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世界を滅ぼすため呼び出した破壊神が超温厚だった件

作者: ゼロん

作者は無神教です。キリスト教とか宗教は無所属ですので。


*****8月25日2020年追記****


読者の皆さま、たくさんの評価と応援をありがとう!

コメディ日間一位が二日連続で……!?

今までベスト三にまではなったことがなかったので、見た瞬間に目を疑いました(笑

 


「────む────だ────あ────らーい────ら」


 呪文が講堂に木霊する。


「────召喚の準備は整った! さぁいでよ破壊神! そして世界を破壊するのだ!!」


 教祖! 教祖! と邪教徒たちのコールが聖堂に響く。聖堂と言っても魔物の作った聖堂なので、聖なる講堂でも何でもないのだが。


 教祖と思わしき女が手をかざすと、天から豪雷が天井を破り、祭壇へと降り注がれる。


「おぉ……! おぉぉ!! まさに古文書にあった通り……なんとも禍々しい……!」


 雷の衝撃で砕け散った祭壇から現れたのは一対の翼。竜を彷彿とさせる鱗と翼の影は、教祖とその周りにいた邪教徒たちを覆い尽くしていた。


「────」


 四本の腕を伸ばし、破壊神と呼ばれた悪魔は黄色い眼光を放つ。


 邪教祖はゴクリと息を飲む。かつてない緊張。機嫌を損ねれば願いを聞き届けてもらえないかもしれない。


 邪教祖にとって、信奉する破壊神に破壊されることは本望だが願いに関してはせめて聞いてもらいたい。


「破壊神さま……ようこそ、召喚に応じてくださいました」


「…………ん? あっ、君かな? ぼくちんを呼び出したのは」


 ……ぼくちん?


 イメージしていた口調と違うことに女邪教祖は一瞬戸惑うが、調子を崩さないよう努める。


「君の名前が聞きたいんだけど、いいかな? 召喚者くん」


「え、あ、こ、これはなんと!? な、名乗ってもよろしいのですか?」


「もちろん。名乗らなきゃなんて呼んでいいのかわからないからね」


 容姿に反して意外とフレンドリーな破壊神だなと思いつつ邪教祖は悩む。


「……申し訳ありません。私に今は名はありませぬ。邪教祖とお呼びください」


「そっか。けど呼びにくいからキョウちゃんでいい?」


「きょ、キョウちゃん……?」


 教徒たちも困惑しだす。中には笑いを堪えている者もいた。


 ────笑ったやつ、顔は覚えとくからな……!


「ぼくちんは破壊神ルシファエール。で、召喚した用件を聞きたいんだけど」


 ぼ、ぼくちん……。


 ────────はっ!?


 そ、そうだった。あまりの破壊神のゆるふわ感に流されるところだった。


「破壊神様。我々、破壊教はこの腐った世界の破壊を目的とする教団。破壊神様を召喚したのは他でもありません。────このくだらない世界を跡形もなく破壊していただきたいのです」


