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「嫁になるんだから、口づけするのは当然だろ」

「……今日、結婚するのよね」



 私は朝、目が覚めてベッドの上でぼーっとしながら不思議な気持ちでいっぱいになっている。

 この辺境にやってきて一週間が経った。

 本当に、何でか分からないけれど、此処の人たちは私のことを笑顔で受け入れていて……、何だかふわふわしたような……現実味のないようなそんな気持ちになって仕方がない。



 あの人……マヌだって、私と結婚するのが嬉しいなんて言っているけれど、それが本当なのかと私はずっと疑っている。

 だって私みたいな『呪われた令嬢』を娶ることを喜ぶなんておかしいもの。



 結婚するまでだけ釣った魚に餌をやるというそういうことなのだろうか。今だけこうやって私に対して、優しくしているだけなんじゃないか。

 


 そんなことを思いながらぼーっとしていたら、部屋がノックされる。



「もう起きていらっしゃったのですね! 今日は結婚式ですから沢山おめかししましょう! 奥様を旦那様が見惚れるぐらいに」


 ケイジンダがそんなことを言いながら他の使用人も連れてくる。



 そして私は朝からお風呂に入り、身体を綺麗に清める。

 さっぱりとした後に、化粧を施される。直接私の顔に触れているわけではないけれど、こうやって至近距離で化粧を施すなんてそんなに経験がないから不思議な気持ちになる。

 ウエディングドレスは流石に一人で着られなかったので、少しだけ補助してもらった。あとは辺境伯夫人と義姉からもらったアクセサリーを身に着ける。



 ――鏡の前に立って、何だかまた不思議な気持ちになった。



 だってこんな風に、着飾ることなんて今までなかったから。

 それにしても……私の顔のブツブツを、少し薄くしている。まぁ、すぐに完全に隠すことは出来ないものだけど。

 白いヴェールを被っていて、何だか本当に……結婚する花嫁みたい。


 本当に結婚するの?

 と、私は疑心暗鬼が抜けない。


 それに適当に終わると思っていた結婚式だったから、こういう綺麗な恰好が出来ると思っていなかった。

 だから何だかやっぱり他人事のような気持ち。




 私はその恰好のまま、馬車に乗って教会へと向かわされる。

 近場の小規模な教会で私たちの結婚式は行われるらしい。

 ちなみにマヌは同じ馬車に乗っているのだけど、私を見て「綺麗だな」とにこにこしていた。



 マヌは私と結婚することに本当に異論がないのだろうか? そう思いながら向かいに座るマヌのことを見る。

 にっこりと笑われる。……出会ってから一番の笑顔な気がする。

 



「ニア、どうした?」

「……マヌがあまりにも笑っているから、不思議だと思っているだけよ」

「結婚式だろ? めでたいことだし、嬉しいことだろ?」

「私とでも?」

「ニアとだから余計に嬉しいんだろう?」

「あ、貴方は本当に……」



 そう言いかけて私はぷいっと横を向く。

 だって、そんなことを言われると驚いてしまうもの。それに……嘘かもしれないけれどそういう言葉を言われることは嬉しいことだから、少しだけ恥ずかしい気持ちにもなっていたから。



 そっぽを向いた私の耳に、マヌの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


 そうやって馬車に揺られていると、教会に辿り着いた。参列者が少ないのは、私に配慮してなのかなと思う。マヌたちが私を受け入れている風なのはともかくとして、普通は私に対して嫌悪の感情を抱く人の方がずっと多いもの。


 辿り着いた教会で、神父は私を見て一瞬表情を変えたけれどその後笑みを浮かべた。

 この辺境の地は出来た人ばかりだと思う。社交界の場では私を忌避するのは当たり前という風潮が出来上がっていたのもあって、妹も含めてもっと顔に出していたものね。



 神父の前に、私とマヌは立つ。


 本当にこれから結婚するのよね。そう思うと何とも言えない気持ちにはなる。



 それにしてもマヌは私を愛することを誓いますかって言葉にも、全然躊躇いがなくて驚いてしまう。なんでこの人、こんなに私なんかと結婚する気満々なのかしら……? 

 

 そして誓いの口づけを求められる場がやってきた。

 ……どうせ離れた席からは見えないので、口づけしたふりをするのかなと思っていた。それかマヌが我慢して軽く口づけするとか……だけど、がっつり口づけされた。



「!?」


 思わず変な声が出そうになった。

 なんで『呪われた令嬢』である私に普通にく、口づけなんてしているのよ。だってそういう行為はとっても特別な物でしょう。私に口づけなんてするなんて正気の沙汰ではないわ!




 参列者であるマヌの親族たちからお祝いされたわけだけど、ほとんど頭に入ってこなかったわ。



「マ、マヌ。私に、なんで口づけなんかしたの?」

「嫁になるんだから、口づけするのは当然だろ」



 式が終わった後に帰りの馬車の中で問いかけたら、当たり前みたいにそんなことを言われた。



「で、でも私みたいな『呪われた令嬢』に口づけするなんて正気じゃないわ」

「ニアは呪われてなんかないし、口づけしたかったからしただけだから俺は正気だぞ? なんならもっとしたい!」

「ば、バカなことを言わないで!」



 私はマヌの言葉にそう叫ぶのだった。







 

 

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