「可愛かったぞ!」
目を覚ます。
そして自分が何も身に着けていないことを実感して思わずぼっと顔が赤くなる。
し、しかも隣にマヌがいるのよ。
気持ちよさそうに寝ているけれど、わ、私昨日夫婦の営みをしたのよね。
世の中の夫婦は皆、こういうことをしているってことなのかしら。
なんだか、私のことを可愛いだとか言っていたけれど……、本当にマヌは私にそんなことを思っている?
私はずっと、私みたいなのを受け入れる人なんているはずがないって思ってた。だからマヌが本当に私のことを受け入れていたり、私のことを好いていてくれていることなんてありえないって思っていた。
だけどマヌは二人っきりの場でも私に対する態度が一切変わらなかった。それどころか本当に私のことを受け入れているみたいで……。本当に? とマヌの寝顔をまじまじと見る。
本当に気持ちよさそうに寝ている。
私が隣にいると知っていて、こんな風に眠っているということは私のことを信頼しているということでもあるのかもしれない。だって寝ている状態というのはとても無防備な状態だから。
この人が私の夫になったんだよね……とじっと見ていたら、マヌの目が開いた。
見ていたことを知られることがなんだか嫌で、つい視線を逸らしてしまう。私がそっぽを向いても、マヌは全く気にしない様子で私に向かって笑いかける。
「ニア、おはよう」
「……おはよう」
なんでこの人は昨夜、あんな風にしたのに……恥ずかしがりもせずに私に向かって笑いかけるのだろうか。私は正直思い出すだけで恥ずかしくて、マヌの顔が見れないのに。
私は全然マヌの顔なんて見れなくて、視線を合わせられない。
「ニア、どうしてこっちを見ないんだ?」
「……は、恥ずかしくて。何で貴方は普通なの?」
「恥ずかしがっているのか? 可愛いな」
「か、可愛いって」
「昨日も凄く可愛かったぞ!」
顔がどんどん赤くなるのが分かる。
マヌは楽しそうに笑っている。
「マヌは……」
「なんだ?」
「……わ、私と結婚して良かったって本当に思っているの?」
恐る恐るそんなことを問いかけてしまった。
問いかけた後に、どうしてそんなことを聞いてしまったのだろうかと不安になる。
こういう問いかけをしてしまったのは、私がマヌに結婚して良かったと言ってほしいと期待してしまっているからに他ならない。
私は……どうせ演技だろうって思っていたくせに、すっかりマヌに絆されてしまっているのだろう。
裏切られてしまったら、後から冷たくされたら……私はショックを受けてしまうのに。だから期待しない方がいいのに。
「当たり前だろ? ニアが奥さんになってくれてよかったと心から思っているぞ」
――そう言い切ったマヌは、晴れ晴れとした笑みを浮かべている。
その言葉は真実なのだろうと、私の心に沁み込んでいく。そうすると、何だか泣きそうになった。
悲しいわけじゃなくて、心が温かくなって。
嬉しいと、そんな風に私は思ってしまっているのだ。
「ニア!? どうした?」
「……嬉しいって思っているだけだから、気にしないで」
「そうなのか?」
「うん。……わ、私も会ったばかりだけど、マヌと結婚出来て良かったって思っているわ」
「ニア!」
「ちょ、ちょっと、だ、抱きしめないでよ。わ、私も貴方も何も身に纏ってないのに」
抱きしめられて驚いた。
マヌは私が抗議したら離してくれた。
「あ、あのマヌ」
私はこっぱずかしい気持ちになりながら、マヌに話しかける。
そんなに嬉しそうな顔をしているマヌから視線を逸らしながら私は言う。
「えっと、マヌ。今はね、私と結婚してもよかったって言ってくれているかもしれないけれど、あの、他に結婚したい人とか出来たら言ってね」
マヌは多分、本気で私と結婚して良かったと言ってくれている。
それでもいずれ、心変わりがすることもあると思う。王侯貴族の中では愛人を作る貴族も多いから。
……いざ、マヌが誰かと結婚したいって言い出したらどういう気持ちに私はなるだろうか?
でも先に言っててもらえたらまだ身構える事が出来ると思う。
こういうことを結婚してすぐに言ってしまうのは、やっぱり私自身が自分に対しての自信がないからなのかもしれない。
私は今はそんな風に言ってくれていても、ずっとそう言ってくれるとは思えないから。
「俺は奥さんを大事にするつもりだから、ニア以外は見ないぞ?」
「……だって人の気持ちは分からないでしょ? だから、その……そういう時があったら事前に言ってほしいなって」
「そんなことはないだろうけど、ニアがそう言うなら。ニアも俺に嫌なところがあったらどんどん言えよ。あと、ショックだけど好きな人が出来たとかも」
「え、いや、私はないわよ。私のことを奥さんにしたいなんて言うの、マヌぐらいだし」
私に対してそういう風に言ってくる人なんていないと思うのに、私にまでそんなことを言ってくる。
そうか……。マヌは本当に私が『呪われた令嬢』だとか言われているとか関係なしに、私のことをただの女性として見てくれてるんだ。だからこそ、そういうことを言ってくるんだなってそう思った。
私はそれを実感して、小さく笑ってしまった。