 悪魔に魂を売った。数々の魔物を魔界から召喚し、邪教徒弾圧と叫ぶ国々を滅ぼした。


 あとは邪魔をする憎っくき勇者どもが到着する前に、世界を終わらせる。


 邪教徒全員が世界に対する敵意と憎悪を孕んでいるのだ。自らの命と引き換えに世界を滅ぼしてもいいというほどの。


「うーーーーーん。簡単なんだけどねぇ」


「何か問題でも?」


 女邪教祖は破壊神に尋ねる。


「世界滅ぼしちゃうと君らみんな死ぬけどいい?」


「構いません!!」


 女邪教祖に続いて教徒たちも口を揃え同じ風に叫ぶ。


「神の慈悲なき世界に明日など不要!! それに破壊神に滅ぼされるのなら本望でございますぅ!!」


「────そっか」


 破壊神は軽く伸びをする。


「ごめん、無理。ぼくちん破壊神検定二級だから」


「は、破壊神検定!?」


 完全に想定外の回答に邪教祖は目を丸くする。

 破壊神はいやぁごめんねと目を細める。


「世界破壊免許も持ってないし」


「せ、せせ、世界破壊免許!? そんなものが存在するのですか!?」


「ぼくちん、試験勉強とか嫌でさ。まだ免許取ってないんだよね」


 並行世界の歴史とか暗記ものがもっのすごい多いんだよ、萎えるよね、と破壊神は愚痴る。


 しかし邪教祖たちはそんなことでは納得できない。


「お、お考え直しいただけないでしょうか……!? わ、矮小な身で異議を申し立てることどうかお許しを……! しかし我々はこの時を、破壊神さまの降臨まで十年ほど待ったのです……!」


「え、十年もかけたの? この世界じゃ60生きれば長い方だって聞いたけど……君ら六分の一の人生の時間、ぼくちんの召喚に使っちゃったの?」


「おっしゃる通りです!! ……どうか。どうか我らの祈りを聞き届けください……!」


 お花畑で遊びまわるのに使った方がまだ有意義だと思うんだけど……と破壊神は聞こえないように呟く。


 邪教祖は目元に黒く隈のついた顔を床に擦り付ける。邪教徒たちもそれに倣う。

 困ったなと頭をかく破壊神。


 というか、いまさらこのお方は破壊神なのかと女邪教祖は疑問を持ち始めた。


「そうは言ってもなぁ……」


 姿形は伝承通り破壊神のそれだが。そもそも破壊神ってこんな穏やかな性格なのか。

 姿を偽った偽物……? いや、召喚に不手際があったのか。儀式にそもそも問題が……?


 無音となった空間にわずかに蚊の鳴く音が。ちょうど講堂の端の方にいるようだ。


「あ、蚊がいるね、えいっ」


 破壊神が拳を握りしめると、蚊ごと講堂の柱をパァンと大きく音を立てて粉々に粉砕した。拳を握っただけでだ。


「ごめんね。力加減ミスしちゃった。高い柱とかだったりする?」


「い、いえ……」


 その柱、激しい戦闘とかでも壊れないように金剛石でできてたんだけど……?


 蚊を引っ叩く程度の力でも容易く金剛石を破壊できるとは……やはり破壊神に違いないようだ。


 性格はイメージとまるで違うが……いや、こういう慈悲深いお方を怒らせた日にはなにが起こるか……想像しただけで寒気がする。


 えぃっ、で世界一硬い鉱石を粉々に砕いちゃう神様だ。世界なんて、おりゃーって一瞬で粉々にできるだろう。


 だが殺されるならせめて一息で殺してほしい。

 あの潰れた蚊のように。どうかこの破壊神が隠れドSでないことを祈る。神様目の前にいるけど。


「それよりもさ。今一通りこの世界を見たけど、住んでる人は別にして、すごい綺麗な世界じゃないか。壊しちゃうなんて勿体ないよ。環境汚染も無いし空気も澄んでいる。ゴミの山だってない。少なくともぼくちんは嫌だなぁ」


