「ニア、凄く明るくなったな」
「マヌ、おはよう。今日もかっこいいわね」
「ニア、からかってるだろう」
「ふふっ、マヌが予想外に照れ屋だから、なんだか愛おしくなってしまって。マヌもこれで私の気持ち分かったでしょう? 私もマヌからその可愛いって言われて凄く恥ずかしくなっていたのよ」
マヌに気持ちを伝えてから、私はなんというか照れているマヌを見るのが楽しくなって、なんだかこうやって好きな人に好きだと伝えるのが嬉しくて……そういう風に素直に口にするようになっていた。
なんというか、今まで散々私の方が照れさせられていたのだもの。ちょっとした仕返しというか、照れているマヌが可愛いと思ってしまっているというか、そういう感じなの。
マヌは私よりも背が高くて、一般的に考えればマヌは可愛い対象ではないのだろうけれど……好きだと思うとなんというか、可愛く感じてしまうわ。
これが誰かを愛おしく思う気持ちだと思うとやっぱり熱に浮かされたようなふわふわした気持ちになる。
「ニア、凄く明るくなったな」
「ふふっ、マヌのおかげよ。私はマヌと結婚するまで勝手に全部諦めていたもの。でもマヌが私に自信を付けさせてくれたの。どうせ結婚してもただのお飾りの奥さんにしかなれなくて、私を受け入れてくれる人なんていないって。……だから、私の結婚相手が貴方でよかったと思うの。今の私があるのはマヌのおかげなのよ? マヌのこと、大好きだわ」
そう言って、マヌに抱き着けばまたマヌは照れたように笑う。
「マヌは私のこと、好き?」
「……うん。俺も好き」
私がこんな風に誰かに甘えたり、誰かと触れ合おうとしたり、誰かを好きになるなんて思ってもなかった。
マヌが照れた様子を見て、こんなに暖かい気持ちになると思わなかった。
それにしても照れているマヌは普段とはまた様子が違って、私がマヌのこういう姿を引き出しているんだと思うと面白かった。
……昔の私が今の私を見たらきっと信じられないだろうなと思う。
ずっとただ閉じこもって、決めつけていた過去の私はこんな風に幸せな気持ちになるなんて考えたこともなかったから。
「ニアのブツブツ、大分薄くなってきたな」
「ええ。毎日魔力を放出しているもの」
少しずつ薄くなっているそれは、私にとってはまだ不思議な気分。
鏡を見るたびに、本当に消えていくんだってそう思うもの。
完全にこの結晶がなくなる日が私は楽しみになる。
「でもニアがもっと可愛くなったら男が寄ってきそうだ」
「心配しているの? 私はマヌが好きだから、他の男性には興味ないわ。それに『呪われた令嬢』の呪いがなくなったからって、手のひらを返してくるような男性はごめんだわ」
「ニアがその気じゃなくても寄ってくるかもしれないから、気を付けるんだぞ」
「ふふっ、そんなに私はこの結晶が全部なくなってももてないと思うわよ」
私はマヌ以外の男性から可愛いなんて言われたことも、全然なかった。
この結晶が全て取れて、私の肌がすべすべになったとしても――結局そこまで寄ってこないと思う。
社交界の華であった妹のように美しいとかならともかく……と思ったのだけど、マヌには顔を覗き込まれて言われる。
「ニアは可愛い。その目も可愛いし、髪はさらさらで、唇も柔らかいし、良いにおいするし、優しいし……完全にブツブツが取れたらニアは色んな男に声をかけられそうだ」
「あ、ありがとう。でもその、私をこういう風にしたのはマヌなのよ。マヌがその、マヌが可愛いっていう私にしたの。だから、その……責任をもって私の傍に一生いるのはマヌじゃなきゃダメなのよ」
そんなことを二人で言い合って、二人して顔を赤くする。
マヌ以外からどう思われようが、正直どうでもいいと思うの。マヌが可愛いって言ってくれた私は、マヌが可愛くしたのだと思う。マヌのおかげで私は明るくなれて、こんなに心が温かくて――。
でもなんだかすごく恥ずかしいこと言った気がするわ!!
二人して顔を赤くしている空間は使用人たちが呼びにくるまでしばらく続いた。
朝食を食べている間もなんていうか、生暖かい目で見られたりするの。
私はマヌから可愛いって言われるのを受け入れることにして、マヌに気持ちをちゃんと伝えることにしたのだけど――これって幸せな気持ちにはなるけれど、人前だと恥ずかしいわね。
「仲良いのは喜ばしいことですよ」
「どんどん仲良くしましょう」
なんて笑って言われたけれど……!
でも確かに夫婦仲が良いのは悪いことではないわよね。
今は照れちゃうけれど、もっと慣れたら照れずにマヌと人前でも仲良く出来るようになる気がするわ。
朝食を済ませた後、マヌはお仕事に出かけたので私は屋敷の模様替えなどをすることにする。
今まで自分の好みとか、考えたことがなかったの。でもなんというか、マヌを好きになって前向きな気持ちになって余裕が出来て――、好きなものがマヌと過ごしているうちに増えていくの。
だから今まで手を付けてなかった屋敷を少しずつ変えていくことにしたの。
もちろん、マヌが嫌がる部分は変えないわ。でも好きにしていいって言われたから。