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戦果

 食事の匂いに釣られたのか、ラングが元気に起き上がったので取りあえずは一安心。とうことで、スノウ、ローズさん、ラングと一緒に食事を取って人心地つく。すると、待ってましたとばかりにスノウが口を開いた。


「それでマツロウ。そっちの赤いののことだけれど。戦闘力が明らかにエピッククラス。それにしては例によって精神拘束具を付けているようにも見えない。これは本当に貴方の召喚獣?」


 今まで何も問わず食事を取り終わるまで待ってくれていたのは、むしろ我慢強いと言えるのかも知れない。いや、相当ソワソワしていたし、自分はとんでもないスピードで食べ終えて、せき立てるような視線を延々と送り続けていたけどな。めっちゃ至近距離で。そんなことを思いながら答える。


「うむ。召喚獣というより配下と言った方が適切だが……まあ良い。今この場においてはそちらの方が誤解を生むかも知れないので、その限りにおいては許そう」


 人型を召喚獣と呼ぶのは何となく抵抗感がある言葉のチョイスなので、少しばかり文句を付けておく。そして、視線でローズさんを促す。察しの良いローズさんは滞ることなくそれを受けて半歩進み出た。


「配下のローズじゃ。よしなに。ではおさらばじゃ」


 優美に扇を広げて口元を隠しながらそう自己紹介すると、扇から隠し刃が飛び出した。その凶器の放つ禍々しさに一瞬呆けるが、慌てて止めに入る。


「ちょ、ちょっと待て! 何をする気だ。どうしてそうなる」


 俺に押し留められながらも、どいてそいつ殺せないと言わんばかりにスノウを凝視しているのがめっちゃ怖い。ヤる気じゃん。ヤっちゃう気じゃん。何この急展開。


「いや。儂、言うたじゃろ。主様以外に舐めた口を利かれたらくびり殺すと」


 ──言った。確かに言っていたけどそんなの聞き流してたよ! ああもう、またこんなエキセントリックなタイプだったよチクショウ! 常識人枠だと思ってたのに。

 一方スノウはというと、何やら首から下げたペンダントを握りこんで縮こまっている。ナチュラルに殺意を向けられて本気で怯えているようだ。反射的に助けて神様的な神頼みでもしているのだろうか。こう言ってはなんだがちょっと、いや、かなり意外な反応ではある。


「これは魔力で起動する特殊な爆弾。それ以上近寄ればこの部屋は吹き飛ぶことになる」


 違った。思いっきり臨戦態勢を取っていただけだ。微塵も怯えてなどいないどころかガン決まりの目で心中宣言してきやがった。何だこのスイッチの切り替えが早すぎるアマゾネス共。ここには頭バーサーカーな女しかいないのか。ラングなんかは状況が飲み込めず、困惑しながらキョロキョロしてるだけだってのに。俺と一緒に。


「ふん。魔力の扱いは一流のようじゃが、闘争においては素人よの。そこは自身のバイタルに反応して自動発動するとはったりを効かせるところじゃぞ。おぬしが指一本動かすより疾く早く、儂の扇は素っ首を刎ねておるわ」


「……その指摘は正しい。確かに私の生命活動が停止すると、この爆弾とは別に、家に仕掛けてある装置が作動して一帯が根こそぎ吹き飛ぶことになる」


 受け答えはズレてるけど脅迫が正しく機能する方に修正されちゃったよ。というか、何だそのオーバーキル。一帯ってどの程度の規模を指しているんですかね。想像するだに恐ろしい。


「面白いのう。それこそはったりか試してくれよう」


「待て! 頼むから待ってくださいローズさん。この世界の召喚について説明していなかったが、我とスノウの間に繋がっているパスを切るわけにはいかんのだ」


 思わずちょっと敬語が出てしまうぐらいには焦る。


「パス? すまぬが召喚術には疎くての」


 話を聞く気になったのか、目に漲っていた殺気が少しだけ弱まる。


「喚び出された者と喚び出した者との間で目に見えない糸が繋がっているのだ。生命維持的な意味で。そして、これが切れると我は元の世界へ強制送還される」


 ローズさんにはこれまでの経緯だけはザッと説明したが、スノウと話した召喚談義なんてほとんど省いているからな。もっと摺り合わせておけば良かった。いや、まあそんな時間はなかったんだけど。