「な、ならばどうか……せめて勇者だけは片付けてもらえないでしょうか……! すぐそこまで来ているのです」


 女邪教祖は焦りながらも妥協案を提案する。少なくとも相手は破壊神なのは間違いない。


 彼の意見を真っ向に否定して、イラつかせて機嫌を損ねさせるのは何かと不味かろう。


「うーむ。それは君らを殺しに来る感じの勇者かな?」


「そ、そうです! 我らを殺しに来る系の勇者一行です」


「複数人いるんだ。それは良くないね。わかった。勇者はぼくちんがなんとかしてあげよう。ようは君らに害を加えさせなければいいんだよね?」


「は、はい! ありがとうございます!!」


 ははぁーっと首をられる邪教徒たち。


「そ、それで……破壊神様がお気に召すのなら……こちらを」


 教祖が合図を出すと、祭壇の前に手足をロープで縛られた少女が運ばれてくる。


「は、離して!! 私を誰だと思っているの!? 離しなさい……ひっ!?」


「この者は破壊神の生け贄として用意しました。これは我々のせめてものお気持ち。どうか、じっくりとお召し上がりください」


 女邪教祖は隈のある顔を邪悪に歪める。


 破壊神は高価な衣装を身に纏った少女を四本のうちの一本の腕で掴む。その巨腕は容易く少女を持ち上げて全身を包んでしまう。


 しばらく品定めするように少女を見つめると、


「ごめんね、ぼくちんベジタリアンなんだ」


「な────!?」


 邪教祖がひどく狼狽する。


「サラダとかあるかなぁ。塩胡椒もあると嬉しいんだけど」


「え、ええと……お、おい、教徒Aよ! 破壊神様はサラダを御所望だ!!」


「い、今すぐに野菜を買ってきます!」


 教徒の1人が講堂を抜けてダッシュ。


「君、人型の野菜とかじゃないよね? よく凝った料理とかで動物の形にした料理とかあるけど」


「じ、人肉です! ビーフ100%です、私!!」


 人肉なのに牛肉と、助かりたいあまりに言動がおかしいことに気がつかない生け贄。


「なんだぁ。じゃあ、ごめんね。下ろすね」


「え、あ、ちょ!? 破壊神様!?」


 生け贄として差し出された高貴そうな少女を下ろす。下ろした彼女に破壊神は耳打ちする。


「ささ、おいき」


 少女は逃げ出した。


「えっ、あっ、いや、ちょっと!? か、勝手なことをされては困ります! その者は王国の第三王女────」


「────勝手なこと?」


 破壊神の一言に邪教祖は震える。


「い、いいえぇ! 私こそ、で過ぎたことを! ど、どうぞなんでもおっしゃってください我が神────」


「────そうだね。ごめんね。勝手なことだったね。ぼくちん、あまりにもきみらのことを考えてなかった」


 再び頭上にはてなマークを浮かべてフリーズする邪教祖。先ほどから破壊神の次なる言葉が予想の斜め上だ。


 何を考えているのか、いや待て。

 この破壊神────


「なにか埋め合わせできるかな? 世界を滅ぼすこと以外なら……そうだ! みんなで空を飛ばないかい? きっと良い景色が観れるよ!」


 温和すぎる!!


「ところでさ、疑問なんだけど。なんできみらそんなに世界を滅ぼしたいんだい?」


「────────」


 我が神よ、と邪教祖。


「実際にあなた様という神を召喚しましたが……私どもは、善なる神……俗に人間どもが崇める『神』という存在が居るとは思いませぬ」


「きみらも人間でしょうに」


「我らは破壊神様の使徒!! ゆえに、ほかの人間どもとは違うのです!!」


 色々ツッコミどころはあるけど、まぁ良いかと破壊神は捨て置く。


「もし『神』などというものがあるならば!! なぜ我々をお救いくださらなかったのか!! どれだけ勤勉に敬虔に、誠実にあったとしても、なぜいざと言う時に我らをお救いくださらないのか!!」


 邪教祖は黙る邪教徒たちの言葉を代弁する。


「なぜ神は戦争を黙認なさるのか! なぜ神は愛しき隣人をお救いくださらないのか! なぜ苦しみの中で愛しいものを失わせるのか! なぜ神は我らに絶望と無力感をお与えになり、その上で死の運命から我らを遠ざけるのだ!!」


 破壊神は黙って教祖の嘆きの叫びを聞く。


「なぜ疫病なぞを罪もない者たちに振りかけるのか!? なぜ罪のある者たちは因果によって息だえない!? なぜ貧しい者たちから搾取し続ける心なき上流階層がのうのうと生きているのか!!」


