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「来てくれて嬉しいぞ!」




「奥様、とっても綺麗ですよ」

「差し入れを持っていけば、旦那様もお喜びになりますわ」



 私は今から差し入れを持ってマヌの職場に行こうとしている。

 正直言うと、なんだか緊張している。



 結婚する前の私なら、こうやってわざわざ人が多くいる場所に自分から行こうなんて思わなかっただろう。

 そもそも元婚約者は私を人前に出すのを嫌がっていた。私の呪われた見た目が恥ずかしいなんて言って。

 でもマヌは……、私を普通に連れまわす。それに嬉しそうに、私に笑顔を向ける。



 ……マヌに嫌な思いをさせてしまわないかしら? とは少し思う。

 でも多分、マヌは嫌じゃなくて、嬉しいって笑ってくれる気がする。


 私はドキドキしながら、お出かけの準備をする。

 マヌはとても強い騎士だってデートに出かけた時に教えてもらったけれど、戦うマヌはどんな感じなのだろうか?



 マヌは優しくて、いつもにこにこしている。その様子を見ているとマヌが戦う様子って想像が出来ない。

 普段とは違う様子なのかしら? そういうマヌを見れたら楽しいかもしれないなんて考える。




 私のことを紹介してくれるって言ってくれたけれど、誰かに紹介してもらえるのにワクワクするのってなんだか……初めてかもしれない。


 変な感じにドキドキしている。

 ……緊張とワクワクした気持ち。感じたことのないような感覚に、私はなんだか落ち着かない。




 馬車に乗って、騎士たちの詰所へと向かう。

 一緒についてくれている侍女は、「大丈夫ですよ」って笑ってくれるけれど、どうしようもないわ。

 ふぅ……と私は息を吐く。

 差し入れのお菓子も準備したのだけど……、マヌのお仲間の騎士たちは喜んでくださるかしら?



 マヌの同僚の方なら、仲良くなりたいとは思うけれど……。

 そんなことを考えていると、マヌの職場に辿り着く。




 私は受付でマヌに会いにきたことを告げる。……ベールで顔を隠しているというのもあって、ちょっとだけ訝しそうに見られてしまった。基本的に私は肌の黒いブツブツを見られないためにも肌をがっつり覆っている服ばかりだもの。

 なのでやっぱりちょっと変な目で見られたりするのは仕方がないかもしれない。



 マヌの奥さんだって自分から名乗るのってなんだかむず痒い気持ちになる。

 自分から妻だって名乗るのってちょっと恥ずかしいわ。



 私はそんなことを思いながら、案内されて騎士たちが訓練している場所へと向かう。


 私が見慣れない存在だからかチラチラ見られて、なんだかちょっと落ち着かないわね。



 騎士たちが訓練している場所に近づけば近づくほど、金属がぶつかり合う音がする。

 聞き慣れない音だから、なんだか不思議な気持ちになる。騎士たちの訓練の様子なんて見たことなかったもの。



 そして私は、マヌが訓練している姿を見た。



 マヌが元気に剣を振るっている。

 ……なんだか荒々しい雰囲気だわ。普段はにこにこしていて、まるで辺りを照らす太陽みたいに明るくて――、そういう感じなのに。

 今は訓練のために剣を握っているからかなんだか雰囲気が違うもの。



 私は剣を荒々しく振って、まるで野生の獣か何かみたいに鋭い目つきをしているマヌをじっと見ていた。



 いつもと雰囲気が違うのは、ちょっとだけびっくりした。でもいつもと違っていてもマヌはマヌだなって思えるから怖くはない。ただ他の騎士たちがこちらに視線を向けてくるのは恐ろしいと思った。



 マヌだと怖くないなってそんな風に思うのは……、私がマヌのことをよく知っているからなのかもしれない。それともマヌがマヌだからだろうか?

 




「奥様、旦那様の訓練の様子を初めて見てどうですか?」

「いつもと様子が違ってびっくりしたけれど、訓練中のマヌはこんな感じなのねって思ったわ」




 訓練中にこういう様子なのならば、魔物と実際に戦うとかだともっと荒々しい雰囲気になるのだろうか? 私は騎士の強さの基準が分からないから、マヌがどれだけの強さなのかいまいち分からない。

 ……いつか、マヌが戦闘している様子も見ることができるのかしら?

 ああ、でも危険な場には私は連れて行ってはもらえないだろうからそんな場面を見れることはそうそうないだろうけれど。




 こうやって少しずつマヌの世界を知ることが出来て、私の行動範囲にマヌに関わりがあるものが増えていく……。それが嬉しいと思ってしまっている。





 私がそんなことを考えていると、マヌの打ち合いが終わった。



 ――マヌがこちらを振り向き、私と目が合う。



 次の瞬間、マヌの雰囲気が一気に変わった。

 いつもの、心から嬉しそうな笑みを浮かべる。






「ニア、来てたのか」

「ええ」

「来てくれて嬉しいぞ!」



 マヌは私の方に駆け寄ってきて、にこにこと笑っている。

 マヌの表情からその言葉が嘘じゃないことが分かるから、私はほっとする。先ほどまでの緊張した気持ちが、マヌの言動を見るとすぐになくなるのだ。





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