「そうなのかえ?」


「それも運が良ければだ。悪ければ送還されることなく窒息死する。もっとも、我は元の世界へ還るつもりもないがな」


「……ふぅ。なるほどのう。──まあ、主様がそれを望むのであればここは引き下がろう。加えて御身を危うくしたこと、深く詫びよう」


「あ、はい。いや、うむ。分かれば良いのだ」


 俺の方はローズさんが何故そこまでキレ散らかしたのかいまいち理解出来ていないけどな。


「スノウとやら。モノを指すように儂を”赤いの”などとのたまうな。二度はない──と言いたいところじゃが、それでは主様の望まぬ結果になるのう。仕方ない。首を刎ねるのは我慢してやるが儂はそういうの、何度だって文句を付けるぞえ」


 なるほど。動機は分かったし意味も理解出来なくはないが、それにしたって沸点が低すぎるだろう……。


「分かった。ローズ。これで良い?」


「下郎め。貴人を呼び捨てとは何事じゃ。──いや、おぬし主様を呼び捨てにしておったな。主様も許容しておるようじゃし。仕方ないのう……バランスが取れぬからそれで妥協してやるわい」


 一応、俺を立てるのが第一らしい。それこそ歪なバランス感覚だなあという感想を無理矢理、胸の中にしまう。いつ爆発するか分からない爆弾をもう一つ抱えた気分だ。もう一つはどれだって? 目の前のリアル爆弾を持っているボンバーガールだよ。ストレスで泣きそうだ。いっその事、一回おろろんおろろんと泣き喚けば少しは気分が晴れるのだろうか。

 取りあえず、この空気をリセットするために話を進めることにするか。換気だ換気。


「ではこの件はこれで終わりとして話を戻すぞ。半信半疑だったがスノウが予測した通り、喚び出す触媒はこちらの世界の物でも良いらしい。それと、あの石は召喚と伴に消え失せた。まあ、我の召喚術は基本的に触媒を消費するものなのでこれは仕方ないだろう」


 返せと言われたら困るので後半を強調気味に。断じてパクッてなどいないと言外に告げる。


「確認だけれど、貴方が使っているクリスタルは普段は異空間に収納しているという事で合っている?」


 ドキリとする。そんな説明をした覚えはないが、これまでの所作からバレバレだったのだろうか。むぅ……誤魔化すか正直に話すかどうしたものか……。


「うむ。見た目からは想像出来ないほど大量のクリスタルを我は異空間に所有している。その所蔵量を目にすれば貴様など圧倒されてしまうであろうな」


 どうせ話すのであれば己の偉大さを誇示するのを忘れない。積み重ねね。これ大事。と、そこまで言って気付く。あれ、スノウのこの質問って石をパクッてないか疑ってたりしないよな? 異空間に隠したのではとか言い出すつもりでは。


「納得。手に取った瞬間に現れたように見えたのでクリスタルを召喚しているという線も疑っていたけれど、こちらはあまりしっくり来ていなかった。収納魔法というものが存在するのは非常に興味深い」


 良かった。只の自説の確認だったようだ。


「で、あれば、あの石を収納する事は可能だった?」


「いや、その場で召喚に使ったので分からないが。貴様も見ていたであろう」


「……何故……それを試してから……召喚しない?」


 知るかよ……。あの状況でそんなの試すわけないだろ。とは間違っても口に出さない。めっちゃ不機嫌な声色に気圧されてなんかいないんだからね。はあ、仕方ない。仮説だが分かる範囲で答えておこう。


「クリスタルはこの世界の物ではないからだろうが、我が手にすることで現界するようだ。現界と収納は別のプロセスということだな。そして、収納は現界している状態では出来ない」


 俺の召喚はゲームを援用したシステマチックなものだ。この場では異空間などと言っているが、正確には異次元、もっと言うと二次元の情報を取り出す際に三次元化しているようなものだと思う。分かりやすく言うと、バーチャルディスプレイに表示されているクリスタルを現物として取り出しているということだ。つまるところ、このお嬢さんが言っているのはその逆をしろという訳で。


