6/67
荒唐無稽に至る力
「君のやさしさが力になる。虚無に至る荒唐無稽だからこそちからがゆるされる。さあ、眼を閉じて。ステッキを握って。閉じた目の裏側に模様がおどる。閉じた目の暗闇のなかに君のやさしさが咲かす花がある。君はその名を知っている。いつだってそばにある。これからも、これまでも。今だって。
さあ、名前をよんで」
幸は思い出す。昼よりも夜が好きなこと。夏よりも冬が。晴れた日に雲を見たこと。屋根をたたく雨音。朝の冷えた空気のにおい。風にゆれる蕗。歌声とピアノ、ギター。音の振動。
名前は……。