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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
三章 組織作り編

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籠絡

 ヘンリー・バーソロミューはこの日、初めて貴族令嬢の家に招待された。

 地方の男爵貴族の三男として生まれ、これと言った秀でたものもないヘンリーにはこう言ったお誘いには今までご縁がなかった。


 ……と言ってもそれはヘンリー本人が考えている理由であり、主な原因としては高望みがすぎるのが原因である。


 自らの家を弱小貴族と見下しているヘンリーは、いつか自分に相応しい爵位を持つ若くて美人な令嬢に婿入りすることを考え、親が選んできた相応の相手をことごとく拒んできた。


 容姿も性格も良いわけではなく、更に自分からは探しに行こうとしない。そしてそんな選り好みを長年続けてきたことで年齢ももう二十代の後半に突入していた。


 しかしそんなヘンリーにやっと自分に見合う相手が見つかったのだ。

 数日前、ヘンリーの元に一通の手紙が届いた。それは同じ南部地方の伯爵家の令嬢、マリス・カルタスからのお茶会の招待状だった。


 マリスはここ最近父親が死んだことによって急遽当主となった令嬢で、年齢はまだ十代だと聞いている。


話によればマリスは容姿端麗ながら婚約者はおらず、これまでに特定の男性貴族を家に招待したことは一度もない、つまりこのお誘いはそう言う事だとヘンリーは理解した。


会ったこともない相手ではあるが、そんな人との結婚も貴族の界隈なら珍しくもない。

 なによりカルタス伯爵と言えば古くから国に仕える貴族で、上手くいけば弱小の男爵家の三男から歴史ある伯爵家の当主になれるかもしれない。

 

 ヘンリーは先行投資と称して家の金庫から金を抜き取ると、今日の日のために急いで服を新調し身だしなみを整えカルタスの屋敷へと向かった。


 家から馬車を飛ばして十日ほどで着くと、ヘンリーは自分の家の倍以上ある屋敷に圧倒され思わず息を呑む。


――ハハッ、やっぱ貴族ならこれくらいの屋敷に住まないとな。


 ヘンリーは屋敷に入る前に一度身だしなみを確認したあと、一つ深呼吸をし屋敷の扉をたたいた。

 屋敷に入るとメイドに名前を告げ、客室まで通される。

 そしてソファーで待つことわずか数分、部屋に煌びやかなドレスを着た一人の若い女性がやってきた。


「ヘンリー様、ようこそお越しくださいました、(わたくし)カルタス家当主のマリス・カルタスと申します。」

「へ、ヘンリー・バーソロミューです。こ、こちらこそお招きいただきアリがとうございます。」


 慣れないあいさつに緊張しながらも自己紹介をするとヘンリーは向かいのソファーに座った女性を凝視する。


――この女性が、俺の妻となる人……


 貴族の令嬢らしい整えられた長く綺麗な金髪の髪に真面目そうなキリっとした目つき、そして何より伯爵家当主という肩書きにヘンリーは一瞬にして魅了された。


「お会いできて光栄です、ヘンリー様。」

「こ、こちらこそですマリス嬢。しかしその、私のことをどこでお知りに?」


 カルタス家とは派閥も違い、会う機会などこれまで一度もなかったはずだ。


「マルツ・アウワーク様をご存じですか?」

「え?ああはい、一応……。」


 勿論知っている、アウワークは自分の家庭教師をしていた男だ、準男爵家のくせにネチネチと小言のように苦言を言ってきてよく衝突していた。


「実はアウワーク様には私もご指導いただいており、よくあなたのことを聞かされていたのです。ヘンリー様はまだまだ未熟なところもありますが、発想の着眼点はよく将来性豊かな人物であると。」

