「デートに行こう!」
「ニア、おはよう。今日も可愛いな」
――マヌと結婚して一週間ほど経過している。マヌは、にこにこ笑いながら私に向かって笑いかける。
屈託のない笑みで……、相変わらず私のことを大切にしているという視線を向けてくる。
その視線が恥ずかしいと同時に嬉しいと私は思っている。
マヌは結婚したばかりだからって、お仕事にお休みをもらっているみたい。
その期間が終わったらマヌはお仕事に行き、屋敷に居ないことも多くなるのよね……って、何を寂しがっているのだろうかと自分で驚く。
マヌに嫁いでくる時、きっと私をお嫁さんにして喜ぶ人なんていないし……ってそんなことばかり思っていたのに。マヌに大切にされているからといって……、こういう気持ちになるなんてと自分で驚く。
でもそれだけここでの暮らしがとても穏やかで優しいものだから。
私はマヌに可愛いと言われても、なんだか受け入れらなくてよくそっぽを向いてしまう。可愛くない態度だと思うのに、マヌは私に向かって可愛いなんて言って笑うのだ。
可愛い可愛いなんてそんな風に自信にあふれた目で言われたら私が本当に可愛いみたいに勘違いしてしまいそうになる。
だからやめてほしいと口にしても、「本当に可愛い」なんて言ってくるのだ。
「なぁ、ニアはこの部屋に飾る花は――」
マヌは、私に沢山話しかけてくる。
私はそれに対して短い言葉でしか返事をしなかったりするのにマヌは楽しそうにずっと私に話しかけるのだ。私にそんな風に話しかけて何が楽しいのだろうかと思うことも多い。それでもマヌは多分、私との会話を楽しんでくれている。
実家に居た頃、私に好んで話しかける人なんていなかったから凄く不思議な気持ちになる。
この屋敷の人たちは、私に向かって笑みを浮かべてくれる。そして私自身のことを見ようとしてくれているようなそんな感じがして、むず痒い気持ちになる。マヌが私との結婚を喜んでくれていることは分かったけれど、本当にこの屋敷の人たち全体が私を受け入れようとしてくれているかは少し半信半疑だったりする。
「……ねぇ、マヌはもう少ししたら休みが終わるのよね?」
「ああ」
「……その間、私は何をしていたらいい?」
こんなことを聞いてしまったのは、私自身が騎士の妻として何をしたらいいか分からなかったから。
どうせ政略結婚だから大人しくするように、目立たないようにするだろうなって。
結婚相手と良い関係なんて築けないだろうなって私はずっとそう思っていたから。
だけどマヌは私に何かを強制することなんてない。マヌがずっとそばにいてくれたから、私は何をしようかなんて悩むことはなかった。
だけれどもいざ、マヌが仕事に行って私の傍に居ない時に私は何をしたらいいのだろうかと分からなかった。
「なんだ、ニア、寂しいのか?」
「なっ、さ、寂しいなんて言ってないわ。今まで貴方が傍に居たから何をしていいかなんて考えなくてよかったけれど……。貴方がいないからといって下手なことをするわけにはいかないでしょ。だから聞いているだけよ」
「そうか? 俺はニアと離れるの寂しいけどな。仕事に行きたくないぐらい」
「な、なにをバカなことを言っているのよ」
「本心だけど」
……どうしてこの人はこう、恥ずかしいセリフがすらすら出てくるのかしら。
私は聞いているだけでも恥ずかしいのに。嫌じゃない自分にも照れてしまいそうになる。
黙り込んだ私に、マヌは言う。
「ニア、デートに行こう!」
「はい!? 突然、何よ」
突然、デートに行こうなんて言われて私は驚いてマヌを見る。マヌはにこにこ笑いながら私を見ている。
「俺が寂しいから。ニアとデートに行けたら、もっと仕事頑張ろうって気になるし。何より俺がニアとデートに行きたい!」
「……そ、そんなに行きたいの?」
「ああ。行きたい! ニアを沢山着飾らせたいし、知り合いに俺のお嫁さんだって自慢したい」
「え、いや、私は自慢できる嫁なんかじゃないでしょう……」
「なんで? 俺が可愛いって思っているから自慢するのは当然だぞ。ニアも俺のことをどんどん自慢してくれていいからな」
「……私に自慢されたいの?」
「ああ。ニアが俺をかっこいいって思ってくれたらそれは嬉しいからな。それにニアは俺と結婚してから新しく物を買ったりしてないだろ? 俺はニアにいっぱい買いたいぞ」
にこにこ笑ったマヌにそんなことを言われる。
特に何が欲しいとか確かに口にはしていなかったけれど。マヌはなんだか私に色々買いたいらしい。
私みたいな『呪われた令嬢』がデートなんてと思ったけれど、結局満面の笑みでデートに行きたいときらきらした目で見られると頷いてしまった。
本当に私とデートしたいって思ってくれているのが分かるから、ついつい頷いてしまうのだ。
でも頷いた後思った。
私って、デートするのは初めてだ。




