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「うつらないなら問題ないだろ」



 ドレスの後は、結婚式の装飾などに関する意見も聞かれた。

 あとは身に着けるアクセサリーとか。特に持ってきているものもないことを言えば、辺境伯夫人から譲り受けるという驚く話になっていた。



「それは、ちょっと」

「なんだ嫌なのか?」

「いえ、私は大丈夫ですけれど……辺境伯夫人も私なんかに譲るのは嫌がるのではないですか?」


 マヌの独断でそういうことを言っているのではないかと懸念したからこその言葉だった。

 だけどマヌは言い切る。



「母上は喜んで譲るって言ってたぞ」

「……本当ですか? 私は『呪われた令嬢』ですよ?」


 実の母親でさえ、私に近づくことを嫌がっていた。

 私に触れることも、私が母親の私物に触ることも……それも嫌がっていた。


 汚らわしいものと思っていたのだと思う。

 なのに私に対して、そういうものを渡そうとするなんて。


 そもそも此処の人たちは最初からそうだけどおかしいと思う。特にこの夫……マヌはおかしいと思う。だって私に可愛いって言ってくるし、手袋越しとはいえ、触ってくるし。




「それは関係ないだろ? そもそも呪われているなんて俺は思わないぞ?」

「この黒いブツブツ見えてますよね?」

「見えているけど? だから?」


 ……だから? なんて平然と口にされると何と言ったらいいか分からない。

 呪われているなんて思わないなんて言われても、散々私は『呪われた令嬢』だと言われ続けていた。


 呪いがうつるとか、呪われているから近づかないようにとか。

 ――社交界の場では、そういう噂が出回っていた。最低限参加するパーティーでも、ずっとひそひそとそういうことを言われていて、両親や妹は私がパーティーに出た後機嫌が悪かった。

 私のせいで、侯爵家が悪く言われるとそんな風にずっと言っていたっけ。


 ――そして機嫌の悪くなった家族が使用人にあたり、使用人の中には「あんたのせいでひどい目にあった」と言ってくる者もいた。まぁ、私に触ると呪いが移るとか思われてるから、いやがらせみたいなのはなかったけれど。

 顔にブツブツがある私は不気味で、人を呪うことも出来るのではないかとか根も葉もない噂もあったしね。




「だ、だからって、貴方は気にしなさすぎです! 私みたいな『呪われた令嬢』相手に普通に考えてアクセサリーをあげるとかしませんからね!! はっ、それか壊れたものとかいらないものを渡してくるとかですか!? それなら納得するわ」

「母上がそんなことするわけないだろう。ニアが嫁に来るのを楽しみにしていたからな」

「なっ、そんなのあり得ません! 大体貴方も、私のことを歓迎しているってふるまいしてますけど、我慢しているんでしょ! 私を歓迎する結婚相手なんているはずないですから!!」



 思わず勢いのままに叫んでしまって、私ははっとする。

 折角演技とはいえ、私を歓迎している振る舞いをしてくれていたのだからこういうことを言うのは悪手だ。それでも目の前のマヌが言っていることが全く信じられなくてそう言ってしまった。


 女性は特に美しさに対して敏感だ。美しいというのはそれだけ武器で、妹もそういう武器を持ち合わせていた。だから社交界でも発言力が強かった。

 辺境伯夫人なんていう力を持つ女性が、こういう見た目の私に好意など抱くのは想像が出来ない。まぁ、誰であろうと私を受け入れるなんてありえないけれど。



 そんな風に私が思っていれば、マヌがなんだか近づいてきた。



「ななな、なんで私に近づいているんですか!」

「近づきたいからだ」

「近づきたい!? 何を考えているんですか」


 私は必死にそういう言葉を口にしながらも内心は、慌てていた。だってこんなに人に近づかれることはないもの!

 そう思っている私の視界には、満面の笑みのマヌが見えて……なんでこの人、こんなににこにこしているの!?



 混乱している間にヴェールを取られた。



「な、何で取るんですか!」

「取った姿見たいから」



 そういったマヌは驚くことに、私の顔を触った。直接! 手袋越しではなく、この人、私の肌に直接触れたのだけど。



「ちょ、なんで私の顔を直接触っているんですか!? 触れたら呪いがうつるって言われて――」

「うつらないなら問題ないだろ」

「そ、そうだけど」


 確かにうつると言われているけれど、この黒いブツブツは人に移ったことはない。

 だけれども、こんな不気味で『呪われた令嬢』なんて言われていた私に直接触れる人なんていなかった。私に対して同情している使用人だって、ひっそりと何か恵んでくれることはあっても私に直接触れるなんてなかったのに。



 私はそんなわけでいっぱいいっぱいである。




「嫁になる女だからな。ちゃんとその辺は調べている。うつらないのは知っているし、俺はそれが呪いだとは思ってない」

「だ、だからって」

「それにしてももちもちだなぁ。やわらかい」

「って、何べたべた触ってるの!?」

「顔が赤くて可愛い」

「か、可愛くなんてないわ!」

「俺が可愛いと言えば可愛いんだ。それと歓迎するわけないって言っているけど、俺は歓迎している」


 私の顔をぺたぺた触りながら、マヌは言う。

 



「政略結婚でも俺が嫁にすると決めて結婚するんだ。それで歓迎しないわけがないだろ? それに実際に見たニアは可愛いし、ニアと結婚するの楽しそうだなって思っているぞ」

「……なななな、なにを言ってるの!?」

「事前にニアがどういう令嬢かぐらい調べているし、俺が受け入れるって決めたんだからニアは俺の嫁になるんだ。俺が決めたことだから、家族も使用人たちもニアのことは歓迎しているぞ?」



 そんなことをまっすぐに見つめられて言われた私は、思わずいっぱいいっぱいになった私はそのまま気を失ってしまって、気づいたらベッドに運ばれていたのだった。




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