 教祖は美しい顔をしている。しかし何年もまともな生活を送れていないのか目元の隈も濃く顔色もすこぶる悪い。他の教徒たちも同様であったが、教祖のはもっと酷い。


「なぜ神はこの世の理不尽を黙認なさるのか……我々は答えを出しました。……俗に信ずる神がいないか……それとも我々を救う神など─────おわせられない、ということです」


「……」


 教祖は狂笑をたたえて両手を振り上げる。


「しかし──────破壊は違う!!」


 破壊神に対し文字通り、熱狂的に訴える。


「死は誰に対しても平等に与えられる!!! なれば破壊の神はおられるはず!! 森羅万象に等しく死と破壊をお与えなさる神ならば!!我々はそう信じて、すべてを破壊するのです。破壊こそ理不尽と絶望を打破できる絶対の者と信じて! 破壊と復讐こそ、無惨にも散っていった隣人や愛人の魂に捧げられる鎮魂歌であり、心なき圧政者に与えられる唯一にして究極の鉄槌なのです!!」


 教祖は涙する。涙しながら笑っている。


「どうか、どうか愚かしき私たちのために。もしあなたが慈悲深き唯一の神であらせられるなら!! その破壊の力を我々のためにおふるいください! 少しでも哀れと思ってくれるのなら! どうかその圧倒的な死をもって!! 我々をお救いください! 我が唯一の神よぉっ!!」


 はぁはぁと教祖は息も絶え絶えに肩を揺らす。


「……そっか」


「おわかりいだだけましたか……?」


「…………大変だったね。ずっと……苦しかったでしょ、キョウちゃん」


「きょ、キョウちゃん……」


 緊張感の無い呼び名に肩を落とす邪教祖。


 破壊神は凶悪な顔つきに合わない温和な表情を信徒たちに向ける。


「あ、そうだ。勇者ってのは────そこにいる人間たちのことかな?」


「ひぃっ!?」


「見つけたぞ邪教祖! 教団はここまでだ!!」


 数人の戦士と思わしき者たちが講堂に現れる。


「あ、あぁぁぁ……破壊神さま!!」


「ぬっ……まさか、あれが破壊神……?」


『っゆ、ゆうしゃだぁ!! 破壊神さま、どうかお助けを!!』


 状況は一触即発。どちらかが剣を抜けば、すぐに殺し合いとなる。


 敵意、懇願、期待、殺意。さまざまな視線が破壊神に向く。


「────────こんにちは、ぼくちんはルシファエール。破壊神って呼ばれてる。勇者くんたち、名前を聞いても良いかな?」


『!?』


 全員が驚愕する。

 勇者に関しては破壊神という存在と会話すらしたことないため非常に動揺していた。


「え、ええと、ロンダンだ」


 勇者パーティのリーダーっぽい人が前に出て名乗る。


「そっかぁ、ロンくん。破壊神でいいよ。よろしくね〜」


「あ、あぁ、よろしく……?」


 破壊神は腕を握りつぶさないように指を勇者の前に出す。勇者は指ならばと、呪いをかけるつもりかと注意を払いながら指と手の握手をする。


「ぼくちんはね、ロンくん。君らと彼ら教団の人たちとは戦って欲しくないなぁって思ってるんだよ。なんか良い方法ない?」


「────!? 破壊神さま!?」


 仲悪いけど和平しよう。

 破壊神は事もあろうに、その方法を相手に尋ねるという暴挙に出た。


「な、なんか……」

「あ、あぁ」

「思ってたのと違わね?」

「う、うん。なんかめっちゃ友好的だし」

「なんか見た目と違って超ゆるふわ破壊神なんだが」


 勇者一行が明らかな戸惑いを見せる。


「い、いや、騙されんぞ! 破壊神め! 甘言で我々を騙すつもりか!! 今更和平などあるものか! こいつらは狂っている!」


「そ、その通りです破壊神さま!! 和解など不要不要!あなた様の圧倒的なお力が有れば、勇者などチョチョイのちょいですよ!! やってしまいましょう! 彼らを破壊するのです!」


