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「行きたくないなら行かなくていいぞ」





「奥様、こちらご実家からのお手紙です」

「まぁ」


 私はある日、使用人から手紙を渡されて驚いた。

 だって私が幾ら実家に悪い魔力のことを伝えても返事は一切来なかったのに、急に前触れもなくきた手紙に驚いた。


 しかもその手紙は、私の送った手紙の返答ではなく……綺麗に装飾されたそれは結婚式の招待状だった。


 私の妹と、私の元婚約者の結婚式。

 ……正直、元々婚約を結んでいた私を呼ぶのは凄い神経だと思う。妹は私のことを嫌っていたから私に自分の幸せを見せびらかすために呼ぼうとしているとかなのかしら?

 でも私は今、人生で一番幸せな気持ちに浸っているのよね。

 



 それにしても妹も私の手紙の内容は確認していないのかしら。それともそれを見た上で嘘だと思っているのかしら。……どちらにしても分からないわね。



「奥様、こんなもの捨てましょう!」

「ひどいですよね!!」


 使用人たちもその中身を知って、憤慨していた。

 私はそれをとめる。なんだろう、幸せだからか、怒りとかは全然ない。そもそも私と元婚約者は本当に政略結婚で、何の感情も互いに抱いていなかった。


 恋をしたのは、マヌが初めてだもの。

 そう思うとまたなんというか、温かい気持ちになる。


 なんだろう、私は恋に浮かれている状態なのかもしれない。毎日、マヌが好きだなとそういう気持ちでいっぱいなの。



 妹の結婚式に出るのも問題ないと思えるのは、きっとマヌが一緒に参加してくれるはずだって知っているから。結婚式はもう少しだけ先で、その頃には私の顔のブツブツも……呪いと言われていたものもなくなっているだろう。

 妹は私が不幸であると思っているだろう。

 私が『呪われた令嬢』で、醜くて、だから幸せにはなれないと――そう面と向かって言っていたような子だから。

 私が幸せな姿を見せたら妹はどんな反応をするのだろうか?


 なんて、そんな気持ちにもなる。


 それに……妹の結婚式に参加することになれば、実家の悪い魔力の元について調べられるかもしれない。家族は私が幾ら手紙を出しても動いてくれない。でも……このまま放置していて大変な事態になったら私はどうして自分は動かなかったのだろうって思う気がする。



 私に何が出来るかなんて分からないけれど、機会があるのならば確認したいと思ってしまう。




「……奥様、まさか参加するつもりですか?」

「ちょっと気になることがあるの。だから……参列するのもありかなと思っているの」

「奥様から婚約者を取った妹と、姉から妹に乗り換えるクズの結婚式ですよね!? やめた方がいいですよ。奥様が傷つくだけです」


 侍女の一人がはっきりと元婚約者をクズなんて言い切るものだから、私は驚いてしまった。


 私は『呪われた令嬢』だから仕方がないって思っていたけれど、一般的に考えれば確かに眉を顰められるようなことなのよね。

 


「でも妹が取ってくれたおかげで、マヌと結婚できたのよ。ああいうことがなければ私は元婚約者とそのまま結婚して、こんな風に幸せな気持ちになることも出来なかったはずだもの」


 想像してみると恐ろしい気持ちになる。

 私は今、マヌが居ない暮らしを想像が出来ない。

 私を今の私にしてくれたのはマヌで、私が前向きな気持ちになれたのも、ちょっとしたことで笑えるようになったのも、好きなものが増えたのも……全部マヌのおかげ。

 マヌと結婚しなければブツブツの原因なんて分からなかっただろう。実家の領地の神殿では調べてくれないだろうし、わざわざ元婚約者が私のために遠くの神殿に連れて行ってくれるとは思えない。

 それに私に恋を教えてくれたのもマヌで、こんな幸せ毎日をくれたのもやっぱりマヌで。


 ……妹が、元婚約者を誘惑してくれてよかったってそんな気持ちにさえなる。

 マヌに出会えないままの人生なんてきっとつまらなかったと思う。




 ――そんなことを考えながらその日もマヌが帰ってくるまで模様替えをした。手紙はマヌと話してから返事をしようと、放っておいている。






「ニアの妹と元婚約者の結婚式?」

「そうなの。今日、招待状が届いたの」

「ニア。行きたくないなら行かなくていいぞ。断ろう!!」

「……マヌ、そんなに怒った顔しないで。私はマヌが笑っている方が好きだわ」


 マヌが少しだけ怒った顔をしている。侍女たちと一緒で私のために怒っていることが分かる。

 それは嬉しいけれど、私はマヌが笑っている方が好きだ。



 マヌは私の言葉に照れたように笑った。



「マヌ、私ね、参加したいと思っているの」

「ニア、無理しなくていいぞ?」

「無理はしていないわ。だってマヌは一緒に参加してくれるでしょう? 私は嫁ぐ前にパーティーに参加した時、周りから冷たい視線や言葉を向けられていたわ。でも、マヌが隣にいるならそんなもの、怖くないの。どうでもいいとさえ思っているわ。それにやっぱり悪い魔力の元が実家の領地にあるのは気になるの。良い機会だからついでに少し調べられないかなって」


 私がそう言って笑えば、マヌはまた笑った。



「そうか。ニアがそうしたいなら、もちろん、一緒に参加するぞ! ニアを一番可愛く着飾らせる!」

「ふふっ、マヌが可愛いって言ってくれるのは嬉しいけれど、花嫁より目立つ衣装は駄目よ。でもなんというか、妹も両親も……それに昔の私の事を知る誰もが私が幸せであることを信じていないと思うの。私は『呪われた令嬢』と呼ばれていて、暗くて、不幸で……そう思っていると思うの。そういう人たちにマヌと結婚して幸せだって見せびらかしたらどんな顔をするかしらって……なんだかそんな悪戯を思いついたの」

「それはいいな! 俺もニアは凄く可愛いから、あげないぞ! って見せびらかしたい」


 そんな会話を交わした後、私たちは夫婦で出席することを返答した。





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