壱話 目覚めて…………(下)
ゲーセンが好き
ガンダムが好き
早く営業再開してほしい
少し重たい扉を開けて入ってみると外観と同じで広くて綺麗な内装だとわかる。
床には大きな絨毯があり、凝った置物がない白を強調した広くて綺麗な広間。照明は暗くはないが程良い明るさで迎えてくれる。
少女はキョロキョロと辺りを見回したが誰もいないのではないかと思うくらい静かだ。
ただ部屋にも明かりが見えていたので人はいるのだと思い玄関前で見た部屋の方へ歩いた。
1階の奥の部屋、外から見た距離より長く歩いたのではないかと思うくらい長い廊下を歩いた。
床が柔らかいからなのか歩き方が元々静かなのか足音は聞こえない。
一番奥の部屋、明かりが見えていた部屋であろう扉を少女はすんなりと開けた。
開けた先に見えたのは窓側以外全て本で埋め尽くされている書庫。どうやらこの部屋だけくり抜かれたように2階もあり、当然2階にも本棚が見えた。
窓の横には丸いテーブルに1人用の椅子があり、ティーカップが一つ置いてあった。中身は残っているようだが冷めてしまっている。
「そこで何をしているんだい?」
カップを見つめていると上の方から男の声がした。落ち着いていて優しそうにも聞こえるが感情があまりこもっていない声。
「こんにちわ」
少女は顔を上げ決まっていたかのように返事をする。
落ち着いていてかわいくも聞こえるが感情がこもっていない声。
「お客さんとは珍しいね。でも勝手に入ってくるのはいけないよ」
男は一冊の本を片手に静かに降りてくる。
声は若々しいが見た目は30半ばくらいの黒い正装に黒い帽子。帽子は深く被っており顔はよく見えない。
「ベルを押したけど返事がなかったから」
「あぁ、あの呼び鈴は人を呼ぶ物であって、呼んでない人が押しても鳴らないからね」
少女が少し疑問に思っていると男は椅子に座り本を開いた。茶色く分厚い、少し汚れが付いている本。
男はもう話す事はないと言いたいのか少女がいないかのように読み始めた。
少女はしばらく男を見ていたが特にすることもないのでテーブルの横に座り込む。
何の本を読んでるのかと背表紙をのぞくが少女には読めなかった。
少女は何をすることもなく、ただテーブルの横に座り込む。男は一人で本を読み、冷めた紅茶を飲んでいる。
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どれくらい経っただろうか。日の光もないので時間の経過も感覚でしかわからない。
何度か男は本を読み終える毎に本棚へ行き、一冊本を決めてはまた椅子に座り読み始める。少女は一度は部屋の中を歩き、本を眺めていたがすぐに元の位置に戻る。
男は読み終わった本を戻しに行き戻ってきたが今度は手ぶらだった。少女に声をかけることもなくカップを持ち、扉の方へ歩いて行った。
少女はすっと立ち上がりそのまま付いて行く。
部屋を出て広間を抜け、書庫とは反対の部屋に入ると長いテーブルにいくつもの椅子が並べられていた。来たばかりの少女にもわかる。この家には男しかいないのだろう。そんな家で何十人も座れる長テーブルは必要なのだろうか。
少女が椅子やテーブル、壁に掛けてある絵画を眺めながめていると男が向かった奥から温かい匂いが流れてきた。
しばらく経つと男が出てきた。
「食事の時間にしよう。食べる事には意味がある。」
両手には湯気が立ち昇るお皿を持っている。
「君は好きな席に座りなさい。」
片手の料理をテーブルの一番端の席に置いた。どうやら男の席は常に決まっているらしい。
少女は男の席を確認した後に2つ……いや3つ離れた席に座る。男は席を確認すると少女の目の前に食事を準備する。豪華とは言わないが決して貧しいとも感じない料理が少女の前に並べられる。
「…………いただきます。」
男は誰かに向けるように静かに呟いた。
「いただきます。」
少女は当たり前のように口に出した。
男は食事の挨拶を済ませると静かに食べ始める。絵に描いたような綺麗な食事姿だ。ナイフとフォークは自分の体の一部のように自然に動いている。
少女は別にお腹を空かしているわけではないが目の前の暖かい料理を食べ始める。
初めはナイフとフォークの使い方がわからないのかじっと料理を見ていたが男が食べている所をしばらく見た後に食べ始めた。
一見ぎこちないような食べ方にも見えるがその食べ方だけを見れば年相応に見えてしまう。
「…………ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした。」
二人はほぼ同時に食べ終わる。少女は急いで食べていた訳ではないが気がつけば追いついていた。
少女は自分の分が男より少なかったからだと勝手に考えていた。
食器を片付けると男はまた別の部屋に移動する。今度は浴室のようだ。
「身体は綺麗にしておくものだ」
一言伝えると少女を置いてどこかへ行ってしまった。
浴室で一人になった少女は体を洗い浴槽に入る。
少女は暖かい浴槽の中で足を抱える。
しばらく足を抱え込んだら浴槽出て脱衣場に向かう。脱衣場の端には籠があり中には綺麗なタオルが置いてあった。
少女は濡れた体を拭き服を着て脱衣場を出ると男が扉の横の壁にもたれかかっていた。あまり長く入っていたつもりはないが時計もないのでわからない。
男は少女が出てくるとまた何も言わずに歩き出す。
少女もただ付いて行く。
「そろそろ寝る時間にしよう。眠る事には意味がある。この部屋を使いなさい。」
どうやら寝る時間のようだ。
ここには昼も夜もないので関係ないような気もするが男にとってはすでにやららしい。
部屋の中には大人一人が寝るようなベッド、椅子と机が置かれている。他には何もないまさに客間のような部屋。
「おやすみなさい。」
「…おやすみなさい。」
少女は通された部屋に入り男に一礼をした。
男は一言返事をすると扉を閉めた。微かにだが遠くへ消えて行く足音が聞こえる。
もしかしたら少女とまともに会話をしたのはこれが初めてかもしれない。
少女は足音が聞こえなくなるまで聞いた後にベッドへ潜り込む。別に眠くなっている訳ではないが男が寝る時間と言うのだから寝よう。
少女はベッドに入り目を閉じる。少女が夢というものを見るかはわからないが眠りにつくには余り時間は掛からなかった。
内容は色々思いついているのにいざ書き始めるとなかなかまとめるのに時間がかかるんですよね