「放っておけばいいと思うぞ」
「……返事が来ないわ」
神殿で私のブツブツの正体が分かった。その結果、実家に悪い魔力の元があるのではないかと思ったので、連絡をした。
けれど、返事は返ってこない。
期待なんてしていなかった。
両親も妹も、そして元婚約者も私のことを欠片も気にかけていなかった。寧ろ疎んでいて、だからこそ私からの手紙なんて見る価値がないとか、そういう風に思っているような気がする。
悪い魔力の元があるのならば、もしかしたら何かの拍子に領地が大変なことになるのではないか……とそういう心配もあったから連絡をしたのだけど、どうしたらいいのだろうか。
直接行けば話を聞いてくれるだろうかと考えて、首を振る。
結婚してからマヌたちが優しくて、私のことを受け入れてくれるからと家族に期待するなんて馬鹿みたいだ。
ただ幾ら向こうが私のことを嫌っていて、疎んでいたとしてもその悪い魔力の元が領地にあるのは……心配になる。
良い思い出がなかったとしても、だからといって領地が不幸になればいいとかそんな風にはどうしても思えないから。
だからなんというか、もやもやした気持ちになる。
私に何が出来るのだろうか、というそういう気持ち。
そうやって悩んでいるうちに、仕事に行っていたマヌが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま、ニア」
私が出迎えると、マヌが笑う。
それからマヌに手を取られて、そのまま移動する。大体、どこかでゆっくり夕食の時間までおしゃべりをしたりする。
「ニア、何か悩みでもあるなら言ってくれよ」
「……マヌは、本当に私の顔をよく見ているわね。あのね、この前、神殿で私のブツブツの正体を聞いたでしょう? 私は実家に悪い魔力の元があるならばそのままにしていたら大変なことになるのではないかと、ちょっと気になっているの」
私は魔力についても、魔法についても詳しいわけではない。
だけど神殿で学んだ限り、そういう魔力は同じ場所にとどまっていると悪い影響を与えるものらしい。
だから今まではたまたま大丈夫だっただけで、これから大変なことが起こるのではないかとそんなことを思ってしまうのだ。
「ニアはやっぱり優しいな」
「……そう?」
「ああ。だってニアは実家で嫌な思いをしてきたんだろ? それなのにそうやって気に掛けるニアは優しいと思う」
「……だって、幾ら私を疎んでいる人だってそんな風に不幸になってほしいとは思わないわ。でも手紙を出しても返事が来ないの」
「放っておけばいいと思うぞ」
私の言葉に、マヌはそんな風に言う。
「ニアの言葉が相手に届かないなら、接していてもニアが傷つくだけだ。だから放っておくのも一つの手だと思う。ニアはもう少し軽く考えたらいい」
「でも……」
「大丈夫だ。俺の方でも知り合いにあたっておく。そういう事象に詳しいやつも友人に居るからな。ただ流石に領主たちが許可していない状況でそれについて対応するのは難しい。だから対応するとしたら本当に事が起こってからになるかもしれないが……、でも事前に何かしらのことが起こるかもしれないって分かっていれば動きようがある」
マヌは簡単にそんな風に言ってのけた。
なんだろう、マヌが言うと本当に全てが大丈夫な気になる。マヌに任せておけばなんだって上手くいくような――そんな不思議な感覚。私はそれだけマヌって存在のことを心のどこかで信頼していて、多分、マヌが全力を尽くしてどうにもならなければそれはそれだって思っている。
マヌに全部任せておけば問題はないのかもしれない。けれど、全てを任せたままというのはちょっと面白くない。
「ありがとう。マヌ。実家から返事が返ってこないのは仕方ないけれど……、もし何かが起きた時は一人で解決しようとしないで。私は何も出来ないかもしれないけれど、実家にある悪い魔力の元について何か分かったり、何か起こったらちゃんと教えて欲しいの。……私とマヌは夫婦なのだから、ちゃんと言ってね。それに他のことだって、何かあるならちゃんと私に教えてね」
「ああ。もちろんだ。俺の方からも手紙は送っているけれど、聞く耳持たないんだよなぁ。ニアの家族はニアと違って、あんまり人の話を聞かないな」
「……マヌにも嫌な気持ちさせているわね。ごめんなさい」
「ニアが謝ることじゃないから、気にするな。それにごめんなさいより、ありがとうの方が嬉しいからな」
「ふふっ、マヌらしいわ。ありがとう、マヌ」
マヌの言葉に思わず笑ってしまう。
マヌはスキンシップが好きなので、私が笑うとよく抱きしめてきたり、キスしてきたりする。……嫌ではないけれど、可愛いって言われるとやっぱり恥ずかしくなるのよね。
実家のことは気になるけれど、マヌも動いてくれているならきっと何とかなるだろう。
でも私も悪い魔力がたまったらどうなるか、どういう風に土地に影響を与えるかとか、そういうことは調べておこうと思った。