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遺品の国  作者: 柳暗馨香
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遺品の国(上)

 羽が生えた電球。其処らじゅうにあるゴミ袋。喋る古びたヨ-ロッパ調の外灯。

 ——此処ここは遺品の国。人に捨てられた物達が集まる所。

 そんな国に新しい住人がやってきた。轟音を鳴らしながらゴミ収集車が門をくぐり抜けてやってくる。車からまるでペッと吐き出すように大量のゴミ袋が放り出された。そして黒い排ガスを残して車は去っていってしまう。あたりは静寂に包まれた。

 突如一つの袋がゴソゴソと動き出す。まるで雛鳥が卵を割るようにビニ-ル袋に縦の裂け目が入る。 

 中から出てきたのはネコのぬいぐるみであった。その目はビ-玉のような黒い瞳をしており歯はギザギザしていた。よほど大事にされていたのか至る所に布の継ぎ接ぎや、小さな穴が開き綿が飛び出している。よく見ると黒いオイルがネコの口に付き垂れてしまっていた。きっとゴミ袋にオイル缶が紛れていたのだろう。

 ネコは辺りを見渡していた。何かに気が付いたようにゴミ袋をあさり始める。辺りにピョーンとゴミ袋が散乱した。ふとネコが動きを止める。その手には錆色の四角い鞄が握られていた。それを大事そうに胸に抱えそして肩に提げた。

 するとポンッというように外灯に明かりが付き徐々に辺りがほんのりと明るくなっていく。外灯の足元にはお土産屋のような店が佇んでいた。ネコはなんだろうという好奇心で店の前まで歩んで行く。ふと店先にあった地図を手に取った次の瞬間。


「何かお探しかい?」


 外灯がネコにしゃべりかけたのだ。ネコは咄嗟のことで目が飛び出しそうなくらいお驚いてしまいそこから逃げ出してしまった。

 気が付くと見知らぬ路地裏にいた。そこは薄暗く道が入り組んでおり、まるでお化けが出そうだとネコは感じた。

 すると遠くから何か音がする。耳を澄ますとバサッ、バサッという鳥の羽音のようなものが聞こた。その音がだんだん近づいてくる。ネコ恐怖で体がすくんでしまう。それは階段からスッと姿を現した。白い鳥の羽が生えた電球であった。暖系色の淡い光を放ちながらぐらぐらと鳥は飛んでいってしまう。

 ネコは緊張がとけ安堵した表情を浮かべた。そして咄嗟に手に握ぎってしまった地図を読んでみる。薄暗くはっきり読めない。明かりがないからだとネコは考えた。さっき通り過ぎた鳥のことを思い出し、待って~というように慌てた様子でネコは鳥を追いかけた。

 

 なかなか鳥が止まってくれずネコは悪戦苦闘する。するときっと飛びつかれたのであろうか黒い鋼鉄でできた木のオブジェに鳥が止まった。これは好機と思い急いでネコはその下で地図を広げてみる。

 右に傾けてみたりひっくり返したり逆立ちしながら読んでみる。しかし此処がどこだか見当がつかなかった。虚しく時間だけが過ぎてゆく。


「どうしたの。道に迷ったのかい?」


 突然話しかけられたネコは声の主を探す。するとそこにはウサギのぬいぐるみがいた。

 目はボタンでできており左側の顔には違う色の布がきれいに縫い合わされ、左右非対称の耳をしている。きっとこの子がしゃべられるのは体に内蔵スピーカーがあるからだろうとネコは思った。

 ネコは返事をするように首を縦に振った。


「どこに行きたいの?」


 ウサギはネコに聞いた。だがネコは困り果ててしまう。言葉がしゃべられないから相手にどこに行きたいのか伝えられないからだ。ネコは何か言葉の代わりになるものがないかと思い鞄の中を漁った。クリップや三角物差しが其処そこらじゅうにコロンと散らばってゆく。ネコはくしゃくしゃの紙とオレンジ色のクレヨンを取り出した。そして慣れない手つきでクレヨンを握り文字を書いていゆく。


『家に帰りたい』


 まるでその字は蚯蚓みみずのような字であった。

 ウサギはネコに質問する。


「家がどこだかわかるのかい?」


 ネコは首を横に振った。

「だったら一緒にこの国を散策しよう。もしかしたら何か手掛かりがつかめるかもしれないよ」

ネコはその提案を受け入れ、ウサギと一緒にこの国を巡ることになった。

 ところでさっきから気になっていることがネコにはあった。ウサギの後ろで何かがゴソゴソと動いていることだ。覗きこんでみるとそこにはペンギンの玩具がウサギに首根っこを引っ捕まえられている。

