「仲間たちを家に呼んでもいいか?」
「なぁ、ニア。仲間たちを家に呼んでもいいか?」
「騎士の人たちを?」
マヌが騎士の人たちを家に呼んでいいかと私に問いかけたのは、神殿から帰ってきてしばらくが経った日のことだった。
聞いた話によると、私と結婚する前から時々同僚の騎士たちを家に呼ぶことはよくあったみたい。
私が人とあまり関わらずに生きているというのを知っていたからマヌは遠慮していたみたいだった。悪いことをしたかなと思ったけれど、ごめんなさいよりありがとうの方がいいと言われた言葉を思い出した。
「私に気を遣ってくれていたのね。ありがとう、マヌ。でも大丈夫よ。マヌの同僚の人たちなのでしょう? 私だって仲良くしたいもの」
時折、マヌの職場に顔は出しているけれどそこまでマヌの同僚の方々と仲良く出来てはいない。嫌な視線を向けられないわけではない。
でも……他でもないマヌの仲間の人たちとだから私は歩み寄りたいと思った。
私がこんなことを思っているというだけで、なんというか本当に私も変わったなと思う。
「ニア、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「他でもない、マヌの同僚だから」
「でもニア、嫌な思いをしたらすぐに言うんだぞ? 幾ら同じ騎士の仲間でもニアが悲しむようなことを言うなら俺は許せないから」
「ふふっ、昔からの付き合いの同僚の方より、私の味方をしてくれるの?」
「もちろん。奥さんの味方をするのは当然だろ?」
マヌはそう言って笑っている。
ためらいもなくそんな風に言われると、マヌの同僚の方たちを精一杯おもてなししようと言う気持ちになる。
私はこのブツブツの原因が分かってから、魔力を使うようにしている。それでもまだ顔のブツブツはなくなっていない。神殿で魔力を吸収して、黒から白には変わっているけれど……、他の人にはない、顔のブツブツはやっぱり気味悪がられてしまうものだと思う。
受け入れてくれる人もいれば、実家の家族のように受け入れない人たちだっているのは当然だ。
だからマヌの同僚の騎士たちの中で、私のことを疎ましく思う人はそれなりにいるのも当然だと思う。でもマヌが味方してくれるならそういう人たちがいても問題がないってそういう気持ちになる。
「頑張っておもてなしの準備をするわ」
「別にそこまで気を張らなくていいぞ?」
「……私がちゃんとしたいの」
おもてなしがちゃんとできれば私がマヌの奥さんだって認めてもらえる気がするから……ってなんだかこれ、私がマヌの奥さんで居たいって思っているみたい。
私は思わず首を振る。
「ニア、どうした?」
「……ちゃんとおもてなしをするわ。私は食べ物とかに触れないようにするわ。やっぱり移ると思っている人も居そうだから」
でもなんだか考えてみると、少しだけ緊張する。
今までマヌの奥さんとして誰かを迎え入れたりなんて全然していなかった。あまりこの屋敷に人が訪れなかったからというのもあるだろうけれど。
マヌが気を遣っていただけで、これからこうやって人が訪れる機会も多くなるかもしれない。
……ちゃんと出来るかしら?
実家では呪われているから人前に出るなと言われて、お客様をおもてなししたことなんてなかった。なんとなく知識として知っているけれど、何か失敗をしたら……という気持ちも少しはある。
だけど、マヌがいる。
それに使用人たちだって、私がおもてなしをするのを助けてくれようとしてくれる。
多分、マヌは私が失敗しても大丈夫だって笑うと思う。ただ出来ればマヌの奥さんとしてちゃんとしたいなと思った。
「ニアは可愛いなぁ」
「……なんで頭を撫でているの?」
「撫でたいと思ったからだ! ニアの髪はさらさらで触り心地が良いからな!」
「……マヌは、私に触れるの好きよね」
マヌにされるがままに頭を撫でられる。
こんな風に、私の頭を撫でるのなんてマヌぐらいだ。
「ああ。嫌か?」
「……嫌だったら振り払っているわ」
「そうか。なら、良かった」
マヌはぺたぺたと私にいっぱい触れてくる。
嫌ではないから、結局私はされるがままだ。
それにしても騎士の方のおもてなしは、どんなふうにしたらいいかしら。嫌な思いをさせないように、楽しんでもらいたい。料理も色々用意してもらって、おもてなしのためにどんな服装をするかも考えないと。
手土産に出来るようなちょっとしたお菓子を用意していてもいいかも……。
なんだか、私、自分でも驚くぐらい張り切っているというか、頑張ろうって思っているのかもしれない。
マヌの職場の騎士の方とは、そんなに話せていない。折角のマヌの同僚の方たちだから、出来れば仲良くしたい。女騎士の方も少しはいるって話だけど、彼女たちとお友達になれたりとかするのかしら。
……お友達になれなくても、ちょっとした世間話を出来るぐらいの仲になれたらいいな。
マヌに頭を撫でられながら、私はつらつらとそんなことを考えていたのだった。