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「俺の自慢の奥さんだぞ」


「おはよう、ニア」

「……おはよう、マヌ」


 目を覚ました時、一瞬ここはどこだろうかと不思議に思った。


 そしてマヌからの朝の挨拶を聞きながら、そういえば遠出をしていたのだったと思いだす。

 どこかにこうやって泊りがけに出かけるなんて初めてで、朝から不思議な気持ちになる。



「ニア、今日は街を見て回ろう」

「で、でも大丈夫かしら」

「何がだ?」

「……私のこと、噂になっているんじゃないかって思って。そうなったら入店を断られたりするかも」



 高揚した気持ちも、自分のそんな言葉に……少しずつ沈んでいく。



 駄目ね。やっぱり少しだけ不安になる。マヌのおかげで宿には泊ることが出来たけれど、昨日散々泊ることを断られたもの。

 そのことが周りに広まっているのではないか……、それでまた断られてしまうのではないか……と不安になっている。


 私は慣れているけれど、マヌが嫌な思いをするのではないかと……そればかり考えている。


「その時はその時だ! どうにでも楽しみ方はあるからな」

「ふふっ、マヌは本当に底抜けに前向きだわ」

「景色を見て回るだけでも楽しいだろうし、これだけ大きな街で全て断られるなんてことはないだろうしな。だから、出かけよう。ニア」

「ええ」



 本当に、マヌの言葉は不思議だ。

 なんだか特別な力を持っているというか、本当に全てが上手くいくようなそんな気持ちになる。


 私はそんな気持ちでマヌと一緒に外に出た。

 私は肌をいつも覆っている。それもあって目立つ。私の事が少し噂になっているのか視線を向けられる。

 でもなんだか、怖くない。

 マヌが私の手を引いてくれているから、なんだか大丈夫なような、そんな気持ちになるから。



「ニア、どのお店に入りたい?」

「そうね……」


 私はマヌの言葉に、少し考える。

 視線をさまよわせて、一つのカフェが目につく。

 店頭の看板に美味しそうなデザートが書かれている。


 私がそれを指させば、マヌは笑顔で頷いた。



 入ろうとして、店員に断られてしまった。

 やっぱり私のことが噂になっているから、私みたいな『呪われた令嬢』と呼ばれていた存在をお店に入れたくないみたい。


 高揚していた気持ちが少しだけ沈む。


 違うお店を探すことにする。

 ……それにしてもマヌは、私のせいで断られてもやっぱり気にした様子がない。

 マヌって誰かを嫌いになったこととかないのかもしれない。

 断ってきた店員にもマヌは悪感情を向けない。




 マヌと一緒に気になるお店を探す。

 マヌは私が行きたいところに行きたいってそればかり言う。


「……マヌが行きたいところがあるなら、私も付き合うから」


 私の行きたいところばかり言うのもと思ってそう言ったら、マヌはやっぱり笑っている。




 二、三軒ほど断られてしまった後に、次のお店に入る。

 そこでは驚くことに入店を断られなかった。壮年の男性は、笑顔を浮かべてくれているけれど……、接客をしていた若い男性は私のことを嫌そうな目で見ている。




「入れて良かったな、ニア」

「ええ」



 向かいに座るマヌの言葉に頷く。



「でも長居は出来ないわね」

「どうしてだ?」

「だって……私が此処にいると嫌な思いをする人がいるでしょう?」

「問題ないって言われたから気にしなくていいぞ」


 私は店員の男性が嫌がっているのもあって此処に長居するのもと、思っているのだけど……。

 でもマヌは相変わらず底抜けに明るくて、周りの目なども全然気にした様子がない。



 私とマヌが頼んだものは、若い男性店員ではなく、壮年の男性が持ってきてくれる。

 私のいる席に食べ物を運ぶのが嫌だったのかもしれない。




「ニア、美味しいか?」

「ええ。美味しいわ」



 マヌはご飯を食べる私をにこにこと、幸せそうに見ている。

 ……私のご飯を食べる姿なんて、そんなに笑顔になるものではないと思うのだけど。



 そんなことを思いながらゆっくりと食事をする。食後のデザートも食べる。

 この辺りの地域でよく採れるという果物をふんだんに使ったデザート。凄く甘くておいしかった。


 ……よく考えたら私は食べたことのないものも多いのよね。

 外に自分から出ようなんてしてこなかったし、ご飯を食べることも全然楽しんでいなかったと思う。

 でもなんだかマヌと結婚してからこうして美味しいものを食べるのを楽しんでいる自分がいる。



 マヌと穏やかに会話を交わしながら、そのカフェでゆっくりとしていた。


 だけど、私に嫌そうな目を向けていた男性がツカツカとこちらに近づいてきた。



「いい加減、店を出てくれないか?」

「どうしてだ?」

「その女が呪われているからだ。あんただって、その女にいやいや付き合ってるんだろ?」


 その男性の口が悪くて、私は驚いてしまった。

 


「そんなわけないだろ。ニアは俺の自慢の奥さんだぞ」


 私が口の悪さに驚いている中、マヌはそう言い切った。

 そんな風に自信満々にマヌが言うから男性店員は一瞬ひるんだ。

 そして何かを言おうとしたとき――、男性店員は頭を叩かれていた。



「お客様、申し訳ございません!!」



 壮年の男性がそう言って、慌てて私に文句を言った男性を引きずっていった。







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