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用件の済んだ父とともに王城から戻ったロベルタは、とにかく本を読み漁った。

これまで見過ごして来たことを、今度は見落とさずに拾えるように。

拾った情報を有益に活用できるように。

足りないものを埋めるため、一日の大半を書斎に籠るほど本を読んだ。

ロベルタの家には、知識を得るのに十分な書斎があった。

公爵家の中でも王の信頼に厚く、重要な役を度々任されてきただけあり、クルーミナでも上から数えて5本の指に入るほど広い敷地を有している。そこに所蔵されている書籍は、王城の書庫には劣るものの、国内の歴史や特徴、外交関係の資料まで世間で書籍としてとり扱われているものに加え、ピスターシェの家名がなければ見ることも出来ない資料まで揃えてられている。

6歳児が読むには早い内容ばかりのため、わざわざ隠されるようなこともなく、書棚の高い位置にまとめ置かれているのが、ロベルタにはしっかりと分かった。

一方で、幼少期から経営や統治の知識を得られるよう、わかりやすい言葉に置き換えられた本も準備されていた。対象年齢10歳以上の本ばかりではあったが、それらの書籍が多く置かれた場所の近くに陣取り、ロベルタ書斎内のありとあらゆる書籍に手を出した。

元来、6歳前後のロベルタは、元より室内で本を読んだり、刺繍の練習をすることを好む性格だった。そのため、父母を含め周囲の大人たちは、第一王子ノイン様と会ったことで、国に関する知識を身につけることに意欲的になっているのだろうと、暖かい目で見ていた。

王城から帰る馬車の中で、ロベルタは父に言った。

『私、もっとこの国のことを学びたいと思います』

これはロベルタにとって、何も知らず死ぬような人生をなぞったりはしない、という意思表示だった。

そんな事情など知らない父は、ロベルタが婚約者として心を決めたのだ、と思っただろう。一つ頷き、必要なものがあればいいなさい。と後押ししてくれた。

その言葉に甘え、この家で得られる情報の全てを取り入れてやろう、と意気込み大きくロベルタの幼少期のやり直しが進むこととなる。



失敗だったかもしれない、とロベルタの父・ラルドが悩み始めるのはそれからしばらく後のことだった。

書斎で本を読んでいる、と執事から言われたのは王城から戻った翌日だった。

昨日馬車で聞いた言葉は本気だったんだな、と思い、そのままにしておくように返した。少しばかりの手助けにと、書斎の本では分かりづらいだろうから、子どもでもわかりやすい本を追加して置くように言伝た。

それから3週間。

家庭教師が音を上げた。勉強中にも本を読んでいるため注意するが、今日の授業はすでに理解しているので支障ないと返される。その為、難しい問題を出してみるが、簡単に解けてしまうので、これ以上は手に負えない、と。

ナッティリア王国では、子女の教育は家庭に一任されている。ピスターシャ家が代々そうであったように、ラルドも同じように子どもたちの教育を行なってきた。10を迎えるまでは、家庭内にて国内における当家の立ち位置や、周囲への振る舞い方、国内諸侯の名前や家族関係など、国内でピスターシャ家の人間として名乗るのに差し支えない人格形成を行う。

今のロベルタも、国内諸侯の親類たちの立場や名前を覚えることを重点的に家庭教師をつけていた。彼女も、代々ピスターシャ家の家庭教師を務めてきた伯爵家の夫人であったが、泣きそうな顔で訴えられては仕方がないので、別の家庭教師が見つかるまでは、独学とした。あえて勉強を強要せずとも、今のロベルタなら大丈夫だろうと考えてのことだった。その後、何人か家庭教師に名乗り出た者があったが、皆一週間と持たずに辞任を訴えるため、ロベルタの家庭教師は不要と判断するに至った。

ロベルタの最後の家庭教師が辞めてからふた月が過ぎる頃、ロベルタ付きの侍女が、執事を通してロベルタの近況について伝えてきた。最近、書斎から書籍を持ち出し、自室でも夜遅くまで読書に励んでいるようだ、と。

最初に聞いたときは、熱心でいいことだと思ったが、朝から晩まで昼食も取らずに自室にこもりきりになっている、とまで言われると、流石に熱中しすぎかと、夕食の席でそれとなく食事はきちんと取るように、伝えた。

更に半月、ロベルタがお願いがあると言い出した。

『お父様、地図を買ってはいただけませんか』

『書斎に地図帳があっただろう』

執務室の向かいに腰掛け恐る恐る伝えてきたロベルタは、答えを準備していたのか即座に返してきた。

『書斎にある地図帳は、書斎に戻さなくてはなりません。自分の部屋に置いてもいい、私の地図が欲しいのです』

『確かに、あれは書斎に戻しておいてもらわねばならないか』

その言葉には一理ある、と納得した。

ここで断って、書斎の地図を自室に持ち込まれ、必要な時に見られなくなることを考えれば、地図の一つ位、買ってやった方がいい。

『いいだろう』

『ありがとうございます。できれば、一枚紙の全国地図をお願いいたします。あ、各地の詳細な地図もいただけると嬉しいです』

一枚紙の地図であれば、書籍より価格も安く、出回っている数も多かったため、了承してすぐに買い与えた。珍しく物を強請ったかと思えば、地図、というのが少し味気ないほどだった。国内だけでなく、他国にも視野を広げる、いいことだと褒めたような気すらする。

そうして、ロベルタが7歳を迎える日、妻が言った。

「最近、ロベルタのよくない噂が出回っているんです」

ロベルタは今日も自室にこもっていた。

珍しく執務室に顔を出した妻の、神妙な表情からその噂がすでに広まってしまっていることが伺えた。

「どんな噂なんだ?」

「それが、位の低い者を馬鹿にしている、とか。高飛車だ、とか」

妻の話によれば、ロベルタは世間でとても高慢で、感じの悪い公爵令嬢という位置に属しているという。

「一体なぜ」

書斎にこもって本ばかり読んでいる娘が、どうして。と動揺を隠せなかった。

「あの子ももう7歳です。来週には顔見せのためにパーティーへも出席しなければなりませんので、少し前から内輪のお茶会などに一緒に出席していたのですが、その時によその御令嬢たちと上手く話ができなかったようで」

まだ早かったのか、と悩む妻に、書斎にこもってばかりいることを黙認していたことを、少しばかり後悔した。

そして迎えた顔見せのパーティ。王家も出席するそのパーティでラルドは、妻の言ったことを理解する。

同時に、この1年のロベルタの教育方針に誤りがあった、と頭を抱えることとなるのである。

次回はロベルタ視点に戻ります。

お父様に少し説明をお願いしてしまいました。

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