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「可愛いから沢山見せびらかすぞ」



「ニア、寝れないのか?」

「……先に寝ていいのよ?」


 夜になって、私はデートのことを考えると寝付けなかった。

 いや、まぁ、デートする本人は私の隣にいるし、その……夫婦の営みも継続されているわけだけど。


 なんでマヌは、こんなに平然としているのだろうか?

 私はデートなんて初めてだし、なんだか緊張しているというか、落ち着かないのに。


 というか、デートよりも結婚が先っていうのが順番がおかしいのかしら。

 政略結婚じゃなければ、多分、デートの方が先よね?



「ニア、なんで寝ないんだ?」

「……」

「俺に言えないことか?」

「……デ、デートとか初めてだから緊張してるの!」

「緊張しなくていいぞ? 俺はどんなニアを見ても多分受け入れるぞ!」

「……本当にあなたは私がどんな粗相をしても気にしなさそうよね」

「奥さんのことを受け入れるのは当然だろ?」


 ……何気ない感じで言っているけど、夫婦でも他人だからそうやって受け入れるのって難しいと思うのよね。特に私は『呪われた令嬢』だし。

 それでも本当にマヌは、私を受け入れてくれようとしているのよね。


 嬉しい、なんてそんな気持ちが湧いてくる。

 思わず小さく笑ってしまった。




「笑っている顔が可愛いなぁ」

「……う、煩いわ」

「嫌だったか? 可愛いと思ったから言ったんだが」

「……い、嫌じゃないわ。恥ずかしいだけよ!」



 しゅんとした顔をされると、嫌だなんて言えないじゃない!

 私の言葉にマヌが嬉しそうに笑っていて。

 なんだかその笑みを見ていると……、初めてのデートだって緊張していたのが消えていく。落ち着かない気持ちはあるけれど、多分、デートで何があってもマヌは変わらないんだろうなってそう思ったから。




 結局私は安心したからか眠ってしまった。

 起きた時にマヌに抱きしめられていて、やっぱり慣れなくて私は思わず飛び起きてしまった。

 その時にマヌの顎に思いっきり私は頭をぶつけたけれどマヌは笑っていた。


 心が広すぎない? などと思っている私は、今、デートのために侍女たちに着替えさせられている。


 ちなみにマヌは「着飾った奥様をプレゼントするので、お待ちください」といって部屋から追い出されていた。

 

 デートだろうとも、そこまで着飾る必要はないのでは……と思ったけれど、ケイジンダに「初デートというのは特別なものですから! ダメですよ。それに私たちも奥様を着飾りたいので」と言われた。周りの侍女たちもにこにこしながらうなずいていた。

 なんだかほほえましい目で見られていて、その視線が恥ずかしかった。



 顔を隠すベールは外せない。ちなみに私が顔を外に見せたくないって言っているからか、新しいベールも色々買ってくれた。ちょっとおしゃれに装飾されているものだったり、色違いだったり。

 そんなに外に出ることもないからいらないのにって思っていたけれど、デートに行くからさっそく役に立ったわ。



 水色のベールで顔を隠し、着ているのは動きやすそうなワンピース。これも新しく買ってもらった。結構高価な生地を使っているらしい。

 この家に嫁いでから、私が何も欲しいと口にしないからか色々買ってくれたりする。そんなに私にお金を使わなくていいのにって思うけれど、マヌたちはにこにこしているのよね。




「奥様、お似合いです」

「マヌエトロ様もこれでいちころですよ」

「もうメロメロだから、もっとメロメロになりますね」


 なんて侍女たちに、お世辞なのか、本心なのか分からないことを言われる。


 こうやって侍女たちに着飾らせてもらうのも、此処に嫁いでから初めて経験したことなのよね。

 公爵家に居た頃は私に触りたくないって言われてたから、一人で着ていたもの。こうして着飾って、その姿を見て侍女たちが笑っているなんて……夢みたいな光景だとは思う。


 それにしてもこんな可愛いワンピース、本当に私に似合っているのかしら?


 そんなことを思いながらも、侍女たちに促され待っているマヌのもとへと向かう。

 結構時間がかかっちゃって待たせてしまったわ。







「マヌ、待たせてごめんなさい」


 そう言いながらソファに座って待っていたマヌのもとへ向かえば、マヌは私の姿を見て笑った。



「可愛いな」

「……っ」

「可愛いから沢山見せびらかすぞ」

「み、見せびらかさないでよ。恥ずかしいから。そんなこと言うのマ、マヌだけだし」


 可愛いと言われて顔が赤くなり、見せびらかすと言われて思わず反論する。


 でも私が反論してもマヌはにこにこ笑っている。



「そんなわけないだろ。こんなに可愛いから、他の奴も可愛いっていうはずだ。俺は沢山ニアを見せびらかしたい! 俺の奥さんだって言いふらす」

「……そ、そう」

「ああ!」


 マヌの言葉に思わず私は恥ずかしくなって横を向いてしまった。だって、恥ずかしい事ばかり言うのだもの。


 


 そして、そんな会話を交わした後、私たちは街へと向かうことになった。




 




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