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「なんとかなっただろ?」

 途中で村などを経由しながら、私たちは大きな街へとたどり着いた。

 こういう活気のある、人が沢山いる街というのも私は初めてだった。


 考えてみれば、私には初めての事だらけだ。もう結婚していて、周りから見れば大人と言えるぐらいなのに、私は知らないこともやったことがないことも山ほどあって驚く。




「人が沢山いるわね」

「ニア、そんな風に隠れて見ずに、堂々と見ればいいぞ」

「……えっと、マヌは私の呪いを気にしないといってくれているけれど、気にする人は気にするのよ。私は街の人たちに呪いがうつるかもと不安がらせたいわけでもないし、マヌに迷惑もかけたくないの」

「俺のことは気にしなくていいぞ。それにしてもニアは優しいな」


 マヌは全く不安なんて欠片もないという笑顔で言い切る。

 本当にマヌは楽観的というか、驚くぐらいに前向きなのだ。

 そんなマヌを見ていると私も感化されて楽観的になってしまいそうになる……って駄目よ。

 マヌの明るさは確かに見習うべきところではある。でも……、マヌが受け入れてくれても私を見て嫌がる人もいるのも事実なの。


 だからそういう人のことはちゃんと配慮をしないといけないわ。



 ――そう思って、私はこっそりと街を見ていた。




 マヌといるとなんだか自分の気持ちが前向きになれて、なんだかすべてが上手くいくようなそういう気分になっていた。

 だけれども、やっぱりマヌやその周りが受け入れてくれただけだというのを私は思い知る。





「すまないね。そんな見た目の客は泊められないよ」



 ――私の呪いは、やはり気味悪がる人は気味悪がるものなのだ。

 私とマヌは泊るための宿を探していたのだけど、何軒か断られてしまった。それも私のせいでだ。


 マヌがお金を積んでも、私の見た目から泊めたくないと思われた。







「マヌ、ごめんなさい。私が一緒だから。私が……来なきゃよかったのね」



 馬車の中で宿を探しながら私は思わずマヌに謝った。


 マヌに誘われたからって、『呪われた令嬢』がこうして外に出るべきではなかったのではないか……。

 折角前向きになった心が、また下降していく。



「ニアは、何も気にしなくていい。たまたまだろう」

「……マヌは本当に私を責めないわよね。私がこうだから、マヌまで巻き添えになってしまっているのに。もし、どうしても見つからなかったらマヌだけ宿に泊まって、私は馬車の中でも――」

「危険だし、ダメに決まっているだろ! ちゃんと、ニアも泊れるところを探すからな」



 私だけ馬車の中に居れば、マヌは泊れるのではないかとそう言ったら、マヌに即座にそんな風に言われる。

 

 それからマヌは私を連れて宿探しを続けた。

 そうやって何度も断られていたからか、街の中で宿の人たちに私の事が広まっていた。

 だから門前払いされることもあった。

 

 宿屋も客商売だから、私みたいな『呪われた令嬢』と呼ばれていた存在を泊まらせると評判が下がったりもするのだろう。あと実際に泊まっていた客が私と同じ宿なことを嫌がったり。



 ……マヌや使用人たちが受け入れてくれても、やっぱりそうではない人は多いんだなと当たり前の事実を実感した。最近、マヌと結婚してからその事実を忘れかけそうになっていた。周りがあまりにも優しいから。私のことを簡単に受け入れるから。



 ――私の心にあきらめが宿りそうになる。

 どうせ幾ら宿を回っても駄目なんじゃないかと。私なんかがこうして遠出すべきではなかったのではないかと。

 また、鎖が巻き付いていく感覚がする。


 両親や妹、元婚約者、実家の使用人たち――そういう人たちの言葉や視線が思い出される。




「よし、次行くぞ」


 でもマヌは諦めない。

 私と泊まれるところを必死に探そうとする。


「マヌ……。これだけ断られていて、無理じゃないかしら」

「大丈夫。これだけ大きな街だし、何とかなるだろ」



 無理だという私に、マヌは自信満々にそう言い切る。



 そしてそんなマヌに連れられて、何軒も何軒も回って――ようやく私たちを泊めてくれる宿が見つかった。



 その宿は高級な宿だった。

 受付の方は私を一瞬ちらりと見たけれど、それだけだった。奥から出てきた従業員の方も、私のことが宿屋の間で広まっているのに気にした様子がなかった。

 寧ろ私のことを知っているからこそ、あまり周りの人通りの少ない部屋を用意してくれた。御者や護衛、使用人たちも同じ宿に泊まることになった。


 ついてきてくれた皆にも私のせいで悪いことをしてしまった。だから皆に謝った。でも皆、気にしなくていいと笑っている。


 ……本当にどうして皆、こんなに優しいのだろうか。




 部屋の中にマヌと一緒に入る。



「なんとかなっただろ?」

「ええ。マヌは本当に凄いわね」

「俺は別に凄くないぞ?」

「凄いわよ。私にとっては、本当に」



 マヌとそんな会話を交わす。

 

 私一人だったら途中で心が折れただろう。そもそもマヌに出会わなかったら私はこうして遠出をすることもなかっただろう。限られた場所で、ただひっそりと生きていただけだったと思う。



 ――だから、やっぱりマヌは凄い。




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