「奥さんを着せ替えするの楽しいな」
試着をしてみたものの、本当に私に似合うのかしらと思って少しマヌの前に出るのを躊躇してしまう。
でもあまりにも外に出ないと心配されるので、マヌ達の前に出る。
「可愛いな!!」
「奥様、とてもお似合いです」
「ニアには明るい色も似あうよなぁ。やっぱりニアの輝く髪に、こういう明るい色の服は似合うな」
「ですよね。とくに奥様はお綺麗な方ですから、どんなものでも似合いそうですわ」
マヌと店員がそう言いながら私を褒める。周りにいる侍女たちもそうやって褒めるので、恥ずかしくなった。
「もっと他にも着てほしい!」
「え」
「嫌か?」
「嫌っていうか、その……マヌたち、私のことを褒めるから恥ずかしい」
「本心を言っているだけだぞ。ニアは可愛いんだから堂々としていればいい」
はっきりとそんなことを言われて益々私は恥ずかしくなった。
それにしても何だかマヌはとても嬉しそうだ。
「……マヌは、私が色々着替えるの楽しいの?」
「ああ。奥さんを着せ替えするの楽しいな」
はっきりとそんなことを言われて、私は思わずそっぽを向いてしまった。
だって何処までもまっすぐにこちらを見てそういうことを言うマヌは本当に素直な人だと思う。
私は結局そのお店で沢山の服に着替えた。こんなもの私に似合うのかな? と思っているものもマヌたちは褒めるので、似合わないものも褒めているかなってなった。でも本心だとはっきり言われた。
……これだけ多くの衣服を身に纏うのって初めての経験で何だか不思議な気持ちになった。
「全部買って帰ろう」
「いや、待って! 流石にそれは買いすぎだわ。私なんかにそんな――」
「俺が奥さんであるニアのために沢山お金を使うのは当然だろう。そもそも俺は普段からそんなにお金は使わないからな。ニアに使いたい!」
「本当に、こんなに買って大丈夫なの?」
見るからに大量で、本当にこんなに購入して大丈夫なのだろうか。マヌが無理をしているとかではないのだろうか。そんな風に思ってしまった。
「全然問題ないぞ! 寧ろ、ニアのためにもっと仕事を頑張ろうって気になるからな」
「えっと……マヌは騎士なのよね? 頑張るのは良いことだけれど、それでマヌが危険な目に遭ったら嫌だわ」
私は騎士とそこまで関わったことはない。実家では私のことを騎士たちも嫌がっていたもの。戦いの場所も見たことはない。マヌはそういう戦う場所に行くのよね。
辺境の騎士は特に危険と隣り合わせなイメージだわ。
もしマヌが騎士として殉職してしまったら私は悲しいと思う。
無茶をしてけがをされるのも嫌だと思っている。
私の言葉にマヌは一瞬驚いたような顔をして、だけど嬉しそうに笑った。
「俺の心配をしてくれているのか? 俺は大丈夫だぞ。死ぬような無茶はしないさ」
「……本当に?」
「ああ。俺はニアには嘘を吐かない」
そんな風に言われたけれど、本当に大丈夫だろうか? 私の視線に気づいたらしい、店員が声をかけてくる。
「奥様はマヌエトロ様の強さをご存じないのですね。マヌエトロ様は強い方なので、大丈夫ですよ」
「まぁ、そうなの?」
店員から言われた言葉に私は驚いた。
私は騎士の強さとか、そういうのは分からない。大丈夫だと言われたけれど、本当に大丈夫なのかしら。
「はい。マヌエトロ様はとても強いと評判ですよ。辺境の騎士たちの中でも有数の腕だと噂されておりますから、安心して大丈夫です」
「ああ。俺はニアを置いて死ぬのは絶対しないぞ。結婚したばかりで、これから楽しいことが沢山待っているのに死ぬのは嫌だし」
店員とマヌからそんな言葉をかけられる。
私は評判になるほど強い方ってどういう人なのか、その強さがどういうものなのか分からない。
騎士と私は騎士の人たちを一括りにしてしまっているけれど、歴史に名を残すような強い人もいれば、何の成果も得られずに命を散らす人もいる。
私はマヌに有名になってほしいとは望まない。それよりも、生きていてほしいなと思う。
「マヌ、幾ら貴方が強かったとしても私は無理をしてほしくないわ。本当にそれだけ強かったとしても無理しないでね?」
「本当に心配しなくていいぞ」
マヌはにこにこと笑っているけれど、本当に大丈夫かしら?
でもマヌの笑みを見ていると、心配ごとなんていらないってそういう気持ちになるわ。
洋服店を後にして、私たちはまた街を歩く。
いつもこうして街中を歩くことはあまりなかったから、きょろきょろしながら歩いていると少し疲れてしまった。
マヌは人の顔をよく見ているのか私が疲れたのも分かったみたいで、「少し休憩するか?」と言われる。
頷いたら、マヌが良くいくというカフェに連れていってくれることになった。
外で食事を摂るなんてしたことがないから、なんだか新鮮な気持ちになりながらカフェに入った。