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「ニア、大丈夫か!?」




 マヌと手を繋いで、女性神官から教わった祈りの石の元へと向かう。

 マヌが涙を拭ってくれたから、すっかり涙もおさまっている。

 泣いてしまったことが少しだけ恥ずかしかった。




「ニアのそれが魔力の結晶だなんてびっくりしたな」

「ええ。今まで私を診てくれた人たちはそんなことを一切言っていなかったわ。だからまさか、そういうものだなんて思ってもいなかった」

「魔法を使える人は少ないからな」

「そうね。……それにしても魔力が溜まっているなんて、私ももしかしたら魔法とか使えたりするのかしら?」

「そのあたりは詳しく聞いてみよう!」



 マヌは一切の不安も感じていないという笑みを浮かべている。


 私は自分の身体に浮かんでいる身体のブツブツをまたすっかりベールなどで隠している。





 先ほどの女性神官の方が言っていたように、参拝者の数は多い。

 だからちらちらと視線は向けられている。

 祈りの石は少し歩いたところにあるようで、マヌと一緒に歩く。




 それにしても願いを捧げれば叶う石って不思議なものだと思う。

 私はそういう聖なる物に触れたこともなく、聖なる場所に行ったこともなかった。


 『呪われた令嬢』と呼ばれている私が向かうべき場所じゃないって、勝手にそんな風に思っていた。両親も妹も、そういう場所に私が行くべきではないって言っていた。妹は社交界でも有名な令嬢だったから、そういう所へよく向かっていたみたいだった。


 だから少しだけ、不思議とワクワクしている自分がいる。




「ニア、楽しそうだな」

「……ええ。祈りの石なんて楽しい響きだわ。なんだかちょっとだけワクワクしているの」

「ニアが嬉しそうで、俺も嬉しい。可愛いぞ!」

「あ、ありがとう!」



 可愛いと言われることを受け入れることに決めたけれど、やっぱり恥ずかしいので顔は背けてしまう。

 マヌはそんな私をいつもにこにこ見ている。



 ……何だろう、マヌっていつも余裕なのよね。いつもにこにこしていて、私ばかり照れているみたい。

 私が何かいったらマヌも照れるかしら? ……例えばかっこいいとか? 恥ずかしいから無理ね!!


 ……でもいつかマヌを照れさせてみたら楽しい気持ちになるのかな。



 そんなことを考えながらマヌと一緒に祈りの石へと近づいて……、なんだか不思議な感覚がした。

 祈りの石まではもう少しある。だけど、なんだろう? 胸がざわつくような、不思議な感覚がする。




「ニア、どうした?」

「……なんでもない」


 目ざといマヌは、すぐに私の変化に気づく。


 多分、気のせいだろう。いつもと違うような感覚はあるけれど、何か体調が悪いとかそういうわけではない。

 だから大丈夫、そう思ってマヌに笑いかける。



 それに祈りの石の元へ向かう他の人たちは、何も感じていないみたいだもの。マヌだってなにも感じてない様子だもの。



「ニア、何かあったらすぐに言うんだぞ?」

「ええ」



 本当に無理そうだったら、マヌに言おう。


 そう思いながらマヌと手を繋いで、祈りの石の目の前へと向かった。



 ――祈りの石と呼ばれるものは、一見すると何の変哲もないような石に見える。でも祈りの石という名称の描かれた小さな石碑も横に置かれていて、不思議と神聖な雰囲気も感じる。

 


 私もこの祈りの石に祈ったら、私の願いも叶うだろうか。

 ……私の願い。


 騎士の仕事をしているマヌが怪我をしないこと。

 今の平穏な暮らしが続いてほしいこと。

 このブツブツが消えてくれること。


 祈ったところで、何かが変わるとは限らない。でも祈りの石に願ったという事実が私をもっと前向きにしてくれるかもしれない。そう思ったから願おうと思った。



 そういう願いを祈ろうとした時、一気に何かが身体に流れ込んでくるような衝撃が私を訪れた。

 先ほどから感じていた不思議な感覚が、一気に私に襲い掛かってきたような、そんな衝撃。




「ニア!?」


 ふらついた私をマヌが支えてくれる。




「はぁ、はぁ……」

「ニア、大丈夫か!?」



 息切れがする。眩暈がする。頭がくらくらする。

 ……先ほどまで元気だったはずなのに。こんな風に体調を崩すなんてこれまでほとんどなかったのに。



 なぜだか急に、私の体調は悪くなった。




 ……女性神官は呪いじゃないと言ってくれた。でもこうして祈りの石に近づいたからってピンポイントに具合が悪くなるなんて、やっぱり私は呪われているんじゃないかな、なんてそんな後ろ暗い気持ちになる。




「マヌ……」



 マヌの名を私は呼ぶ。

 マヌは私の名を必死に呼んで、心配そうにしている。



 マヌは意識が朦朧としている私をすぐに抱え込んだ。

 マヌは力持ちだな……なんて、うっすらとする視界で思った。




 そして私は気づけば、そのまま意識を失っていたのだった。










 




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