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「じゃあ、いってくる」



「じゃあ、いってくる」

「……いってらっしゃい」


 結婚式を挙げて少しが経過して、マヌの休暇期間が終わった。

 そういうわけでマヌは騎士服を身に纏って、大剣を背中に出て行った。


 誰かにいってらっしゃい……と送り出すのは初めてでなんだか不思議な気持ちになった。

 マヌはお仕事なのだから仕方がないけれど、結婚式を挙げてからずっと一緒に居たからなんだか居ないことに違和感がある。

 ……って、これだと私が寂しがっているみたいじゃない。



 そう思って首を振る。



 マヌが仕事に行った後、私がすることはあんまりない。

 何をしたらいいだろうかと頭を悩ます私に侍女たちは「好きなことをすればいいんです」といってにこにこと笑う。



 マヌが仕事に行っても、この家の使用人たちは私に優しくしている。

 それは演技かもしれないけれど、それでも穏やかに過ごせることはとても嬉しいと思う。



「奥様、刺繍をプレゼントしたらどうですか?」

「プレゼントって……マヌに?」



 私がそう問いかければ、侍女はにこにことしながらうなずいた。


 刺繍をしたものをプレゼントするというのは他の令嬢もやっていることを聞いたことがある。私はあまり刺繍は嗜んできていない。




「……私、刺繍なんてしたこと、あまりないわ」

「大丈夫ですよ。どんな刺繍だってマヌエトロ様なら喜んでくれますよ」



 そんなことを言われて思考してみる。


 確かにマヌは……私が何をしても喜んでくれるような不思議な雰囲気があるから、私が何かあげたら喜ぶような気もする。

 ……マヌは多分、「ありがとう」って言って、なんか過剰に喜びそうな気がする。



「……やってみるわ」

「ふふっ、奥様はマヌエトロ様のこと、好きですよね」

「す、好きなんかじゃないわよ。私は……仮にもマヌのお、奥さんなんだから刺繍をあげるのも当然なの。だってそういうものだって周りも言ってたもの」



 そうよ。私は、別にマヌのためにとかそういうわけではないわ。

 ただ私は奥さんならばそういう風に刺繍をあげるんだって思っているだけだもの。


 でもなんだかほほえましそうな目で見られて、私は恥ずかしくなった。

 ひとまず、刺繍道具を準備してもらった。とはいえ、刺繍のやり方がまず分からなくて試しに縫ってみたら変な風になってしまった。



「……うまくいかないわ」



 そう言って私は一旦その日は、刺繍するのをやめた。




 その日、少し遅い時間にマヌは帰ってきた。



「マヌ、いつもこんなに遅いの?」

「いや? 今日はちょっとバタバタしたからな。普段はもう少し早く帰れるぞ。寂しかったのか?」

「さ、寂しくなんかないわよ!」

「そうか。俺は寂しかったぞ。ニアに会いたかった」

「……い、いきなり抱きしめないでよ」



 寂しかったなんていって抱きしめられて、私は思わずそういう。

 そう告げたら、マヌがしょんぼりとした顔をする。



「そ、そんな顔しないでよ。えっと、嫌ってわけじゃないのよ。た、ただね。こんな人がいっぱいいるところだと恥ずかしいし」


 しょんぼりした顔をされたので、慌てて離れたマヌに言えばマヌが笑う。




「ニアは照れ屋で可愛いなぁ」

「……可愛くない」

「可愛いよ。凄く、可愛い」



 そんな風にダメ押しのように言われて私は押し黙った。

 その後、マヌと一緒に食事を摂った。マヌは時々遅くなってしまったりするらしい。だからあまりにも遅すぎる時は先に食べてていいなんて言われた。



 私が「別に、待ってるわよ」と口にしたらマヌはまた笑っていた。

 実家に居た時なんて適当なご飯を食べていただけだったから、別に少し時間を待つぐらい問題ない。それにマヌがおいしいおいしい言いながら食事をしているのを見るのは、その……嫌いではないし。



 食事を摂った後、寝室に向かった。



「ニアは今日は何をして過ごしていたんだ?」

「……何をしたらいいのか、分からなくて。ぼーっとしてたわ」



 私は刺繍をしていたことは、一旦秘密にしておく。……なんだか恥ずかしいもの。

 マヌはにこにこしながら、「何でも好きなことをしたらいい」って笑う。



「マヌは、騎士団で何をしていたの?」

「今日は訓練だけだな。要請もなかったし」

「危険なことはしないのよね……?」

「要請があったら魔物退治もするが、俺は他の奴には後れを取らないぞ」

「……死なないでね」

「ははっ、心配しているのか? 大丈夫だぞ」



 マヌはそんな風に自信満々に笑う。マヌが死ぬのは、ちょっと嫌だなとは思うから……刺繍はちょっと頑張ってみようかな。


 うまくいかないかもしれないけれど、刺繍をしてみよう。

 どんな模様にしようか考えてみよう。全然刺繍したこともないから、刺繍の模様も知らないのよね。




「……ねぇ、マヌはどういった生き物が好き?」

「俺が好きな生き物? ドラゴンだな!」

「……そうなのね」



 ドラゴンか。

 ……刺繍するの大変かもしれない。

 でも試しに刺繍をしてみよう。



 私はそんなことを考えながら、眠りについた。




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