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「俺の奥さんにひどいことを言うやつは許さないぞ」

 


 マヌが私のことを紹介してくれた。

 私は「よろしくお願いします」と言って、挨拶をした。


 なのだけど……、やっぱりちょっとした好奇の目は向けられている。私はすっぽりと肌が見えないように隠してしまっているから。

 マヌは全然気にしないって、私に笑いかけてくれるし、私に触れてくる。


 多分マヌは私が肌をさらしても何も気にしないだろう。でも私は肌を完全にさらして外に出るのは流石に出来ないもの。


 マヌは本当に嬉しそうに私のことを紹介してくれたのだけど、私のことを嫌そうな目で見ている騎士もいた。


 ……私の『呪われた令嬢』という噂を知っているのかもしれない。



「ニア、昼になったら一緒に食事を摂ろう。それまで待ってられるか?」

「ええ、もちろん」

「退屈だったら他の所見ててくれていいぞ」

「いえ、私はマヌの訓練の様子を見学したいわ。見ていて問題ないかしら?」

「もちろんだ! ニアが見ていてくれるなら気合が入る」


 マヌは当たり前みたいにそう言って笑ってくれて、私も思わず笑った。

 なんだろう、興味がないことだとすぐに飽きてしまいそうって思うけれど……、マヌの訓練姿はじっと見ておきたくなるというか、目が惹きつけられるというか。



 私は差し入れは自分で取ってもらう形にした。だって『呪われた令嬢』である私から差し入れを受け取りたくないという人だっているだろうから。実際に私が自由にとって大丈夫ということで置いたものはマヌばかりがパクパク食べていて、他の人はあまり手をつけようとしなかった。


 元々誰かからの差し入れを嫌がる人だっているかもしれないから、そのあたりは仕方がないわよね。

 それにしてもマヌって、私が差し入れしたものに対して何も気にせずに食べてくれるのよね。私にも簡単に触れるし……、マヌは本当にそういう人なんだなって実感する。




「奥様、旦那様はとても美味しそうに食べてくれますね」

「ええ。マヌはいつもそうだわ」


 マヌはいつもにこにこしている。

 怒ることなんて全然ないのではないかと思うぐらい。


 私は実家に居た頃は『呪われた令嬢』だからと嫌な視線を向けられたり、怒られたりすることも多かった。

 でもマヌはいつも笑っている。

 ……なんだかマヌって私があげたものだと何も気にせずに、本当に何でも、例えば毒が入っていたりとかしていてもパクパク食べてしまうんじゃないかと思うぐらいに無防備に見える。


 なんというか、人を信用しすぎているというか。

 マヌのそういうところはマヌの長所だと思うけれどもいつか人に騙されてしまうのではないかとか、そういう気持ちにもなる。

 マヌが騙されてしまったら、私は悲しいと思う。

 ……私に出来るか分からないけれど、私がマヌが騙されることがないようにきちんと見てあげればいいのかなってそんな風にも思った。




 そんなことを思いながら訓練をするマヌを見る。



 模擬戦をしているマヌは、今の所誰にも負けていないように見える。なんというか、身のこなしが軽い。体幹が私よりも凄くて。マヌは凄い騎士なんだなと思うと、自分のことではないのに誇らしい気持ちになる。




「奥様はずっと旦那様だけをずっと見つめてますね」

「……普段と違うからつい見てしまっているだけよ」



 じっと見つめているのは本当だ。他の人に視線を移せないぐらい、私はずっとマヌの事ばかり見ている。……でもそれはなんだか恥ずかしいのでそう言い切る。

 侍女からほほえましいものを見るような目で見られて私は益々恥ずかしくなった。





 じっとマヌを見ていたら、騎士の一人と話していたマヌが急に怖い顔をした。

 私が見たことのないような恐ろしい顔をしたマヌに驚いてしまう。



「俺の奥さんにひどいことを言うやつは許さないぞ」



 マヌがその騎士に何かを言う。

 だけど、私には距離が遠くて何と言ったのか分からなかった。




 その後、マヌがその騎士と模擬戦をしていた。マヌがぼこぼこにしていた。なんだかそのまだ若い騎士が必死に謝っているのと、マヌの冷たい視線に驚いて動けなかった。



 マヌもこんな表情するんだって驚いた。

 だってつい先ほど、マヌが怒っている姿なんて想像できないって思っていたのに。



 そんなことを思っていたら、騎士が気絶したのを見届けてマヌがこちらにやってきた。





「マヌ、どうしたの? マヌが怒るなんて相当なことだと思うのだけど……」

「失礼なことを言っていたから、とりあえずもうそんなことを言わないようにしといた! ニアは気にしなくていいぞ!」




 私に向かって笑いかけるマヌは、普段と変わらない様子である。

 こんなに温厚で全く怒ることなんてないマヌを怒らせるなんて何を言ったのだろうか?




 それからマヌの昼休憩の時間が来たので、私はマヌと一緒に食事を摂るのだった。

 騎士の食事所にお邪魔したのだけど、騒がしくて驚いた。ちらちらと好奇の視線を向けられたけれど、マヌが隣でにこにこ笑っているのでなんだかあんまり気にならなかった。










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