約束
「思ってより早かったな」
向こうからすればそこまで隠す情報でもなかったからか、ブリットは指を四本折ったところでカギの開錠方法をあっさりと白状した。
ドリアードを閉じ込めていた鳥かごのような小さな檻を開けるにはこの部屋にあった武器が入っていた箱の中に一緒に入っていた鍵に火、水、風属性の魔法を付与しなければならなかったようで、俺はエルフたちに付与してもらうと鍵を使ってドリアードを解放した。
鍵を開けると同時に扉も開いたが、ドリアードは警戒しているのかすぐには出てこない。
モンスターと同様にある程度言葉は理解していそうだが、意思疎通とまではいかなさそうだ。
とりあえず鍵は開いたので俺は檻を持ったまま戦っている他のエルフたちの元へ向かった。
――
「ところで、ブリットはあのまま放っておいてよかったのか?」
目的地に向かう途中、男のエルフが気絶させて放置したブリットについて尋ねてくる。
俺の護衛をかって出てくれたのは馬車から縁のあった女のエルフとブリットへの強い憎しみを見せていた若い釣り目の男エルフ、そしてその弟とは正反対の温厚そうな女エルフの三人だ。
種族のせいか三人とも髪色が金、目の色か綺麗な水色に統一されている。
「不満か?」
「いや、貴様がいい感じで断末魔を聞かせてくれたから一応満足だ。」
「まあ安心しろ、奴は時期に死ぬ、ただ死ぬにしても役に立ってもらうだけだ。」
俺の言葉に男のエルフは少し笑みを見せるが、血生臭い会話を聞いていた二人の女のエルフはあまりいい顔をしない。
「ところであなたは何者なの?」
「さっきの話は聞いてなかったか?」
「いや、そういうわけじゃないけど、実際のところどうなのかなって」
「まあ指名手配はされてるとだけは言っておこうか。」
実際何者かと聞かれても困るのが現状だ。
「後悔しているか?言っておくが、何者であれ手を貸した以上お前たちも同罪だぜ?」
「わ、わかってるわよ。」
「……まあ正直に言えば、俺たちを捕まえた同じ種族というのは気に入らないが、同じ境遇同士、それにお前はマナなしのようだからな。」
マナなし……無能のことか。
「わかるのか?」
「私たちエルフはマナには敏感で人の持つマナも感じ取れるんです、でもあなたにはそれらが一切感じられない……そしてそのような人が、人間の世界でどういう立場なのかも知ってます。」
そういうと温厚そうなエルフは俺を憐れむような眼で見る。
「そっちにはいないのか?」
「いえ、確かに魔法やスキルを持たない者はエルフの間にも稀に生まれてくるわ、でも私たちエルフは蔑むのではなく、力が無い分、力があるものが守らなければならないと考えているから。」
なるほど、蔑むか憐れむかの違いか。
「それはそれでこっちとしては腹が立つな。」
「難儀な性格だな。」
俺としては対等に扱ってほしいんだがな。
「それよりこれからどうするつもりですか?」
「とりあえずこれで目的は達した、すぐにでもここから脱出する。」
「どうやって?」
「元々はロープを使って壁を超える予定だったが、そうなるとモンスターが難しくなるからな。」
理想としては塀を壊せればいいが、あの厚さからしてそれはやはり難しいだろうな。
新しい方法を考えなければならない。
「……本当にモンスターも助けるつもりか?」
「そう言う約束だからな。」
「どうせ外に出れば狩る狩られるの関係に戻るんだ、モンスターとの約束なんて放っておけばいいだろうに。」
「約束は約束だ、助けはするさ。だが、外で再び出会い襲ってくるようならば容赦なく殺す。」
「……変わった男だな。平気で人を殺すような残虐性を秘めているのに変なところで義を通すのか。」
「それが俺の生きてきた中で見つけた道だ。人の道は踏み外しても自分の決めた道は踏み外さねぇ、それが俺の極道だ。」
「……」
そんな会話をしているうちに、気づけばモンスター達が暴れているステージに到着する。
するとミノタウロスの声が脳内に響く。
『あ、姉さん!』
ミノタウロスがこっちに向かってくると俺は檻ごとドリアードを渡す。
「これでいいんだな。」
『うん、ありがとう。本当に姉さんを助けてくれて。』
ミノタウロスがお礼を言って頭を下げると、そこで警戒していたドリアードも檻から出てきてミノタウロスの肩に乗る。
そして事情を聞いたのか同じように頭を下げる。
「状況はどうだ?」
『うん、なんか人間同士でも争ってるみたいで途中からは攻撃が一気に止まったよ。』
「そうか。よし、じゃあそろそろずらかるぞ。」
俺は戦っているアルビンたちの方に向かって手を上げ合図を送ると、次にエルフやモンスターたちに出口とは真逆の方に向かって走るように指示を出す。
そして俺は大きな檻を一つ持ち上げ後ろからついていく。
「え?嘘⁉」
「何も入っていないとはいえ、スキルなしであの檻を一人で持ちあげるなんて。」
「あいつ、やはり普通じゃないな。」
まあ確かに重いがこれくらいの重さなら、島でよく運んでいた。
敵の方はアルビンが上手くやっているようでこちらに向かってくる気配はない。
俺は時間をかけながら、この村を囲む塀の前までやってくる。
「よし、モンスターたちを運ぶから中に檻の中に入るように指示してくれ。」
「え、あ、うん。」
そういうとミノタウロスはモンスターたちに話しかける。
とりあえず今できる方法としては檻の中にモンスターを入れてそれを外へと運び出す。
できるかはわからないがミノタウロスが手伝ってくれれば何とかなるかもしれないしな。
しかし、檻の中に抵抗があるのもいるのか少し、手間取っているようだ。
すると突如地面から巨大な蔦が現れ、塀の外へと架け橋のようなものを作った。
『姉さんが、これを登れば皆が逃げられるって』
……それなら俺が檻を運んでいるときに言ってもらいたかったが、どうやらドリアードは確信犯のようでこちらを見ながら舌を出して笑っている。
人間へのささやかな嫌がらせか。
「まあいい、よしじゃあ全員登れ。」
指示出さずとも全員が一斉に蔦を登って外に出ていく。
俺は全員が外に出たのを確認した後、最後に蔦を登る。
そしてちょうど塀の上で一度後ろを振り返った。
俺の指示一つで起きた暴動により、さっきまでいた場所は死体や戦いの痕で戦場のようになっていた。
「これがこの世界における戦い……」
前世と比べて命が遥かに軽い、それを改めて確認した後、俺は外の世界に戻って行った。




