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「可愛いな!」



 ガタンゴトンと、馬車が揺れる。

 馬車の中でゆられているのは、私、ニアミレッラ・カドット。

 カドット侯爵の娘である。



 私が何のために馬車に揺られているか……といえば、輿入れのためである。

 でも私が乗っている馬車を見ても誰も輿入れなんて思わないだろう。



 侯爵令嬢の輿入れにしては質素。そもそも、普通に侯爵令嬢が遠出するにしてもおかしい。

 それも仕方がない話だ。私は『呪われた令嬢』と呼ばれているから。





 産まれた時には何も異常はなかったのだという。でも私は大きくなるにつれて身体に小さな黒いブツブツが出来るようになった。顔や腕や首――といった見えるところにもだ。

 医者に診てもらったが原因は分からず、両親は私のことを気味悪がった。二つ下に生まれた妹がそういう不気味な特徴が何もなかったのも理由だろう。妹にかかりっきりになった両親は、私の事を見なかった。


 そもそも私は呪われていると言われているのもあって、私に近づく使用人もほぼいなかったのだけど。



 そんな私にも一応婚約者は居た。

 親が決めた政略結婚の相手であった。初対面の時は……そこまで態度はひどくなかったと思う。


 私が呪われていても政略結婚の相手だからって。

 でも妹が、その婚約者に惚れてから変わってしまった。

 呪いなんて欠片もない美しい妹。それに惹かれていった彼は、私を疎むようになった。元々好意はなかったとは思うから、仕方がない話なのだけど。



 私は呪われていると言われているから最低限のパーティーにしか参加したことはない。その時のエスコートでも一度も私に触れることはなかった。というより、呪われた令嬢である私に触れる人なんて普通に考えているわけがない。


 そういうわけでそういう態度は仕方がないと思っていたのだけど、つい先日。



「お姉様、私たちは愛し合っているの!!」

「お前とは婚約破棄をする」


 などという、茶番劇が行われた。



 なんだろう、まるで劇を見ているような気分だった。真実の愛だからと泣く妹、まるで私が悪いみたいににらみつける婚約者。あとこちらを忌々しそうにみる両親。


 私が呪われているから仕方がないなと思いつつ、そもそも私が反対してもどうしようもないので了承した。

 その後に、両親は私をどこかにやれないと嫌そうな顔をしだした。

 私が結婚もせずにずっと屋敷に居るのは困ると。そもそも妹と元婚約者が結婚する中で私がここに居るのは嫌だと妹も言ってたらしい。

 妹は美しいものが好きなので、「お姉様は醜いわ」と私のことを嫌っていたのも理由だろう。まぁ、それは妹だけじゃなくて両親もだけど。



 そういうわけで嫁ぎ先が探され、もちろん、難航し……だけど一か所見つかった。


 それは辺境伯の次男のもとへの政略結婚。

 辺境は魔物が多く存在する地で、両親とかは田舎者だってバカにしている。普通に考えて辺境伯たちが魔物を抑えてくれているおかげで中央が平和なのだけど……両親たちはそんな深いこと考えられないのだ。


 侯爵家は良質な魔石が取れる領地だ。その魔石を売って富を得ている。今回は魔物退治にも役立てる魔石を渡すのと一緒に私ももらってほしいみたいな政略結婚。私が不良物件だから、魔石と一緒に送るっていう。そのことに何とも言えない気持ちになったけれど、そんな条件でも私をもらおうっていうのは一人しかいなかった。




 ――どうせ、実家との暮らしと変わらないんだろうな。

 ――お飾りの妻としてほそぼそと名だけもらっておけばいいんだろうな。


 私はそう思いながら馬車に揺られた。



 そして何日もほぼ休みなく揺られて、辺境伯の領地に到着する。

 私をもらってくれるという奇特な方は、辺境伯の次男で騎士をしているらしい。辺境から出ないのでどんな男かは分からない。


 せめて私を放っておいてくれる人だといいなぁ……と思いながら馬車から降りたら……まず驚いた。


 なんか人多くない?

 もしかして夫となる人の屋敷の使用人、全員出てる? なんで? 見世物にされようとしているのだろうかと思っていたのだけど、「ようこそおいでくださいました」ってにこにこされる。


 まずその対応からよくわからない。



 戸惑っていると、一人の男が近づいてきた。

 その人は赤髪の活発そうな見た目の男の人だ。私よりも頭一つ分は高くて、びっくりする。




「俺はマヌエトロ・サーファズ。よろしく、奥さん!!」

「……ニアミレッラ・カドットです。よろしくお願いします」


 なんでこの人、こんなに笑顔なのかしら?

 私は戸惑いと警戒心を感じながらも、ベール越しに夫となる人を見る。屈託ない笑みを浮かべているけれど、なんで??



 ちなみにベールをかぶっているのは顔にも黒いブツブツがあるからだ。そんなものを初対面で見せられれば嫌な気持ちしかしないだろうからって大体隠しているの。


 でも流石に、夫となる人に見せないのもあれよね。

 この歓迎は演技だろうし、私の顔を見れば本性が露わになるはずよ! こういうのは期待するだけ無駄だもの。


 そう思ってベールを取る。

 そしたら当然、視線は集まる。醜いもの。仕方ないわ。



 と思っていたら、夫となる人が理解不能な一言を言い放った。



「可愛いな!」

「!?」


 何を言っているんだろう?? 

 私の顔のブツブツが見えないのだろうか……??



「私の顔は醜いです。御冗談を言わないでください」

「醜い? どこが? 可愛いだろ?」

「……あ、貴方の目にはブツブツが見えないんですか?」

「ん? それがあろうとなかろうと、可愛いか可愛くないには関係ないだろ? 目も大きくて、髪の毛もさらさらの金色で、すごく可愛いぞ!」



 そんなことを言われて私は固まってしまった。




「坊ちゃま!! 奥方になる方が固まってますよ。いきなり勢いよく言いすぎです。こういうのはですね、順序を詰めて仲良くならないと。貴方様と奥様は初対面ですからね?? いきなりこんな大の大男にそんなことを言われたら怖いのは当然でしょう」

「怖がっているのか? すまない!! そんなつもりはなかったんだ!!」

「え、いえ……えっと怖くはないです」


 年配の使用人が急に夫となる人を叱責して謝られて、私は困惑したままそう言った。


 私の言葉に、夫となる人は満面の笑みを浮かべた。


「ならよかった!!」



 いや、それよりさっきの言葉なんなの?

 理解不能な言葉を言われたのだけど??


 困惑したままの私は笑顔のままのその人にエスコートされて屋敷の中へと連れられるのだった。





 

※以前会ったことがあるなどなく、完全に初対面。

サブタイトルは旦那のセリフメインにするつもりです。


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