「今はもっと可愛くなった!」
「ねぇ、マヌ。あれを見て。大きな鳥が飛んでいるわ」
「マヌ、湖がとっても綺麗だわ」
「まぁ、商人たちが街道で商売をしているわ。何を売っているのかしら?」
馬車に揺られながら、実家の領地を目指す。
私は馬車の外をきょろきょろと見まわしては、マヌに向かって沢山話しかける。
なんだか、不思議な気持ち。
マヌに嫁いでくるまでの馬車の中では、呪われている私を外の人が見ないようにって外を見ないようにしていた。それに暗い気持ちでいっぱいで外を見ることもあまり進んでしようとしなかった。
だけど今は……『呪い』がすっかりなくなって、マヌと思いを通わせられて、なんというか前向きな気持ちで外を見るのが凄く楽しい。
マヌが私の言葉を聞いて笑ってくれている。
屈託のないマヌの笑みを見ると、何だろう、毎回ドキドキする。好きだなってそんな気持ちでいっぱいになる。
マヌは街道沿いで商売をしていた商人を呼び寄せた。
マヌが「妻が何を売っているか気になっているんだ」と言えば、商人は目を輝かせて私に向かって商品の説明をし始めた。
……これだけ周りの人が、私を見ても普通の対応なのは『呪い』が完全になくなったからだろう。『呪い』が私の肌を覆いつくしていた時はそういう反応はなかなか見たことがなかった。
そう考えると、『呪い』があろうとなかろうとマヌは変わらないのだ。
最初から私のことを受け入れてくれて、今だって私の傍にいてくれて。
誰かと接するたびにマヌの素敵さを実感する。
商人の見せてくれたものの中に、赤いルビーの飾りがあった。
なんだか赤はマヌの色って感じがするもの。太陽みたいな明るい色が、マヌにはぴったりで私はその色を見ると嬉しい気持ちになる。
その飾りを見ていたら、マヌがそれを購入してくれた。
なんだかそれをもらっただけでとても嬉しい気持ちになる。
「ねぇ、マヌ。私、こんな風に笑顔で接客されるの、珍しいわ。『呪い』がなくなると、これだけ変わるのね」
見た目が全てではないと思うけれど、それでも見た目が変わればこんなに変わるのだなと不思議な気持ちになる。
なんだろう、ただ私の『呪い』がなくなったからと優しくしてくれて、笑いかけてくれる人だって――、また私の魔力が結晶化してぶつぶつが出来たら。何かの病気とかで、見た目が変わったら……多分、同じように疎まれるのだろうな。
私は前よりもずっと前向きになれて、明るくなれた。
だからもしこれから同じように『呪い』のようなものが出たとしても、昔とは違う状況にはなるかもしれない。
……だけれども、マヌのようにどんな私だって、変わらず受け入れてくれる人がいるって知っているから。
やっぱり私にとってはマヌが一番特別だと思う。
「『呪い』なんてあってもなくてもニアはニアだから、なんで態度変えるんだろうな」
「本当にマヌは、そういうところが凄いわよね。結局、見た目って凄く印象に残るのよ。特に周りから不気味だと思われるような見た目をしていたら……マヌみたいに笑って受け入れられる人なんて少ないのよ」
私だって、自分がそういうことで苦労していても――、何かしら、見た目が他と違う人を見たら怯んでしまうかもしれない。私自身がもし仮に普通の令嬢だったのならば、同じように忌避したかもしれない。
そう考えると、本当にマヌは素敵だと思う。
「ねぇ、マヌ。私はそんな貴方だから、貴方が好きだわ。私の『呪い』が解けても、解けなくても――笑いかけてくれて、可愛いって言ってくれる貴方だから大好きだってそう思うの」
他の人を知れば知るほど、やっぱりマヌのことが好きだと思う。
だってマヌは初対面の時から、私のことを可愛いって屈託のない笑顔で言っていた。その笑みも、その態度も――変わらない。
私は自分が『呪われた令嬢』だから、こんな見た目だから誰も私を受け入れてくれるはずがないなんてそんなことばかり考えていたのだ。そんな私の心を解してくれたマヌは本当に凄いのだ。
「ニアは初めて会った時からずっと可愛いぞ。今はもっと可愛くなった!」
私の言葉に、少し照れたように……、その照れ隠しを隠すようにマヌはそう言い切った。
マヌがそう言って笑ってくれるから、私はどんどん自信がついていく。
――マヌと一緒に参加する妹と元婚約者の結婚式。
私を可愛いって言ってくれるマヌのためにも私は精一杯おしゃれをしようと思った。
だから実家の領地に向かう道中、洋服やアクセサリーのお店を見て回った。
マヌが似合うと言ってくれたものを色々購入してしまって、なんだか、マヌを好きだって気持ちとマヌのために可愛い私でありたいっていう気持ちで私ははしゃいでいたみたい。
使いすぎてしまったと反省したけれど、マヌには「幾らでも買っていいぞ」なんて言われた。
本当にマヌは私のことを甘やかしている。
その後、買い物をしたり有名な観光地を訪れたりしながら――実家の領地へとたどり着いた。
……もう帰ってくることもないだろうと思っていた場所にこうやってまた足を踏み入れることになったことを、私は不思議な気持ちになっている。