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釣り

その日から僕は弟とずっと一緒に過ごした。

朝起きて顔を洗い、服を着替え、兎の罠を見に行き、鶏の卵を拾い、朝食を食べる。その後は森に入って動物の痕跡を見つけたり、食べられる実やキノコを収穫する。弟は相変わらず反応はしないけど、1人じゃない事と弟を守るという仕事を与えられた事が単純に嬉しかった。父が教えてくれたように、僕も弟に森の知識を教えていった。

「この草はさっきのと似てるけど、触ると手がかぶれるから気をつけるんだよ。あと、この葉っぱに付いてる足跡。これは小さい動物の物だから、罠を仕掛けるならこの辺でもいいかもしれないね」

持って来た篭に今日の分の食べ物が集まって来たので、一度家に戻って置いて来る事にした。

「結構採れたし、そろそろ家に帰ろうか。今日はもう他にやる事がないから釣りでもやってみようか?君は釣りをした事ある?」

森の中の僕しか知らない秘密基地に弟を連れて行きたかったけど手を繋いだまま行ける場所にないし、怪我をさせたら可哀想だと思ってぼーっとできる釣りに行こうと誘った。

弟からの返事はないけど、はじめから返事は期待してないから気にしない。

のんびり歩いて家まで帰って、テーブルの上に篭を置いておく。


釣り竿とバケツを持って川まで来ると大きい岩の上に座った。

「ここでぼーっとしながら釣りをするのもいいよね」

餌を付けて川に放り込み、弟に釣り竿を持たせた。

木々の間を爽やかな風が吹き抜け、さわさわと葉を揺らしている。頭上には小鳥が飛んで、川のせせらぎを聞きながら穏やかな気持ちでぼんやりと待つ。弟が来るまでは釣りは退屈で好きではなかった。弟が隣にいるだけでこの退屈な時間も釣りを教えてあげているという少し誇らしい時間に思えた。

「全然釣れないね。やっぱり狩りの方が楽しいな」

弟は釣り竿を持ってじっと座っているのに、僕の方が飽きてしまった。気が付いたら僕は岩の上で寝てしまっていた。腕がくすぐったくて目が覚めると弟が僕の腕を遠慮がちに触っていた

「あ、ごめんね。つい寝ちゃってた。釣れた?」

弟の目線を追うと竿の先を見つめている。僅かに揺れていた。

「ああ!魚が掛かったから教えてくれたんだね。ありがとう

じゃあゆっくり竿を上に上げてみて」 

弟は言われた通りにゆっくり竿を上げたが、その間に魚は逃げてしまったらしい。餌が無くなった針だけがそこにあった。

「残念、逃げられちゃったみたいだね。針を僕の方に向けて。また餌を付けてあげるね」

餌を付けて川に投げると、また静かな時間が戻ってきた。

(弟が僕を起こしてくれた。やっぱりちゃんと理解してるんだ)

日が傾く頃まで続けたが結局魚は釣れなかった。

「魚はお腹が空いてなかったみたいだね。また今度来よう」


左手に釣り竿とバケツを持って、右手でしっかりと弟の手を繋いで家に帰る事にした。

「釣り楽しかった?僕はあんまり好きじゃないんだ。釣りをしている間は魚が逃げるから喋れないし、釣り竿をずっと持っていないといけないし。何より退屈だと思わない?」

弟からの返事はないけど、ちゃんと聞こえている事は分かったから思いついたまま話しかける。少しでも僕の事を分かってくれたら何かのきっかけで仲良くなれるかもしれないし。

「それに僕は魚よりもお肉が好きなんだ。魚は骨がたくさんあって、ちゃんと取らないと喉に引っ掛かるのが嫌なんだ。動物の骨は大きいからどこにあるかも分かりやすいしね!」

話しながら歩いているとあっという間に家まで帰ってきた。

「釣り竿を戻して来るから先に家に入ってて。きっとごはんももうすぐ出来るよ。お腹空いたね。今日のごはんは何かな?」

家のドアの前で弟の手を離して家の中に入るのを見送ると、家の裏にある倉庫に釣り竿とバケツを片付けた。


夕食の時に全員が集まると、母は今日何をしていたのか聞いた

「カイン今日は2人で何をしていたの?」

頬をかきながら、へらっと笑いながら答えた。

「釣りに行ったんだけど逃げられちゃって1匹も釣れなかった」

「いつもは自分から釣りに行かないのに珍しいのね」

「弟に釣りを教えたかったんだよ。僕は途中で寝ちゃったけど弟はちゃんと釣りをしてたんだ。凄いよね!」

弟は自分よりも頑張ったんだとしっかりとアピールをしておいた。父と母は弟の事をちゃんと褒めてくれたので、僕まで誇らしい気持ちになった。

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