「まぁーまぁ。待とうか。ぼくちんは本当にやる気ないんだって。ほら、白旗。話聞こう、まずは」


 破壊神は白旗を上げてひらひらと降る。


「破壊神さま!!」


「キョウちゃん、力を見せることだけが勝つ方法じゃないよ」


「きょ、キョウちゃん……」

「邪教の教祖のこと、キョウちゃんって……」

「まじでなんか毛色違うな、こいつ……本当に破壊神か?」


 こいつら、とうとう狂いきって、ゆるふわ神でも召喚したんじゃあるまいかと勇者たちは呟く。


「あのね、ロンくん……彼らはね」



 *****



「本当に和平まで持っていっちゃたよ……」

「やはり破壊神さまは破壊神さまか……彼らの敵意をも破壊したのか」

「さすがは破壊神さま……我々の破壊とレベルが違う。敵という概念すら破壊なさるとは」


「お、お前たち! は、破壊神さまがお呼びなのだ! 少し急がぬか!!」


 破壊神に召集を受けた教祖と教徒たちは講堂に集まる。


 当の破壊神はというと、天井に穴の空いた講堂で瞑想……ひなたぼっこをしていた。


「は、破壊神さま! 瞑想中申し訳ありません! キョウちゃん……いえ、教祖および、全教徒ここに集いましてございます!」


「……はっ! ………あぁ、ごめん。寝てた」


 破壊神は瞑っていた眼を開ける。


「さぁ、ぼくちんの背中に乗って。きみらの縁の場所に行こう」



 ****



「は、破壊神さまのお背中に……!」

「な、なんという栄誉だ……!」

「は、破壊神成分、くんかくんか!!」


 教徒たちは大興奮状態である。


「…………」


「どうしたのかな、キョウちゃん」


「……いえ、一体どこに行かれるのですか?」


「すぐにわかるよ、その前に身体を洗おうか。きみら、自覚ないと思うけど結構臭いよ」


『────えっっっ!?!?!?』


 第三者から言われるのはショックである。


「召喚時の時からくっさいなぁって思って」


 特に臭いという言葉は心に堪える言葉だろう。



 ****


 身体を清め、全員数日間、死んだようにぐっすりと寝た邪教徒たち。


「なんか……すげぇさっぱりしたな」

「なんだ…………まるで生まれ変わったような」

「あぁ……まるで心が洗われたような」


「さぁ、そろそろ着くよ。君たちのゆかりの場所だ」



 ****



 破壊神は教徒たち全員の親族、恋人、隣人。その墓を巡った。


 墓がない場所は遺体を埋めて。ある時は破壊神の超常の力をもって遺族の魂の言葉を教徒たちに伝えた。


 墓石すら彫られていない粗末な墓に教会と墓地を作り、破壊神自身が遺族の未練を破壊するかのように怨霊を払い、鎮魂の呪文を唱えた。


「……やっぱり知人が破壊と殺戮をばら撒いてたら成仏できないよなぁ……安心してお逝き」


 破壊神は教徒たちに聞こえないように呟く。

 少し遠くではおいおいと泣いて嗚咽の声を流している。


 そんな彼らをその隣人の代わりとして話を聞き届ける破壊神。一人一人。狂人と化した邪教徒たちは正気を取り戻していった。


「あぁ……あぁぁぁぁ……っ」


「よしよし。キョウちゃん……辛かったね。苦しかったね。十年以上ずっと。苦しんできたね」


「あぁ……あぁぁぁ……うぅぅ」


「大丈夫。彼らはきみを恨まないよ。愛しい人たちは理不尽な死を迎えたね。罪のない家族も友人も……人のする死に方ではなかったよね」


「……ぐすっずずぅ……!」


「それでも彼らはきみのことを愛していたよ。魂だけの状態になろうとも、ずっと気にかけてくれていたよ。……泣いていい。泣いていいんだよ。ここに苦しみはない。悲しみはあったけど、それ以上に愛があったんだよ」


