたいのならと、僕は喜んで譲った。それなのに弟はちっとも嬉しそうでは無かった。僕に可愛さが足りないのか?まだ兄の残滓でも残っていたんだろうか?これからはもっと弟の研究して、兄さん(元弟)の理想の弟像に近づけるように努力をしていこう。

この日の夕飯の時間に両親に今日の弟は訳あって廃止して、これからは今日の兄さんにする事にしたと報告をした。両親は興味なさそうな顔をしていたが、弟は苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。何故なのか…。

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