 頭には二本のネジが刺さっており背中にはゼンマイ仕掛けに付けるような鍵が付いてた。その口は半開きでギザギザした歯が生え今にも何かに噛み付きそうな眼をしている。

 ウサギがネコにペンギンの玩具を紹介をしようとしたときパッ手が離れてしまった。すかさずペンギンの玩具は砂煙が出るほどの速さ走り去ってしまう。行先は群青色をした魚の自販機であった。べったり顔を貼り付け物欲しそうな顔で見ている。その光景をネコが驚いたような心配そうな顔を浮かべる一方ウサギは慣れたような様子であった。

 ウサギ曰く走り去ったあの子はペンギンと呼ばれているらしい。


 ウサギ達は慣れた足取りで入り組んだ薄暗い路地裏を歩いてゆく。その後ろをネコは付いて行った。すると徐々に道が明るくなってゆく。眩しさにネコは目を細めながら進むと大通りと思わしき場所に出た。

 古びた機械仕掛けのインコが腰掛けるアンティーク家具店。リスの親子が営むベ-カリ-店。メカニックな光沢を放つイヌのお巡りさんなど。大通りには様々な店や溢れんばかり物達がごった返していた。

 その場所には物達が独自に作り上げた文化が確かにあった。どれもこれもがネコにとっては刺激的で独創的であったと同時にどこか懐かしい風景であった。

 街並みを眺めながらを歩いているとネコは物達が上を向いていることに気が付く。何事かと思いネコも上を向く。空には雲のように大きな鯨が泳いでいた。その周りを海月くらげ海豚いるかが並走しながら泳いでいる。その風景は陸に居るのに水中にいるような錯覚を起こさせるものであった。

 隣にいたウサギが興奮気味に喋りだした。


「わぁ! 君はとても運がいいねこの船は百年に一度しかこの国に来ないんだ。僕も初めて見たよ!」


 ウサギの話は長時間続いた。要約するとあの鯨は船であり、その中には滅多にお目にかかれない秘蔵の本や大量の宝物が乗せられているらしい。

「船の中を見ないなんて損だよ。さぁ行こう」

ウサギが腕を掴まれ半場強引に連れて行かれるネコであった。

 船は近くの広場に停留していた。思っていたより住民たちが多く、これではなかなか順番が回ってこないなとネコは思った。


 しばらくするとようやくネコ達の順番が回ってきた。目の前の鯨の船は大口を開けている。その中を進むのはまるで自分達が食べられに行くようであった。進んでいると少しずつ温度が下がっていく。冷たいという感じではなく心地の良いひんやり感であった。足音が曇った音で反響している。きっと誰かがつまずいたのであろうその声が此処ここまで聞こえてきた。

 ネコ達は図書館コ-ナ-と看板が置かれているところから回ることにした。その中は部屋の端が見えないほど広く天井は点にしか見えないほど高かった。その部屋いっぱいに焦げ茶色の本棚に大小、色とりどりの本が並べられている。

 ネコやウサギはその光景に息をのんだ。ネコは近くにあった本棚から見慣れた背表紙を見つけ手に取った。浅葱色をした本で、表紙に少女が描かれている。それは絵本であった。ウサギが目を輝かせながらやって来た。


「凄いな……。それ天の国と地の国でしか出版されていない本だよ。どんなお話なんだろう」


 目に焼き付けるようにウサギはその表紙を見ている。ネコはまた紙とペンを取り出し字を書き見せた。

 

『女の子、兎追う、不思議の国、迷う』

 

それを見たウサギは信じられないという表情でこういった。


「君これを読んだことがあるのかい?!」

 

ネコは遠い昔友達の女の子とこの本を読んでいたことを思い出した。そしてハッとした表情を浮かべまた文字を書いた。元々 蚯蚓みみずのような字が急いで書いたためもっと読みずらい字になってしまったがこう書いてあった。


『友達、これ好きだった、』

「つまり君が家に帰りたがっているのはその友達に会いたいから?」


 ネコは首をぶんぶんと取れそうなくらい縦に振っている。


「そうかならまずはその友達を探そうかでも——。今僕は手伝ってはあげられない」


 ウサギは真剣な顔立ちをする。ネコはその言葉にショックを受けてしまい下を向いてしまった。そしてウサギは重い口を開ける。


「この船の中をまだ見ていたい」


 ウサギの顔は決意が固まっている顔であった。しかしネコがショックを受けた表情を見た後ウサギは申し訳なさそうな顔になる。


「……でももし良いんだったら此処ここを見た後では探してはあげられるよ」


 それを聞いたネコはウサギの手を握り飛び跳ね喜んだ。

 そしてネコ達は次に博物館コ-ナーを回った。黄金に光る金魚や骨がオパ-ル化したティラノサウルの骨などが展示されていた。

 すると突然ウサギがあっという声を漏らす。気が付くとペンギンがいなくなっていたのだ。辺りを見渡す。するとペンギンは魚のミイラのショ-ケ-スに顔をべったり貼り付けていた。よだれを啜りながら。


