「今日は楽しかったな」
カフェを後にし、色んな場所を見て回った。
やっぱり私の見た目から入店を断られてしまうということはあった。だけれども……、マヌが私のことを自慢の奥さんだって、そう堂々と言い放つから、折れてくれる人も結構いた。
やっぱりマヌの底がない明るさは……、周りに伝染していくというか、ほだされていくというか、そういう力があるんだと思った。
私一人だったら、断られてそれで終わりだったはずだ。
でもマヌのそういう力があるから、魅力があるから、私は街を見て回ることが出来る。
「ニア、夕飯を食べて宿に戻ろう」
「ええ」
色々と見て回っていたらすっかり、外も暗くなっている。
マヌに誘われて夕食を食べるためにお店の中へと入る。
一瞬だけ私の顔を見て、その後店員は驚いた顔をする。
「噂の二人か」
そしてそんなことを言われる。
……私の呪われていることも噂になっているけれど、それよりもマヌがそんな私の事を自慢の奥さんだって沢山言っていたことが余計に噂になっていたらしいというのを聞いた。
私の呪いよりも、マヌの明るさの方が広まって……、寧ろそんなマヌにそれだけ愛されていて羨ましいって、そういう風に捉えられてきているみたい。
街に辿り着いて間もないのに、そんな風に仲が良い夫婦だって広まっているの恥ずかしいわ!
思わず顔が赤くなれば、マヌにまた「可愛いな」って言われてしまった。
「……とりあえず座るわよ」
「ああ」
マヌとやり取りしていたら店内の方たちが私たちをほほえましいものを見ているように見られて、また顔が赤くなった。
おすすめを注文して、食事を摂った。
その間も視線を向けられていた。
でも……嫌な視線じゃなかった。
そのお店の中に居た方たちがたまたま私たちに好意的な人たちだけだったのだと思う。
だけれども、こんな風に好意的というか、なんだか見守られている風だとむず痒い気持ちになって仕方がない。
「ニア、これ、美味しいな」
「……ええ」
「ニア、どうした?」
「マヌはよくこれだけ視線を向けられていていつも通りね」
「ん? 別に問題ないだろ。悪意はなさそうだし」
「……なんだか、見守られている雰囲気でむず痒い気持ちなの」
「ははっ、ニアは可愛いなぁ」
「……あ、ありがとう」
否定しようとして、だけれども可愛いって言われることを受け入れると言ったことを思い出してお礼を言う。
なんだかやっぱり恥ずかしい気持ちになる。だって可愛いと言われて受け入れるなんて、なんだか自意識過剰なんじゃないかとか、そういう気持ちにもなる。
けど、マヌが笑っているのだ。
私が受け入れたらそれはもう嬉しそうに、笑ってくれるのだ。だから、可愛いとマヌが言ってくれることを受け入れるのも、悪くないのかもしれない……なんて思った。
そういうやり取りをしていたら、益々生暖かい目を向けられてしまったけれど。
……本当にマヌはこういう視線を向けられても気にした様子がなくて、凄いわと思ってしまう。
食事を摂った後、生暖かい目に見送られながらお店を後にした。
街を歩く人たちの目も心なしか、嫌悪よりも好意が多い気がする。マヌのおかげだと思う。
その後はマヌに手を引かれて宿へと戻った。
宿の従業員にも、噂になっているということを言われた。どこまで広まっているのかしら?
やっぱり私の『呪われた令嬢』と呼ばれる見た目と、マヌが何処までも明るいからその様子が目立つのかしら。
まだこの街には滞在する予定なのだけど……、ずっとこの生暖かい視線を向けられることになるのかしら。
「今日は楽しかったな」
「ええ。マヌのおかげだわ」
宿の部屋に戻って、マヌとそんな会話を交わす。
私がマヌのおかげだと言えば、マヌは不思議そうな顔をする。
「俺のおかげ? 何がだ?」
マヌは私のことを沢山褒めてくれて、私に自信をつけてくれる。
でも自分の影響力をそこまで自覚していないのかもしれない。
「……マヌが居てくれたからなのよ。そうじゃなければ私は自分が呪われているから断られるのは当然だって、受け入れてもらえないのは当然だってそう思って出かけるのをやめたと思うの。マヌがその……わ、私のことを自慢の奥さんだって、その言ってくれたから……。周りだって、なんというか、違う目で見てくれたというか……。だから、その、マヌは貴方が思っているよりも、ずっと、凄いのよ。その……わ、私にとってもマヌはじ、自慢の旦那さんだから」
恥ずかしいけど、マヌが私を褒めてくれるから。
私も……、マヌにそういう言葉をかけてしまった。
自分から自慢の旦那さんなんて言うなんて、本当に恥ずかしい。マヌの顔なんて見れない。
マヌは何で私の顔を見てまっ直ぐに言えるのだろう。私は本当に、照れてしまうのに。
私がマヌの顔を見れないでいると、マヌに思いっきり抱きしめられた。
そしてそのまま可愛いと言われて、口づけを落とされた。
ああ、もう、恥ずかしい!!