「石、というかこの世界の物を収納するのは恐らく無理だ」


 そんなこと出来るわけがないという意識があるので、試すどころかその発想すらなかったが間違いないだろう。


「恐らく……。ではこの匙で試してみて」


 食い下がるな。いや、何でも実証しないと気が済まないってところか。まあ別に断る理由もない。興味が無いと言ったら嘘になるし試してみるか。


「……うむ。やはり無理だな」


 思った通り、収納なんて出来る気配がない。ですよねーと言うしかない。匙を握りながらうんうん唸らされて、どこぞの自称念力者にでもなった気分だ。木製でも曲がったりするんだろうか。ちなみに、クリスタルであればディスプレイの数字に戻すことは可能だ。ストックしているカードも普段はディスプレイ上のバインダーに収まっていて、出し入れ自由だ。


「なるほど。これはクリスタルとこちらの世界の物質では如実に違う性質を持っているという示唆。それなのに、触媒としての質はこちらの世界の物質である、泉の石の方が上回ったとは……興味深い。触媒に必要なのは属性よりも秘めた魔力量の方が重要なのかも知れない。と言うことは、魔力量の多い物質であればあるほど強力な召喚獣を呼べるのでは」


 まあガチャというシステム上、ある程度はその考えで合っているが何処まで行っても最後は運なんだけどな。レアリティ3以上確定チケットを貰ってもしょっぱいレアリティ3しか当たらない事の方が多い。一発でレアリティ5を引くなんてのは本当に稀なことなのだ。

 そして、ドラモンにレアリティ5確定チケットなんて気の利いたものはない。しかも高レアは確率が渋いので無課金には修羅の世界なのだ。いや、課金してしまえる分、廃課金にとっても辛く、資金がゴリゴリと減っていく羅刹な世界とも言えるが。


「今までそういう認識はなかったのか?」


 魔力量が多ければ多いほどいい、という発想がなかったというのはさすがに不自然なのではと思って問う。


「こちらの世界の召喚術では属性が重視されている。魔力量に関しては、レアな属性は強い魔力を有している事が多いという副次的なものでしかない。実証結果も豊富なのでこれを疑う余地はない」


「主様の召喚術に関しては違うのでは、といいたいわけじゃな」


 ローズさんの言葉にスノウがコクリと頷く。ああ、俺の召喚術に限っての話か。


「ローズに問う。貴女は何故、無条件でマツロウに従う?」


 声を掛けられたから丁度良いと言わんばかりな唐突さだな。……しかし、俺としてもわりと気になっている点ではある。出来るだけ自然に追々確認していこうと思っていたので、余計なことを言うなという気持ちと、話の流れ次第ではすんなりと確認出来て都合が良いなという計算の間で揺れ動く。

 ローズさんが視線でどうするか問うてきたので頷き返す。少し悩んだが、ここはやはり後者に期待したい。


「答えてやるがいい、ローズ」


 いや、無駄に偉そうだな俺。……しかし、どう答えるかちょっとドキドキするな。


「ふぅむ。さてはて、しかしこれは案外難問じゃなあ。何故と問われると正直なところ分からん。無理矢理言語化するのであれば、仕えるのが当たり前と思っている、と言ったところかのう?」


 ……やっぱりそんな感じか。予想はしていたしそれを期待してもいたのに、何故かちょっとショックを受けている。俺は何て我が儘な奴なんだろう。

 そんな俺よりも遙かにショックを受けているらしい奴がいた。スノウだ。


「…………マツロウ。これは貴方の召喚術固有のもの? それとも、貴方の世界ではそれが当たり前なの?」


 その僅かに震える声には、畏敬と共に怨念が籠もっているように感じられる。目のハイライトが消えていてめっちゃ怖い。瞳孔開いてないですかこれ。え、これどういう感情?

 こういう顔にどう対応するのが正解なのかは全く分からないが、幸いこの質問に対する答えは決まっているので悩むことなく答えた。


「もちろん、我のみが持っている固有能力だ。そもそもこの召喚術自体、我しか体得しえぬ絶技に他ならぬ」


 開発者の皆様ごめんなさい。一見するとドラモンは俺様が作った発言のように見えるけど、実のところオリジナルを主張しているわけではないので、よく見て発言の意図を把握した上で見逃して下さい。でも自身はオンリーワン的な存在だと主張しないといけない相手が俺にはいるんです。どうかご了承の程よろしくお願いいたします!


「…………なるほど。納得した。やはりこれからも協力して貰う。絶対に逃がさない」


 あの、ローズさん。スノウの声が残響音を伴っているのは俺の幻聴でしょうか。誘導通りとは言え、効き過ぎた感があって怖いんですけど。助けてラング。

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