表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

猟師は廃業

カインが13才になった頃に父は本格的に弟を森に連れて入るようになった。僕もたまについていったが、二人のやり取りには入れなかった。鹿や猪、時には熊を狩れるようにと罠の作り方や仕掛け方、縄張りの目印の見つけ方、覚える事は沢山あった。弓もしっかりとした重さと大きさのある物に変えてそれを背負って移動する。声を出せない状況でのハンドサインも教えて貰ったけれどカインは狩りについていくのが厳しくなっていた。

背中にある弓矢は重いし、足場も悪く生い茂った木々で見通しも悪い。動物の痕跡も言われてみないと気が付かないし、矢を射ればヘロヘロと地面に落ちてしまう。段々と自分は猟師に向いていないと思うようになった。その最大の原因は弟であった。


僕は弟が来た時から常に良き手本であるようにと心掛けていた。何か困った事があれば手助けが出来るように、自分の知識も弟に教えるようにしていた。でも随分早い段階から弟は僕を超えていたようにも思う。弟は器用で頭もいいから何をやらせても僕よりも上手かったけれど、もしもそれを認めてしまったら僕が弟に教えられる事が1つもなくなってしまうと思うと怖かった。何より僕はいつまでも兄でいたかった。僕や父が弟に教える事が無くなってしまったら本当の家族ではない弟はきっと何処かへ行ってしまうだろう。


弟は猟師に興味があるのか父についてよく出掛けていた。僕は段々と一緒に森に入るのが嫌になっていた。父と弟はさくさくと山道を登って行く後ろを、僕は見失わないように必死についていってそれでも二人を待たせる事が多かった。

「ごめんね。はぁ。ちょっと息が切れちゃって。はぁ。ちょっとだけ休憩させて。はぁはぁ…」

獲物を追い込んでも僕のミスで気付かれたり必死で背負ってきた弓矢は全く飛ばずに役に立たない。不出来な自分が嫌だった。

「ああっ!もう後ちょっとだったのに!僕のせいでごめんなさい」

弟も似たような感じならまだ頑張れたのだろうけれど、弟は父の指示に従って鹿くらいなら仕留めて捌けるようになっていた。

「あれ?ここに刃を入れるんじゃなかったっけ…?全然入らない。…ん?あ!そっちだっけ?ありがとう!」

圧倒的な差を目の当たりにすると、嫉妬も何も感じなくなるようだった。単純に凄いなと思うけれど、同時に僕には出来ないとも思う。二人もそう感じているからだろう、僕が森についていかなくなっても何も言われる事は無くてホッとした。


人には向き不向きがある。狩猟が僕には向いていなかったというだけの話だ。あと数年で成人する僕は、どこかに僕だけの家を建てて何か食べていける事を見つけなくてはいけない。そこで僕はさっさと猟師は諦めて農家になろうと思った。自分で野菜を育てれば食べるのに困らないと思ったからだ。

そこで僕は畑の世話をしている母に将来は農家になると宣言して、色々な知識を教えてもらう事にした。ついでに料理も習えば万が一の時には村の酒場で料理人として雇って貰える可能性もあるなと料理の手伝いも毎日する事にした。


この時期からずっとべったり弟と一緒だった日常は少しずつ変わっていった。夕飯には今日の弟で話す内容が無くなってしまったと、父と弟に今日はどんな1日だったのか訪ねても無口な2人は教えてくれる事は無かった。寂しかったが、きっとこれが大人になる事なんだと思った。

こうして昼間はほとんど接点が無くなってしまった僕と弟だが、未だに一つの部屋を使っている。小さい家に空き部屋がないとは言え、カインは13才で弟も似たような年齢だろうがこの歳になっても二人は一つのベッドで眠っていた。部屋に入って思い思いに過ごした後、必ず弟が先にベッドに入り自分の横を手でポンポンと叩いてアピールをする。カインが弟の隣に寝ると、弟はカインを抱き枕のようにして眠るのだ。弟はよく森に行ったり歩いたりして体を鍛えているせいか、カインよりも20cmくらい身長が高いのですっぽりと弟の腕の中に入ってしまう。この腕の中はふわりと弟の匂いがして安心感があるのでよく眠れる。

カインは後何度こうやって一緒に眠れるかなと考えると少し寂しくなってしまった。考え過ぎると泣けてしまう気がしたので、取り敢えず弟の体に頭をぐりぐりと押し付けて気を紛らわせた。弟は眠れないと思ったのか、一定のリズムで優しく背中をポンポンと叩いてくれて気が付いたら朝になっていた。

弟は寝かしつけの才能まであるのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