裏地区
「……そろそろだな。」
マリスから馬車を借り、教会を出立してからおよそ二週間、目的の街であるヴェルグが見えてきた。
「ふう、これでやっとこの生活からおさらばか……。」
「馬車は便利だけどやっぱり長時間はきついわね。」
森暮らしで馬車に乗り慣れていないエルフのパラマ達にはだいぶ疲弊が見えてきている。
それも仕方ない、特に今回はな。
「本来ならもう少し早く着いたんだがな。」
リンドンからヴェルグに向かうなら本来は王都経由で向かうのが最短ルートになるが、今回は王都を避けたために、かなり遠回りしてきた。
「それは仕方ないわ。」
「あんたの素性もだいぶバレてきたからな、この絵は相変わらずなんだな」
アルビンが荷物にもたれながら手に持つ紙を見て笑う。
持っているのはリンドンに新しく貼られていた俺の最新の手配書だ、初めは罪状と絵だけだったがここ数ヶ月で大分暴れたせいか、名前と目撃先なども詳細に記されている。
更に酒場を燃やした一件で賞金は更に上乗せされ金額は十万から百万ギルまで跳ね上がっていた。
冒険者の諍いでの事件にしては随分と上がったと思ったが、恐らくオークションの一件も含まれている。
注目が集まる中で派手に合図を出したからな、あの場にいた貴族にも俺だと気づいた奴もいたようだ
この金額ならそれなりの冒険者も動き出すだろう。
幸いなのは、まだ個人で動いていると見られるところだな。
「ところで、これから向かうヴェルグという街はいったいどういう街なのでしょうか?」
ランファがヴェルグのことを少し興味もった様子で聞いてくるが、残念ながら本人が望むような街ではない。
ヴェルグの町並みは表向きは普通の街だ。
東部地方で王都から最寄りの街ということもあってそれなりに賑わっている。
しかし、入るところ一歩間違えればそこは、危険な場所となる。
特に街の三分の一を占めている裏地区と呼ばれる場所は、かつて俺が身を隠す場所として考えていた最有力候補でもある。
常にごろつきや賊のような輩が徘徊しており、何も知らない人間が歩けば身ぐるみはがされ、爪の皮一枚残さずに売られてしまうだろう。
そしてそんな裏地区は王国でも名の知られた五つの裏組織、通称『五大盗賊ギルド』が仕切り、活動拠点としている。
盗賊ギルドの奴らは街の兵士や領主に金を払う事で、その存在を黙認してもらい、更に表の住人たちは領主に高い税を払って賊達から身を守っている。
ノイマンの街という事で騎士団も手が出せず、裏地区の奴らは周囲の町村で盗賊行為を行なったり、また近くにある港町から船に乗り、遠出や物資を調達したり好き放題している。
あまりに治安が悪すぎるため、闇市すら開けない、まさに無法地帯と呼べる場所だ。
冒険者として王都ルートを通り先に町入りしている、エッジ達から随時街の様子の連絡をを受けているが街は以前訪れた時と変わっていないらしい。
ま、話だけ聞けば悪い街だろうが逆に言えば金さえあれば見逃してもらえる。
今の俺達からしたら、ありがたい街ではある。
「俺たちにとってはいい街だよ」
そう言って意味深なことを言いながら話を切ると、まるでタイミングを合わせたかのように馬車はスピードを緩め、門の前で止まる。
馬車を引いていた部下たちが荷車の中を調べようとする兵士たちに硬貨を数枚握らせる。
すると兵士は溜め息を吐きつつも硬貨を懐に入れる。
「……あまり騒ぎを起こすなよ?」
そう言って兵士は道を開けた。
町に入ると俺達は早速ツルハシの旅団の面子に連絡し泊っている宿へと向かう。
街並みを歩けば特に変哲もない街だが、どこかしらで視線は感じている。
やはり、荷車のついた馬車はいい標的になっているんだろう。
そして指定された宿につくと、外で待っていたツルハシの旅団と合流する。
「どうもお久しぶりっス、兄貴!」
「ああ、早速だが例の場所は突き止めたか?」
「おう、このメンツじゃ裏地区の中まで入るのは難しかったから確認はできてないが集めた情報で大体の場所はわかっている。」
「そうか、なら早速向かうぞ。」
宿の停車場に馬車を止めると、俺たちはそのまま裏地区へと足を進めた。
――
裏路地に入れば集団で歩く俺たちは自然と目立つ、特にエルフのパラマとランファ、幼い少女のミリアムに対しあちこちから視線を感じるが、この人数もあってか誰も接触はしてこない。
だが確実にどこかの盗賊ギルドに報告はいくだろう。
俺たちは周囲を警戒しつつエッジたちの案内の元進んでいく。
そして一軒の大きな建物にたどり着いた。
「ここか?」
「ええ。」
「なんでえ、見張りもいねえじゃねえか」
「いまはそれどころじゃねえんだろ。」
それもそうだろうな。
とりあえず、その建物の扉を開け中に入る。
「へえ、いい場所じゃねえか。」
中は元は宿付きの酒場だったのか、中央にバーカウンターがあり、あちこちにテーブルが設置されている。さらに奥には大きな部屋があるようだ
二階へと続いく階段の先には複数の部屋が見える。
争いがあったのかそこらじゅうが壊れているがまあ悪くはない、模様替えもすれば十分綺麗になるレベルだ。
あと問題があるとすれば、今現在、俺たちに向かって剣を構えている武装集団がいることだろうな。
俺はそいつらの方へとゆっくりと歩く。
「な、なんだ貴様ら……ここがどこだがわかってんのか!」
「頭の命取られ、壊滅寸前の組織、『黒き狼』のアジトだろ?」
そう答えると、男たちは驚きを隠せずにいる。
「なぜそのことを⁉まだ誰にも知られてないはずなのに⁉」
「潰した張本人といえばわかるか?」
「ま、まさか……」
「てめぇらに与えられた選択肢は二つ、俺らの軍門に降るか、別の場所に移るか。」
その問いに、少しざわつきを見せるが、俺たちの構成を確認すると黒き狼の面々はニヤリと笑う。
「へ、そうか、なら答えは三だ……てめぇらをぶっ殺してそこにいる女子供をいただく!」
そういうと、部屋の中から更に残党たちが集まってくる。
数はおよそ二十人、オークション会場で殺った奴ら以外にもまだ結構いたようだ。
「そうか、なら仕方ない……遠慮はいらねえ、全員ぶっ殺せ!」
その言葉とともに戦闘が始まった。




