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「結婚式が楽しみだな」




「ニア、目が覚めたか!」

「……ええ」


 目が覚めた私の部屋に元気よく入ってきたのは、マヌである。

 私の事可愛いだとか、結婚したら楽しそうだとか、皆歓迎しているとか色々わけのわからないことを言われてそのまま気絶してしまった。


 ……辺境の地は中心部より魔物も多いと聞くし、このくらいで気絶するような女ふさわしくないとか言われるのだろうかと後ろ向きな考えに陥る。いや、まぁ、そもそも私を歓迎しているなんておかしな話なのだけど。


 目の前のこの人は、本当に何を考えているのだろうか……。




「ニア、体調は大丈夫か? やっぱり長距離移動をして疲れているんじゃないか?」

「だ、大丈夫よ。それより、近づかないで」

「どうしてだ?」

「そ、そんなしゅんとした顔してもダメなの!」



 どうしてこの人はこうやって、私に近づこうとしてくるんだろう。

 どうしてそんなにしゅんとした顔をするのだろう。なんだか私が悪いことをしているような気持ちになる。なんというか、いいわよって言いたくなるというか。

 いや、そもそも『呪われている令嬢』を触っちゃダメでしょ。それに私も落ち着かないし……。




「母上たちも心配して来ているからな」

「え、来ているんですか? じゃあ、起きないと」

「そんなに慌てなくていい。母上たちはそんなの気にしないぞ」



 私は慌てているけれど、マヌは嬉しそうににこにこと笑っている。

 慌てなくていいと言われたけれど、待たせるわけにもいかないので私は立ち上がってマヌの母親が待つ場所へと向かった。

 そこに向かいながらマヌに聞いたけれど、父親の方は今日は来ていないみたい。でもマヌの兄夫婦は来ているんだとか。

 ……初対面の相手が多いのは正直、気分が沈む。元々『呪われた令嬢』と呼ばれていた私相手に、良い感情を向けてくる相手なんて全然いないのだ。


 マヌたちはなんか、異様に私を歓迎している風に装っているけれど……。

 そんなことを思いながら挨拶に向かったのだけど、何故か初めて会うマヌの親族たちも私をにこにこと笑って受け入れる。





「娘がもう一人出来て嬉しいわ。結婚式ではどんなアクセサリーを身に着けたい?」

「えっと、なんでも……」

「あら、ダメよ。人生に一度のものだもの。ちゃんとしないと」



 人生に一度なんて言うけれど……、私は離縁されるのでは……? って正直思ってるのだけど。

 この人たちの態度はそういう風に見えないけれど、そんなことないわよね。

 だって信用して、それで裏切られた時が怖いから。



 だから簡単に目の前の人たちが本当に私を受け入れているなんて思えない。前に私で賭け事をしていた人もいたものね。私をだます賭けみたいなの。罰ゲームで『呪われた令嬢』に触れるみたいなのもあったもの。

 ああいうのを思いつく人って本当に子供っぽいわ。


 結局ちゃんとアクセサリーは選ばなきゃと言われて選ぶことになった。なんでもいいと思うけれど。



 マヌの兄夫婦の二人も、特に私に嫌な顔はしなかった。どちらかというと、義姉になる方は私に対する同情みたいな気持ちはあるみたいだった。そういう視線もあんまり向けられることなどあまりないので、私は何とも言えない気持ちだ。


 マヌの兄は「女性陣で積る話もあるだろう。マヌ行くぞ」と言って、マヌを連れて行っていた。マヌは「え? 俺もここにいる」と言ってたけど、マヌの兄に連れて行かれていた。


 女性同士だと何らかの本音が出るものじゃないかしら。

 息子たちの前だからこそ、にこやかにしていただけかもしれないもの!


 そう思いながら何を言われても想定内だから、受け入れましょう。

 意気込んでマヌの母親の辺境伯夫人を見る。




「ニアミレッラさんは色はどんなものが好きかしら? 何か苦手なアクセサリーとかあるかしら?」


 だけど、にこやかに笑いながら辺境伯夫人はそう告げる。



「私はネックレスとかつけるの好きだから、私のも貸してあげられるわ」


 義姉もそういって笑いかけてくれる。



 ……えっと、どうしてこうやってこの人たちは私に笑うのだろう。どうしてアクセサリーを選ぼうとしているのだろうか。




「えっと……特に好きな色とかないです。アクセサリーもあんまりつけたことないですし」



 正直私は好き嫌いを考えられるほど、色んなものに触れていない。最低限の社交界でも好きなアクセサリーなどつけたこともない。今回嫁いでくるにあたって身に着けているものも自分で選んだものではないから。

 どんなものでもいいって思っている。

 



 そう言ったら二人は目を瞬かせて、その後、「じゃあ好きなもの探しましょう」などといって沢山のアクセサリーを持ってきた。それからああでもないこうでもないとアクセサリー選びをすることになった。

 本当にどれでもいいと思っていたけれど、二人は私の意見を引き出したかったみたいでなんとか選んだ。


 こうやって自分で選ぶのって結構疲れるなと驚いた。




 そのアクセサリー選びが終わった後、マヌが元気に私のもとへとやってきた。

 私が辺境伯夫人たちとアクセサリーを選んでいる間に、鍛錬をしていたみたい。良い運動をしたと満面の笑みのマヌは、身体を動かした後だからかすっきりした顔をしている。




「結婚式が楽しみだな」



 少しずつ結婚式の準備が進むことが嬉しいといった様子でマヌはそう言って笑っていた。




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