「俺はしたいぞ!」
「ふぅ」
結婚式が終わり、私は案内された部屋に入る。
そこは夫婦の寝室というものである。
……別に、本当の夫婦になるわけでもないのだから部屋は別々のままでいいと思うのだけど。
私みたいな『呪われた令嬢』と初夜をしたがる人なんてきっといないものね。そもそも私、貴族令嬢ならばされるはずの初夜についての知識とか、教われてないのよね。
私のようなものと初夜をする人はいないって両親が思っていて、私のことを放っておいたからというのもある。
私もそう思っているので……、まぁ、結婚はしたわけだけどマヌは寝室には来ないのではないかしら?
それから寝室に来ても私に手を出すなんてきっとしないでしょう。
そう思っているので、のびのびとベッドの上で寝転がっている。夫婦用の寝室のベッドは、二人で眠ることを想定されているからか、とても大きい。とてもふかふかで、寝転がっているだけで幸せな気持ちになる。
この辺境にやってきてから、環境がとてもよくてこういうまるで夢のような気分に私はずっとなっている。だって私がこんな風に穏やかに過ごせていることなんて今までなかったから。なんだか、不思議な気持ちで自分が結婚したなんてやっぱり実感が湧かない。
そんなことを思いながらベッドに寝転がっていたら、ガチャと扉が開いた。
入ってきたのはマヌであった。
……わざわざ結婚したからといって、私の居る部屋に顔を出すあたり本当にこの人は何なんだろうって理解出来ない気持ちになってしまう。どうして私のいる部屋にこうやって顔を出したんだろうか。義理? 夫婦に仮にもなったから、そうしなければいけないって思ったから?
そんなことを気にしなくてもいいのに。私とマヌは契約として結婚をして、それでもう公爵家に対する体面は保たれているのに。
「マヌ、どうしてきたの?」
「どうしてって、俺たちは夫婦になったんだろ?」
「……そうだけど、どうせ私と本当に夫婦関係になるわけではないでしょ? 別に周りからどう思われてもいいのだから、元の部屋で寝たら?」
私はそうするのが当たり前だと思っていた。
だって私は『呪われた令嬢』だから。そういう風にずっと言われてきたし、私もそうだと思っているから。
だから……私にとっては何気なく言ったことばだったのに、なぜだかマヌはショックを受けた表情をする。どうしてそんな表情を作るんだろう?
「マヌ、無理しなくていいのよ? マヌだって私みたいな『呪われた令嬢』とは本当の夫婦になんてなりたくないでしょ? マヌが表面上はそんな風にしていたとしても、流石に私と夫婦関係になるのは難しいでしょ? だから二人きりの時は無理せずに、本音を口にしていいのに」
マヌは取り繕える人なのだと思う。
私が幾ら『呪われた令嬢』と呼ばれていてもちゃんと喜んでいるふりをするし、私のことを妻として尊重しようとする。でもそういう風に無理をし続けたらマヌだって疲れると思う。私と二人っきりで居る時ぐらい、そういう無理はいらないと思う。
何故か、マヌもこの辺境の人々も私に対して優しい。マヌのことは意味は分からないけれど、嫌いではない。だからこそ無理はしてほしくはないなとは思っていた。
「どうしてニアはそんな風に思っているんだ? 俺はニアと夫婦になったんだから、ニアと夫婦らしくあるのは当然のことだろう? それに何で、俺が無理しているっていうんだ?」
「だって、私は『呪われた令嬢』って言われているのよ?」
「だから、ニアは呪われていないって言っているだろ? そもそも俺はニアのことを可愛いと思っているし、ニアが奥さんになってくれて喜んでるぞ?」
「……だ、だからそんな無理はいらないの!」
思わずそう反論してしまう。
……どれだけ信じないんだって思われるかもしれないけれど、それでも私はこうやって二人っきりでもマヌが演技をしているんじゃないかってそんな風に思ってしまう。
それに後から本性を現されるよりも、今の内から私のことを忌避する気持ちがあるのならばそれを早く先に出してほしい。そうじゃないと……あとから発覚したら悲しくなってしまうから。
「無理じゃないし、俺は普通にニアと夫婦になりたいと思っている。というか、そのつもりで此処に来たから断られるとショックだぞ!」
「はい!?」
な、何を言っているの。
それって私とそういう行為をしたいって言っているように聞こえるのだけど。
顔がぼっと赤くなるのが分かる。だ、だっておかしいじゃない。そんなことを言うなんて。
じょ、冗談よね?
「そ、それって私と夫婦の営みをしたいって言っているように聞こえるのだけど……」
「俺はしたいぞ!」
「なっなななな、そ、そんなこと堂々と言わないでよ」
「顔が赤くて可愛いな」
「……そ、そんなことは言わなくていいの! ほ、本当に本気で言っているの?」
「もちろん。大体夫婦なんだから当然だろ? ニアは嫌なのか?」
「……え、っと、い、嫌ではないです。はい。で、でも……わ、私そういう知識とか全くないのだけど、その」
「別にそれで問題ないだろ。俺も初めてだぞ! それでいいか?」
「……あ、はい」
マヌの勢いに押されてそのまま頷いた私は、そのまま抱かれた。