「ニアにはどんなドレスも似合いそうだな」
「ねぇ、マヌ。結婚式でどんなドレスがいいかしら……」
妹の結婚式に参列することを決めた私だけれども、結婚式に着ていくドレスを持ち合わせてはいなかった。
私は何処に行くにもベールをかぶって、肌を隠して……、そして落ち着いた雰囲気の服ばかり着ていた。
結婚式が行われる頃にはこの徐々に薄くなっているブツブツも完全になくなりそうだ。
この『呪い』がなくなる日が来るなんて考えたこともなかった。いざ、なくなるんだと思うと……どういう服を着ようかと悩む。
マヌと一緒に参列するからこそ不安よりも楽しみの方が多くて、私はワクワクした気持ちになっている。
「ニアにはどんなドレスも似合いそうだな。でもそうだな……こういうのはどうだ?」
「じゃあこれにするわ。マヌはどういう服を着るの?」
「俺のなんてどれでもいいだろう」
「駄目よ。折角だからマヌのかっこいい姿見たいもの」
マヌの普段の姿も好きよ。騎士服とか、動きやすい服に身を纏っているマヌのことも見ていると幸せな気持ちになるもの。
でも着飾って、きちんとしたらマヌはもっとかっこよくなると思うの。
そういう姿を見たら……私は益々マヌに惚れ直してしまうかもしれない。
なんというか、今だって……毎日、毎日、好きだなってそういう気持ちでいっぱいになる。
そんなことを思いながらじーっと、マヌを見る。
「ニア、どうした?」
「マヌのこと、好きだなって思ったの」
素直にそう伝えたら、マヌに口づけされる。
こうやって口づけされると、益々幸せな気持ちになる。
私はマヌのことをきっと、ずっと手放せない。
誰かがマヌのことを欲しいといっても、私のものだからあげないとそういう気持ちでいっぱいになるだろう。
その後はまた結婚式の衣装の話をする。
ドレスはマヌの選んでくれた薄水色のものを着るとして……髪飾りとか、そういうものもどうしようかと悩む。
マヌが新しく買ってくれるってそう言ってくれたので、一緒に商人から取り寄せた商品の一覧を見ているの。
マヌの衣装は私とそろえてくれることになった。互いにそろえている衣装って、なんだか私とマヌが仲良しだと周りに見せびらかしているみたいよね。
新しいドレスに、新しい装飾品。
パーティーに参加する時に、こんな風にワクワクするのなんて初めての経験だ。
なんだろう……私は社交界デビューをもう済ませているのに、初めてパーティーに参加するようなそんな気持ちになっている気がする。
パーティーデビューのやり直しみたいな……そんな感覚に陥る。
「私、パーティーに参加するのがこんなに楽しみなの、初めてだわ」
本当にこんなに楽しみなのは初めてで、こんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。
「ニアは本当に元婚約者のことも妹のことも気にしていないんだな。ニアが全然気にしてないみたいで、良かった」
「ふふっ。心配してくれているのね。本当に全く気にしていないの」
妹に婚約者を取られて、その元婚約者と妹の結婚式に参加する。
……よく考えてみると、私も人伝てで聞いたらひどい話だと思うかもしれない。
でも私は本当に全然気にしていなかった。寧ろマヌと一緒にパーティーに参加することが楽しみだなとそんな風に思っている。
「ニアが笑っていると嬉しい」
マヌはそんなことを言っている。
私もよく笑うようになったなと自分で思う。
「私もマヌが楽しそうだと嬉しいわ」
こうやって同じ気持ちを感じられるのは、凄く幸せなことだと思う。
二人で笑いあうと、とても嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「ニアの両親に挨拶が出来るし、楽しみだな」
「私の両親はマヌに嫌なことを言うかもしれないけれど……」
「まぁ、ニアにひどいことを言うやつは許せないけれど……ニアの両親だしな。でもニアを傷つけるならどうにかするぞ!」
「……別に両親に何を言われてもあんまり気にならないわ。マヌがくれた言葉の方がずっと大切だもの」
幾ら血の繋がった両親であろうとも、妹であろうとも……なんというか、今が幸せだからあんまり気にならない。
結局血の繋がりがあろうとも、なかろうともそれよりもかけてくれた言葉とか、そういう者の方が大切なのかなって思う。
だってずっと実家で過ごしてきた両親や妹よりも、出会ってから少ししか経っていないマヌのことが私にとって大切になっているから。
多分、結婚式に顔を出したら色々言われそうな気はする。
私から『呪い』がなくなったことを……素直には喜んではくれない気もする。私が不幸であることを信じ切っている両親や妹は……何を言うのだろうか。
でも何を言われてもきっと今の私は平気だろうなと思った。
そうやって結婚式に向かう準備をしていると、時間の経過も早かった。
そして結婚式に参加するための馬車に乗り込む日には、私の『呪い』はすっかりなくなっていた。