「また行こうな」
マヌと一緒に街を歩いて、色んなお店に入る。
どのお店に入ってもマヌは、私の物ばかり買おうとする。
「ねぇ、マヌ。自分の物はいいの? 私の物ばかり買ってない?」
「ニアにいっぱい買ってやりたいからな。俺のは別にいい!」
「いや、よくはないでしょ。……わ、私もマヌの物選びたいわ。とはいっても……私、自分のお金とか持ってないからアレだけど」
「ニアが選んでくれるのか? ニアがくれるものならなんだって嬉しいぞ。それに俺のお金はニアのお金だろ。自由に使えばいい」
「……マヌは、私に甘いわね。私がそれでお金を破産するぐらいまで使ったらどうするの?」
「そんなことは心配しなくていい。それを言うニアはそんなにお金を使わないだろう。それに奥さんの可愛い散財ぐらいで揺らぐのはかっこ悪いからな。ニアがそれだけお金を使いたいっていうならそれだけ稼ぐだけだ!!」
「……マヌは人のことを駄目にしそうね?」
マヌは身内のことを散々甘やかすタイプみたい。子供のことも甘やかすのかしら。そこまで考えて私ははっとする。顔が赤くなる。だってなんだろう……、その子供って、私とマヌの子供ってことじゃない? それって想像すると恥ずかしいわ。
でもマヌが甘やかす代わりに私がちゃんとしたほうがいいのかしら……。なんて未来のことを考えてしまっている自分に驚く。
だって私はマヌと結婚する時、大切にされることなんて全くなく……形だけの夫婦になると思っていた。男女の関係になるなんて思ってもなかった。なのに今は、マヌとの未来のことを私は考えてしまっている。
マヌと結婚してから、私の人生は変わっているなとそのことを思うだけで不思議な気持ちになった。
「ニア、可愛いけれど百面相していてどうした?」
「な、なんでもないわよ。それよりマヌに似合うものを選ぶわ。マヌって、社交界には出たりはするの?」
「俺は次男だしただの騎士だからなぁ。あんまり出ないぞ。ニアはパーティーに出たいか?」
「……あんまり良い思い出はないけれど、マヌのお、奥さんとして交友関係は広めたいって思うわ。それに……その、正装したマヌもちゃんと見たい気もするし……」
「ははっ、じゃあ一緒に行くか?」
「ええ」
『呪われた令嬢』と呼ばれている私がパーティーに出てもいいかなという気持ちになっているのは、マヌが居るからかもしれない。
でもパーティーの正装は街で見るというより、屋敷に商人を呼んだ方がよさそうなので一旦、街では違うものを買うことにする。
マヌに似合いそうなものを何か選ぼうと考え、一緒に見てもらう。
マヌはあんまり頭を使うことはしないみたいだけど、ちょっとしたメモを取るメモ帳とかは必要だものね。屋敷で使えそうな小物とか、あとはマヌに似合いそうな服とか。そういうのを一緒に見て回った。
「ニア、楽しそうだな」
「……そうね。自分でも結構楽しくてびっくりだわ」
「ニアが楽しそうで俺は嬉しいよ」
「で、でもなんか私ばかり楽しんじゃったかも。マヌって結構街にきているのでしょ?」
「街には結構きているけれど、ニアとのデートは初めてだからな。もちろん、楽しかったぞ! ニアの色んな姿を見れたしな」
迎えの馬車に乗り込んで、一緒に屋敷へと戻る。
馬車の中で私は結構はしゃいでしまったのかなと思ったけれど、マヌは楽しそうに笑っていた。
私は飴の入った瓶を返してもらえたので、それを抱きかかえて座っている。
なんだかお土産を持っていると凄く嬉しい。こんなことで自分がこんなに嬉しくなると思わなかった。
それにしても見た事がないものばかり沢山見れて、何だか楽しかった。
……マヌはもう少ししたらお仕事に行くようになるのよね。騎士の仕事ってどのくらい忙しいのかしら? へとへとになるまで疲れてきたりするのかしら。
そうなると街に出かけるのは大分先になったりするのかしら。
そんなことを思いながら向かいに座るマヌのことをじっと見つめる。
「どうした?」
「……結構楽しかったから、次にいつ街に行けるかなって」
「一人で行ってもいいぞ? もちろん、護衛付きだけど」
「いえ、一人はちょっと。……マ、マヌと一緒の方が、安心だわ。少しだけど!」
「ははっ、そうか。それは嬉しいな。また行こうな」
「……マヌの仕事は忙しかったりしないの?」
「忙しい時もあるが、ニアとのデート時間は何が何でもとるぞ!!」
マヌは私に向かってそう言いながら笑っている。
何が何でも私のために時間をとるって……本当にマヌの言葉はどこまでも真っ直ぐだわ。
ちょっと恥ずかしくて、そっぽを向く。マヌが楽しそうに笑っている気配がして、私はマヌの顔を見れなかった。
それから屋敷へと戻ったのだけど、私は初めての街へのお出かけで疲れてしまって水浴びをしたあとにすぐに眠ってしまうのだった。