悪役令嬢、ヒロインに感謝する
2作目になります。
前作とはまったく違う感じになったのではと思います。
皆様に読んでいただけたら嬉しいです。
「きみとの婚約を破棄する。
傲慢で、弱いものを虐げる心根、その他色々言いたいことがあるが、自分でも分かっているだろう?」
目の前で幼い頃からの婚約者である王太子殿下が淡々と伝えてくる。
そして彼の隣には聖女と認められたばかりの少女。
背後には幼馴染である公爵令息を含めた側近の子息たちが並んでいる。
「もうきみとはやっていけないよ」
その王太子殿下の言葉を聞いた私は立っていられなくなり、その場に崩れ落ちた。
目の前は暗く、今までどうやって息をしていたかも分からない。
誰か助けて!私は、私は…
「ねぇ、こないだ私がオススメしたゲームやってくれた?」
幼稚園からの親友、沙羅が目をキラキラさせながら聞いてきた。
隣で優里が苦笑いしている。
二人の表情が対照的で面白い。
ちなみに彼も幼稚園からの付き合いで…親友だ。
「あぁ、あの恋愛ゲームのこと?
平民の子が突然聖女の力に目覚めて、男性を攻略するやつ」
私はあまりその手の本やゲーム好きではない。
何だかモヤモヤするのだ。
だっておかしくない?
平民が聖女になるのはまぁいい。
でも、その子が王太子妃とか無理じゃない?
知識も教養もなく高位の貴族になるなんてさ。
その国の人たちは絶対困ると思う。
ま、私には関係ないけどさ。
「また勧めてんの?
沙羅、みんなに布教してるよな」
「当たり前じゃん。
内容はありきたりなんだけど、絵がいいのよ!
あの絵を見てるだけで幸せになる。
百合がその手のゲーム、好きじゃないのは知ってる。
けど、あのキャラデザは絶対好きだと思うんだ。
だからさ、騙されたと思って絶対やってほしい。
何なら優里もやってみなよ。
女心分かるかもよ?」
「うるせー」
一人暮らしの家に帰った私は、仕方なく恋愛ゲームをダウンロードしてみた。
沙羅があんなにオススメしてくるし、話のネタになるもんね。
優里もダウンロードするのかな?
主人公は父親を流行り病で亡くし、母親と弟の3人で暮らす少女。
その母親は仕事を掛け持ちし、必死に子供たちを育てていたが、流行り病に罹ってしまう。
貧しいため医者に診てもらえず、主人公が必死に祈ったその時、奇跡が起こる。
聖女の力が目覚め、母親の病気を治したのだ。
そして噂が広まり、特待生として貴族の通う学園に入学する。
そこで、王太子、公爵令息、騎士団長、魔導士、商人の息子との物語が始まる。
「んー、悪役令嬢だっけ?
その令嬢からのイジメもあるのよねー」
よく聞く恋愛ゲームだと思う。
確かにキャラは私好み。
特に公爵令息はどこかこころ惹かれる。
煌めくような銀色の髪、深い海のような碧眼。
王太子が金髪碧眼でイメージが太陽なら公爵令息は月だ。
そして悪役令嬢がするイジメはテンプレート。
ヒロインの教科書を隠したり、嫌味を言ったり、噴水に突き落としたり。
「ほんとよくあるパターンよね。
何でこんなことするんだろ?
バレたら婚約者に嫌われるのに」
ゲームを進めるとやはり思った通りイジメがばれ、婚約は破棄。
ヒロインと攻略対象は結婚してめでたし、めでたし。
「とりあえず一通り攻略したかな?
にしても、この話の悪役令嬢の結末は分からないのね。
よくある最悪のパターンは投獄や死刑だもん。
そんなの見たくない…けど気になる」
ゲーム画面を見ると、そこには公爵令息とヒロインが見つめ合っていた。
「やっぱりここは恋愛ゲームの世界だったのね」
婚約破棄がなされたのは卒業式真っ只中の学園ホール。
そして私がいるのは、その学園の保健室だ。
何回かお世話になったので分かる。
ふぅと息を一度吐くと、先程目の前で繰り広げられた婚約破棄を思い出す。
王太子殿下の冷たい目。
最近よく見ていた目だ。
幼い頃は好きという感情はなくとも、もう少し温かい目をしていたと思う。
王宮の庭でよく遊んだ頃が懐かしい。
前世の記憶は、さっき倒れた時によみがえった。
私は百合という日本人女性だった。
沙羅に勧められてプレイした恋愛ゲームと同じ世界に転移したようだ。
「ここにいるということは、死んだのかしら?
