秘密基地
あれから色々あって、結局弟は弟のままでいいと言った。遠慮するなと粘ってみたが、これ以上面倒な事はするなと怒られた。非常に理不尽である。でも可愛い弟の我侭くらい笑って許せるのが兄という生き物。また気が変わったら僕はいつでもポジションを代わるからと言っておいた。顔面にクッションを投げつけられたが、虫の居所でも悪かったのだろう。
弟は本当にしっかりと準備していたようで、森の中で何十年も放置されていた山小屋をコツコツと手直しして、人が住めるようにしたという。まだ屋根と家の中しか直せてないと聞いたが、住み始めてから一緒に修繕していけばいいと思う。
今日は初めて弟に新しい家に連れて行って貰う日だ。僕は楽しみでいつもよりも早く目が覚めてしまった。弟の腕の中でモゾモゾしていると、弟も起きたのか僕の頭の上に顔を寄せてきた。
「おはよう。新しい家を見に行くのが楽しみすぎて早く起きちゃった。雨も降ってないし、新しい家日和だね」
「おはようございます。フフッ。新しい家日和って何ですか?」
「新しい家を見ながら家の近くでお弁当を食べるんだよ!凄くわくわくしない?家の中でもいいけど、折角なら君が直してくれた家を見ながら食べたいんだ」
「それはいいですね。兄さんも新しい家を気に入ってくれるといいんですが」
「僕は君と一緒に暮らせればどんな家でも気にいるよ」
弟は最近増えた溜息をまたこぼしていた。
「兄さんは俺をどうしたいんですか?本当に小悪魔どころか悪魔のようですよ」
「悪魔?君はそんな事を信じてるの?大丈夫だよ。御伽にしか出てこないから。もし出て来たら僕が追い払ってみせるよ」
弟が悪魔を信じているなんて意外だ。案外可愛い所もあるんだとこっそりと思っていると鼻を摘まれた。
部屋を出て顔を洗ったら鶏小屋から卵を拾って、畑で収穫を終えると朝ごはんとお弁当を準備した。朝ごはんの時間に、両親に今日は新しい家を見に行って来ると伝えた。
朝食後いよいよ新しい家に行く事になった。僕は弁当と水筒を持って部屋にいくと、弟も準備が出来たのか大きな袋を持っていた。
「兄さん少し歩くので荷物はこの袋に入れて下さい。俺が持っていくんで」
「いいよ。家を用意して貰って荷物まで持ってもらうなんて悪いよ」
弟は僕を無視して弁当を袋に入れてさっさと部屋を出て行ってしまった。慌てて追いかけて大人しくついていく事にした。
1度村の方まで出た後に実家とは反対側の森の中に入って行った。僕はこの辺の森までは来たことが無かったので、いつも入っている森との違いを探してみた。森なんて基本的にどこも似たようなものなのか、僕の観察眼がないのか分からなかった。
獣道をしばらく歩くと開けた場所に大きな丸太を使った可愛いログハウスが建っていた。
「わあ!これ?これが新しい家?凄く可愛いね!本当に?」
思わず走って近づくと、家の周辺を歩いて弟に訊ねた。
「そうですよ。これが俺達の新しい家です。気に入ってもらえました?」
「凄いよ!本当に!僕…!!ああもうっ!表現が出来ないけど本当に素敵だね。こんな所に住めるなんて嬉しい!」
「その言葉を聞けただけでも頑張った甲斐はありました」
弟も嬉しそうに僕が家を眺めるのを見守っていた。
しばらく外から家の四方を眺めて、窓から中を覗いてみた。
「揺れる椅子だ!あれも使っていいの??」
後ろから弟か近づいて抱きついてきた。
「兄さんが好きそうだと思って家具屋で買っておいたんですよ」
思わず僕は弟の手を引っ張って家の中に入った。
扉を開けると落ち着く木の香りがして、大きな窓は絵画のように木々が切り取られていて柔らかい日差しが入り込んできている。外から見ていた揺れる椅子もあった。弟の手を引いて座らせてみる。
「座り心地はどう?楽しい?もうちょっと揺らしてもいい?」
「何で自分で座らないんですか?あなたの為に用意したんですよ」
弟は僕の手を引っ張って膝の上に座らせた。
「だって君が買ったものだし、先に座る権利があるし…。」
モゴモゴと話していると、弟は椅子を揺らしてきた。
「何言ってるんですか。ここにある物は全て2人の物ですよ」
「わあ!この揺れるの楽しいね。このまま寝ても良さそう」
弟は僕の頭を胸に寄せて背中をポンポンと叩いてしてくれた。
「このまま少し寝ますか?きっと気持ちがいいですよ」
このまま寝たら気持ちがいいのは間違いない。でも駄目だ。
弟の膝の上から降りて部屋の案内をお願いしてみた。
「お昼寝はまた今度にするよ。今はこの素敵な家をもっと見たいんだ。案内をお願いできる?」
「畏まりました。兄さんの好きそうなとっておきの場所にご案内いたしましょう。お手をどうぞ」
弟も椅子から立ち上がってお辞儀をして手を差し出してきた。
弟と手を繋ぎながら少し狭い階段を登っていくと、屋根の形そのままの少し低い斜めの天井がある小さな部屋があった。
「ここは屋根裏部屋で少し天井が低いので気を付けて下さい。ほらここに小さな窓があるんですけど、夜になるとここから満天の星空が見られるんです。」
斜めになった屋根の部分に開閉可能な窓がついていて、そこから青空が見えた。
「うわ…。なんか夢みたいな家だね。秘密基地みたいで凄くわくわくする!ここに毛布とか持ち込んだら星を見ながらそのまま眠れるんじゃない?」
「そうですね。星が綺麗な夜はここで寝るのもいいと思います」