「マルワーク殿がそんなことを⁉︎」


 その瞬間、ヘンリーの中のマルツアウワークの評価は一瞬にしてひっくり返った。


 その後、二人は他愛もない話で会話を弾ませる。

 緊張していたヘンリーも時間が経つにつれ硬さが取れて行き、時折見せるマリスの微笑みに見惚れていた。


「ふふ、こんなに楽しい時間を過ごしたのは久々です。」

「ハハハ、それは僕もですよ。」

「父が亡くなってからは、そんな余裕もありませんでしたから。」

「マリス嬢……」


 そう言った儚い表情を見せるマリスにヘンリーは心臓を掴まれたように胸がギュッと苦しくなる。

そして会話が一段落したところでマリスが一度、話を切り出した。


「ヘンリー様、会って間もない人にこういうのもなんですが、もし宜しければ今後、私の側で支えてくれないでしょうか。」

「は、はい勿論です!」


 ヘンリーは即答する、というより他に答えを持ち合わせていなかった。


「え?本当によろしいのですか?」

「ええ、勿論です。考える理由などありません、きっと二人の出会いは運命だったのですよ。」

「ヘンリー様……ありがとうございます、ですがその前に一つ問題があるのです。」

「問題ですと?」

「はい、実はヘンリー様のご身分に置いて少し使用人の方々から反対の意見が出ていまして」

「使用人の戯言なんて流せばいいでしょう。」

「いえ、そうもいきません、彼らは古くから、そしてこれからもこの家に仕えてくれる人ですから。」

「ではどうすれば?」

「ええ、そこでなのですが。一つ提案があります。」


 マリスが手を叩くと老いた使用人が部屋から出てきてすぐに戻ってくる。

 その後ろにはこの屋敷には不釣り合いな奴隷を連れてきていた。

 珍しい赤色の髪と緋色の眼が特徴的で、何故か口を糸で縫い合わされていた。


「えーと、この奴隷はなんでしょう?」

「いえ、これはただの奴隷ではありません、絵画です。」

「か、絵画?」


 マリスは頷くと、奴隷に背を向かせた。

 

「こ、これは⁉」


 背中を見た瞬間、ヘンリーは言葉を失う。

 そこには今まで見た事のない画風で書かれた謎の魔物が描かれていた。


「この絵は東方で名の知れた彫刻家が奴隷の背に掘ったドラゴンの作品です、人間の背中に絵を掘ることでその人間の動きに合わせてドラゴンがまるで生きているように見えると言われています。」

「な、なるほど……」

「そしてこの作品は売れば恐らく、一千万ギルは超えるでしょう」

「い、一千万ですか?」

「ええ、ただ売り方次第では更に数千万、もしくは一億はくだらないかもしれません。」

「お、億……」


 初めて聞くその単位にヘンリーは口をパクパクさせる。


「それでなんですがヘンリー様、貴方にこの絵を近々行われる闇オークションに出品してほしいのです。」

「闇オークションにですか?」

「ええ、あそこなら高い値が付きやすく、その売ったお金を結納金として渡してもらえれば誰も文句は言えないと思いますから。」


 ヘンリーは少し顔を顰める。

 闇オークションの存在は知っていた。

 父は悪人とまでは言わないが家の資金難の為、いろんな貴族に歩み寄っては情報を手に入れ、定期的に闇オークションでその情報を売っていたからだ。


「確かに父上に言えばこの奴隷を闇オークションに出せるかもしれません、ですがそれでは父上にこの奴隷を取り上げられてしまうかもしれません。」

「そこはご安心を、この者の背中を見せなければ宜しいのです。」

「なるほど。しかし上手くいくかどうか……」

「ヘンリー様、どうかお願いします、私達の未来のために。」


 少し自信なさげに言うヘンリーにマリスは上目遣いで見つめながら、そっと手を取ってお願いする。


「……わかった、必ずこの奴隷を闇オークションで売って見せる!」

「ありがとうございます。」


 マリスが満面の笑みでお礼を言うと、ヘンリーは無自覚に頬を紅潮させる、気が付けばヘンリーは、マリスの虜になっていた。


「ところで、この奴隷は何故口を縫っているのです?」

「……実はこの奴隷は少し厄介なスキルを持っているので、決して解かないようお願いします。価値も半分に下がりますので。」

「わ、わかりました。」


 そう警告されるとヘンリーは何も聞くことはなかった。

 その後、二人で再び話の花を咲かせた後、ヘンリーは奴隷を連れて屋敷を後にした。

 屋敷の外で見えなくなるまで笑顔で手を振り見送ってくれた彼女の姿を見て、ヘンリーはこれからのことを妄想しながら帰路を帰って行った。



――


「ふう……」


 ヘンリーを見送ったあと、マリスは一つ息を吐く。


「お疲れ様です、お嬢様。」

「ああいう方とお話しする機会は今までなかったのでどうなることかと思いましたが……しかし、こんなに上手くいくとは。」


 マリスはヘンリーが家に着くまでの間にティアから受けた教えを忠実に実行した。

 言われたことは出来るだけ聞き手に回り、向こうの話を否定せず、適度に笑いかけるだけ、そしてここぞの場面で相手に触れ、上目遣いで懇願するという事だった。

 初めはそんな事で大丈夫かと心配していたが計画は思った以上に上手くいった。


――しかし、あの程度のことで男性の方というのは案外……


「お嬢様?」

「ああ、いえ、なんでもありません。それよりこれで暫く悪役令嬢ともお別れですね。次は心優しい領主になる番ですから」



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― 新着の感想 ―
やはりマリスさんは素晴らしい素質をお持ちのようですね…。華やかな悪の華が開花しそう!w
[良い点] マリスさんの悪女の素質が順調に開花しているようでニッコリ [一言] 今後も応援しております。
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