 一通り見終わり外に出るネコ達。


「あ~楽しかったな。あれもこれも素晴らしいものばかりだったね」


 ウサギはまだ興奮冷めやらぬ感じであった。

ネコは不思議に思うことがありウサギに質問をする。


『どうして本や宝物が好きなの?』


 するとウサギが遠い日のことを思い出すようにいった。


「僕は昔とある老夫婦の体調管理ロボットだったんだ。正式名称は第三世代自己成長型AIロボット兎モデル。自己成長型AIという性質上新しい知識や体験、感情を学ぶようになっているんだ。この国に来てもその感覚が抜けなくてね。やっぱり学ぶことが好きなんだ。本が好きなのは老夫婦が大の本好きで僕もその影響を受けたからかな」


 微笑みながらウサギが言った。

 そして雲のような綿あめを貰いに遠くへ行ったペンギンを見つめながら話は続いた。


「僕には物としての楽しかった思い出があるけれどペンギンにはそれがないんだ。元々ペンギンは水族館の売り場に居たんだ。ようやく開館というところで水族館に資金援助していた会社が倒産してしまった。水続館側も何とかやりくりしていたけれどもやはり資金が足りず泣く泣く破産することになってしまった。そうすると売り場にいたペンギン達はどうなったか。……廃棄されたんだよ。」


 ウサギはとても情けなさそうな表情をしていた。


「その結果があれさ。愛を知らぬがゆえに永遠の飢餓感に苦しむ。それはこの国に来ても変わることはなかった」


 ペンギンは遠くで嬉しそうに綿あめを食べている。


「だからペンギンが迷惑をかけた時はごめんね。ペンギンのことを好きになってほしいとは思わない。だけど嫌いにはならないでほしいんだ。ごめんね……」


 ウサギは笑っていたがとても哀しい目をしていた。


「さぁ辛気くさい話は終わりにしよう」

 

 そうウサギが言っていると遠くにいたペンギンがネコ達に向かって帰ってきた。何の話をしていたのという顔をするペンギン。それに対してウサギは何でもないよと言い歩き出した。

 するとウサギがネコのあることに気が付く。ネコの背中の縫い目がほつれてきているのだ。ウサギがそのことをネコに伝えた。


「友達に会った時に背中が開いて綿が出てきたら君が困るんじゃないかい?」


 そういってウサギはネコに修理屋で直してもらうことを勧めた。するとネコはそれを躊躇する。ウサギがどうしてと聞くとネコは懐かしそうな顔をしながらこう説明した。

 ネコによると昔友達が遊んでいたときに誤って背中に穴を開けてしまい、この赤い縫い目はその時に友達が慣れない手つきで、頑張って縫ってくれたものであるらしい。

 そういう事なら、とウサギがネコに提案する。


「だったらその縫い目を残しながら直してもらったら? やっぱりそのままにしておくのもあまり良くないよ」


 ネコは少し悩んだがこれ以上綿が出てしまっても大変なので直してもらうことにした。


 ネコ達は大通りのとある修理屋にたどり着いた。其処そこは煉瓦色をした建物で看板にはポップな字で【ハリネズミの修理屋さん】と書かれている。小窓からはせっせと働くハリネズミ達の姿が見えた。

 ウサギが扉を開けるとカランカランとドアベルが鳴る。すると一匹のハリネズミがこちらに気が付き駆け寄ってきた。


「ウサギさん今日は何処を修理なさいますか?」


 ハリネズミの言い方でウサギは此処ここの常連なのかな?とネコは思った。


「いや今日は僕じゃなくてこの子の修理を頼みたいんだ」


 そしてネコを紹介するウサギ。どれどれとハリネズミがネコを診察していく。う~んとハリネズミが悩ましい顔をした。


「背中の糸のゆるみがひどいですね~。赤い糸を引っこ抜いてしまいましょうか」


 ネコの肩がビクッと揺れる。それを見かねたウサギが言う。


「出来ればこの赤い糸はそのままで直してあげられないかい?」


 う~んとハリネズミはまた頭を悩ませている。そして手をポンと叩きこういった。


「お任せください! 私これでもプロですから」


 その言葉にネコは一抹の不安を覚えた。

 

 丸い回転いすに座らされるネコ。やってきたハリネズミの手には白い糸しか握られていなかった。ネコは針を持っていないことに疑問を感じる。友達に縫ってもらった際には針に糸を通し縫っていたからだ。針は何処だろうと思ったときハリネズミがこういった。


「針は何処にあるんだろうとお客さん思いましたね」


 ネコはまるで考えていたことを読まれたように感じ驚いた。一方ハリネズミはニコニコしている。するとハリネズミは自身の背中に手を伸ばした。


「正解はここで~す」


 突然ハリネズミは自身の背中から生えている針を引っこ抜いた。ぶちっという生々しい音が聞こえる。心配でネコの顔は青ざめていった。


「安心してください。すぐ生えてくるんで」

 するとニョキと音を立てて針が生えてきた。そのことにネコはほっと肩をなでおろす。

 そして裁縫されながらネコは昔のことを思い出していた。


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