定番のトラックにはねられた記憶もないし、
特に寝不足続きという訳でもないし、何で死んだんだろう?
それにしても沙羅との約束、守れなかったな。
映画、楽しみにしてたのに」
そう言ってふと首を横に向けると、窓から仲が良さそうなカップルが見えた。
「優里に告白しておけば良かった」
私はいつからか優里が好きだった。
告白を考えたこともあったけど、どうしてもできなかった。
幼い頃から一緒だった三人の関係性が壊れるのが嫌だったから。
こう考えるとやりたいこと、しておけば良かったことが次々と浮かんできた。
何回目かのため息がこぼれた。
こうしていても仕方ないので、リリーとしての記憶をたどってみた。
確かに幼い頃は王太子殿下と公爵令息の二人とよく遊んでいた。
「あ、でもどうしてかしら?」
たどっていく中で不思議に思うことがあった。
私は王太子殿下を好きではなかった。
王太子殿下が婚約者になったのは、釣り合いの取れる女性が私だけだったから。
普通なら王子の生まれる頃は、貴族の子供が増える。
男の子なら側近に、女の子なら妃にするためだ。
けれどヒロインの母も罹った流行り病。
これが貴族の間でも広がり、猛威を振るった。
そのせいでこの年頃の子供が少ないのだ。
私はたまたま領地におり、感染を免れた貴重な存在だった。
そう考えると考えられることは一つ。
「ゲームの強制力かぁ」
最近小説によくでるこの言葉。
異世界転生して流れを知っているので避けるために行動を起こす。
にもかかわらず、イベントが起きたり、行動したりするあれ。
「私、どうなっちゃうのかなぁ。
悪役令嬢の最後って出てこなかったのよね」
目の前のドアが突然開き、公爵令息が部屋に入ってきた。
「っ!!!」
なぜ彼がいるのだろう?
目の前にいる彼は銀の髪と碧い目をしている。
でも、彼だ!
黒い髪と目をした日本人。
そして私の大好きだった人。
目の前の彼は、確かに見た目は全然違う。
でも分かる。
婚約破棄されたときは気が付かなかったけど、優里だ。
「やっと言える。
百合、俺と一緒に生きていかないか?
結婚してください」
結局、私は身分剥奪という処分になった。
そして今は自ら平民となったユーリと一緒に暮らしている。
彼は入学と同時に前世を思い出したのだそうだ。
リリーが百合であり、ヒロインをイジメる私止めようとしてくれていたそうだ。
ただゲームの強制力があり、手も足も出なかったらしい。
「でもそうなら、ゲームが終わった後がチャンスだと思った。
で、父親に全てを話して協力してもらったんだ。
公爵令息としては失格だけど、リリーを諦めることなんてできなかったから」
照れくさそうにいうユーリが可愛い。
「本当に大丈夫なの?
この世界はゲームとは言え、生きてる私たちには現実でしょ。
お父さんは反対しなかったの?」
「あぁ、はじめは信じてもらえなかったし、反対された。
けど、ゲームの内容から交渉材料を見つけてさ。
何とか説得したんだよ」
病気が流行るタイミングや我が国が誇る小麦の不作、その他色々。
ゲームでさらっと語られていた情報をうまく利用したらしい。
ていうか優里、結局ゲームをダウンロードしたのね。
「でもほんと良かった。
ヒロインが王太子殿下を選んでくれて。
これがもし俺ルートなら俺は強制力に勝てずヒロインと結婚。
リリーを救えなかった。」
そう言えばこのゲーム、悪役令嬢の最後が描かれてなかった。
沙羅の見解はどうだったんだろう?
「悪役令嬢の最後?
恋愛ゲームの悪役令嬢って結構人気でね。
次回作のヒロインか何かにしようと思って、最後を書かなかったんじゃない?
あわよくば次回の作品の冒頭で語るとかさ。
ま、そのおかげで最後の最後で強制力から逃れられたから良かったよね。
なのでヒロインに感謝だわ」
目の前で隣人の女性が笑う。
「ほんと、そうね。
おかげでもう会えないと思ってたのに会えた。
ヒロインに感謝しなくちゃ。
ね、沙羅」
前作を読んでくださった方、
評価してくださった方、
いいねをくださった方、
ブックマークしてくださった方、
そして今作を読んでくださった方、
皆様ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
思ったことを言葉にして表現するって難しいですね。
うまく表現できていればいいのですが。
また作品を投稿出来るよう、頑張ります。