 破壊神も、同じく涙を流しながら諭すように語りかけていた。それこそ────まるで隣人のように。


「……うぅ、うぅぅぅ」


 その後、邪教祖の隈はすっかりとれて、別人のように生まれ変わっていたという。



 教団の総本山に破壊神の背中に乗って戻る時、破壊神は言った。


 夕焼けと赤く染まる緑の山々。


「綺麗だねぇ」


「────はい。我々もそう思います」

「……夕焼けって」

「こんな綺麗だったっけ」

「……世界、綺麗やなぁ」


 教団徒たちは口を揃えてそう語ったという。


 ******


 それから数年後。


 苦しみは未だ続いている。彼らの嘆く悲しみは未だに世界を覆っている。


 しかし変わったこともある。


 大きな変化は……破壊教という邪教は、新たにゆるふわ教として、苦しむ人々を救う国教となったことであり、政治とは無縁の救援団体となったことである。


 信徒は増え、教えも以前の狂信的なものではなく、寛容なものとなった。


「おい、薬はまだか!?」

「ちょっと待ってくれ。あぁ、開発中の新薬があるんだが。これなら疫病に効くかもしれない」


 教徒たちは悲しみを憎悪ではなく、前へ向かう優しさへと変えた。


 さて、邪教祖はというと。


「さぁ、すぐに良くなりますよ。教徒A。濡れ布の交換をお願いできますか」


 慈母のような微笑みを讃え、人々の悩みを聴き、救済する美しき聖女と化した。最近は孤児を集めて孤児院を開くつもりのようだ。


「破壊神…。いいえ、ゆるふわ神さまのように。あぁ、我々も人々の中から苦しみを破壊しなければ。同じく悲しい人が増えぬように」


 人一倍の悲しみを味わった自分であるからこそ、と本人は言っている。


 破壊神は数年前にいつのまにか自分たちの前から居なくなっていた。


『きみらの信ずるぼくちんはきみらのすぐ側にいる』


 そう書き置きを遺して。


「あの……教祖さま」


「なんでしょうか?」


「ゆるふわ神さまは……ゆるふわ神ルシファエール様は……本当に破壊神だったのでしょうか」


 本物とすると、我々の何を破壊していったのかと、元邪教祖に問いかける。


「────破壊神さまは、我々の悲しみを破壊したのですよ」


 ずっと……我々が本当に破壊したかったものをと彼女は語った。

読んでいただきありがとうございます!

ゆるふわ神でした。


彼は大事なものを壊していきました。あなたの心です。


*8月25日追記

たくさんの応援と感想コメント、意図せぬ大量の評価ポイント、本当にありがとうございます!


一番嬉しかったのは感想の数々! 

送ってくれた、


奇人変人さん、たらこさん、通りすがりの破壊神さま、名無しさん、パンドラさん、場流丹星児さん、ふぁるさん、


そして他の作品にもコメントを送ってくださった、坂島 ネコやかんさん!


本当にありがとう!

もしよろしければ次回作なども暇があったらよろしくお願いします!


*****


読者さまからの感想、一言など、非常に励みになります! ユーザーやアカウント無しでも書き込めますよー!


良ければじゃんじゃん送ってやってください!

この後書きの下にあるやつから書けます↓

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― 新着の感想 ―
[良い点] 元邪教祖様の、破壊神さまは、我々の悲しみを破壊したのですよ、の一言に涙が零れました。 破壊神様は私の涙腺を破壊されていったようです。 [一言] 読み返してみると、ここに苦しみはない。悲し…
[一言] なろうには沢山神へだとか女神だとかいますが、ここの神が一番マトモだと思う。 他の作品の神て辞書的な仕事しかしない馬鹿しか居ない。日本人の若い世代の宗教観が狂ってるんだろうけど
[良い点] ゆるふわ系破壊神様の破壊力に脱帽(*´艸`*)
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