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「凄く似合うな!」




「ん……」


 目が覚めた時、私は此処は何処だろうと不思議な気持ちになった。


 見慣れない部屋。

 きょろきょろするとどうして此処にいるのか思い起こしてくる。


 そうだ。

 此処は、私の夫となる人……マヌの屋敷。

 

 昨日は疲れてすぐに眠ってしまったからちゃんと見れなかったけれど、やっぱりこの部屋はとても高価なもので溢れている。それに私の為に用意されたらしい衣服とかも……。

 こんなものを用意するなんて何を考えているのだろうか?



 私がそう思いながらベッドから起き上がれば、コンコンッとノックされる。返事をすれば侍女がやってくる。

 私は寝起きで顔を隠していなかったのではっとした。

 でもその侍女は、にこにこと笑っている。




「奥様、おはようございます。そして初めまして。私はケイジンダと言います」

「……おはよう、よろしくね」



 どうしてこの子も、私の顔を見て嫌そうな顔をしないのだろうか。

 どうして私に笑顔を向けているのだろうか。



 そんな疑問を感じている中で、ケイジンダが私に近づいてくる。



「奥様、どれを着ますか?」



 クローゼットを開けると、沢山のドレスが並んでいる。

 侯爵家ではいつも古着ばかり着ていたのでこうやって煌びやかな衣装が並んでいることに驚く。

 夜会に出るようなものではないけれども、貴族の普段着といった感じのものだ。



 どれを着るかと言われても……、こんな素敵なものから私が選んでもいいのだろうか。

 



「奥様にはこういうのが似合うのでは?」

「えっと、どれでもいいかなって」

「これとかどうでしょう?」

「……じゃあそれで」


 私がそう言って頷いたら、私に触れようとしてくるので思わず拒否した。

 嫌だって、ドレスを着せてもらうなんて今までなかったもの。それに私の顔のブツブツが見えているのにどうして此処の人たちはこうなんだろう……?


 私はそう思いながら自分でドレスを身に纏った。




「奥様、よくお似合いです」

「……ありがとう」


 私は頷きながらもやっぱり落ち着かない。

 私は顔を隠すためのベールをかぶってる。ドレスとは合わないけれど、顔を隠さずに人前に出るのはやっぱり嫌だと思ったから。



 

 朝食の場へと案内される。

 その場には、もうマヌが居た。



「おはよう。ニア」

「……おはようございます」

「どうしてベール被ってるんだ? 可愛い顔を見たいぞ」

「……わ、私の顔なんて可愛くないです」

「可愛くないか可愛いかは俺が決めるぞ。ニアは可愛いぞ」

「……あ、あの、本当にそういう冗談はやめてもらってもいいですか」

「冗談じゃないぞ? 俺は本気のこと以外言わない。照れてるのも可愛いと思う」

「!?」

「それにそのドレスも、凄く似合うな!」

「も、もうそういうのはいいんです!」



 この人は何なのだろうか。

 どうして私にこういう言葉をかけてくるのだろうか。


 私は話を変えるように言葉を発せば、なぜかマヌも、周りの使用人たちも笑っている。

 ……こんなに笑みを向けられていることなんて今までなかったから、この人たちが何をしたいのか理解が出来ない。





「ニア、美味しいか?」

「……はい」

「良かった! 料理長が喜ぶぞ」



 朝食は美味しかった。

 侯爵家では運ばれてきた冷たい食事を食べることも多かった。

 だからこうやって熱々で美味しいご飯が朝から用意されているのは新鮮な気持ちになった。



 何故か食事を食べている私をマヌはじっと見ている。そんな風にみられると落ち着かない。



「あの……何で見てるんですか?」

「嬉しそうに食べてるからな!」

「……見られると、落ち着かないです」

「俺はずっと見ていたいから慣れてほしいぞ」

「……そうですか」

「ああ」



 マヌは屈託のない笑みを浮かべる。

 何だろう、私に今まで向けられたことがないぐらいの太陽のような笑みで、不思議な気持ちでいっぱいだ。




 食事を終えた後、私は屋敷の中の一室に案内される。

 昨日言っていた結婚式に関する話をしたいらしい。どうせお飾りの、形だけの政略結婚なのだからそういうの適当でいいのに……と正直思わなくもない。





「なぁ、ニアはどれがいい?」

「えっと、このドレスの山は何ですか……」

「ニアがどういうのが好みか分からないから、色々集めただけだぞ?」

「……こ、こんなに?」

「ああ。どれがいいか教えてもらえればサイズを合わせたり、飾りをつけたりぐらい出来るからな」

「え、いや、一週間でそれを頼むのは……申し訳なくないですか?」


 沢山並んだウエディングドレス。

 これだけのドレスを急遽決まった結婚式のためにどうして集めたのだろうか。

 それに私の希望で、仕立て屋に面倒をかけるのは……と思ってしまう。




「それは気にしなくていい。結婚式は大事だからな。どんどん希望を言ってくれ」

「いや、でも」

「大丈夫だ! 仕立て屋も喜んでやるって言ってたぞ」



 マヌのそんな勢いに押されて、私は頷くのだった。


 でもどんなのが良いかは分からなくて、おずおずと一着のドレスを選んだ。





 

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