予定変更
屋敷での一件から数日後、事後処理も終わり、一段落したところで一度現状の情報を整理するために、俺は奴隷たちを含めた全員を教会に集め、報告会議を行っていた。
「――と言うことにより、村からの陳情は緊急性のあるものから一つずつ行い、税は今と前の間の金額という事で落ち着く事できまりました。」
教会の中心にある女神像の前でまず初めにマリスが、あの後行った村の代表たちとの話を詳細に説明する。
あれからまだ数日しか経っていないのでガバスを殺した事でなにかしら影響が出ると思ったが本人は引きづる事なく普通にしている。
「ふむ、宜しいのではないですか、元々コレア様の税は安いほうだったのでこれで妥当な金額になったかと」
長年父親の下で働いていた執事のモンベルのお墨付きの言葉をもらうとマリスは少し安堵の表情を浮かべたが、すぐに表情を整えると話を続ける。
「そして、この騒動を期に家の中から何人もの使用人がいなくなっていました。叔父、ガバス側についたことで自分の立場が悪くなると考えて逃げ出したとも考えられますが理由は他に考えられると思います。」
そこまで話すとマリスと代わって今度はそばで控えていたモンベルが話始める。
「では続いて私から報告を一つ、先日ギルドマスターとお話をしましたが、お嬢様の話と同様にあの日以降冒険者の何人かが町から姿を眩ましたとのことです。冒険者が町からいなくなることは珍しいことではありませんが、タイミングや屋敷からも使用人や兵士が複数人消えている事からブリットとの関わりが否定できない状態です。」
「ふむ……」
どちらともとれる内容だが、恐らくブリットの家の者と考えたほうが妥当だろうな、恐らく消えたのは屋敷の間者と町で扇動に動いてた連中か……
「なるほどな、じゃあ次に賊の方はどうだった?」
「お、おう!」
話をエッジに振ると、エッジは少し緊張しているのか顔を強張らせながら椅子から立ち上がる。
「とりあえず村の周囲で動いていた賊たちは大方片づけたぜ、数は三十人くらいで元はラスタ付近で活動していたらしいが、ブリットから金をもらって活動拠点を変えたとのことだ。」
「ん?そいつらは賊だったのか、マーカスの話じゃブリットの兵士だったと聞いたが?」
前回の連絡ではそう話していたはずだが。
「ああ、そこなんだが実は村にきていた集団は二つあったんだ、一つが今言った本当の賊共でもう一つがカルタスの兵士を語って、金を巻き上げていたブリットの兵士達だ。前回の連絡の時に捕らえたのはそっちの方だ。」
「私達の名を語って民から金を巻き上げるとは……」
その話を聞いたマリスの目に怒りが宿る。
「それで、そいつらはどうしている?」
「どちらも地下の牢獄に閉じ込めてあるから、何か聞きたいことがあるなら、直接聞いてくれ。といっても賊の方は大した情報も持ってないし兵士の方は全然喋らなかったけどな。」
なるほど、教育は行き届いてるか。
「それで、こちらの被害はどれくらいだ?」
話を聞けば数もいたし、兵士の方も雑魚ではなかったはずだ。
討伐したことはわかっているが何かしらの被害はあっただろう。
しかしエッジからは意外な言葉が返ってきた。
「それが、被害はゼロだ。」
「……なに?」
「ミリアムの魔法で守られていたという事もあるが、それ以上にそいつが殆ど一人で片付けちまったからな。」
そう言ってエッジが教会の長椅子一人で使って眠るをアルビンを指す。
「なるほど、大口を叩くだけのことはあったという事か。」
「はっきり言って敵には回したくねえな、剣スキルも高いんだろうがそれ以上に剣の腕が達人級だ。恐らくただモノじゃねえ、気になるならマーカスに鑑定で見てもらうのもありかもな。」
「……そうか。」
まあ、気にならないと言えば嘘になるが事が終われば解散する面子だ、無暗に詮索する必要もないだろう。
「まあいい、なら次に俺がガバスから聞きだした情報なんだが――」
俺はガバスから聞き出した内容を簡略に説明した。
初めこそ全員が普通に聞いていたがブリットのバックについている男の名前を聞くと全員の表情が揃ってみるみると崩れていく。
「ノイマン侯爵……ですか?あの三大貴族の」
「あくまで憶測の範囲だがな。」
「……いえ、カルタス家は王国から古くから仕えている貴族です、今は爵位や領地に見合うほどの力は持ち合わせていませんが国との繋がりは濃いままです、そんなカルタス家を陥れるほどの貴族など限られていますからその可能性は高いと思います。しかし、まさか三大貴族が絡んでくるとは。」
今の話を聞いて首謀者がノイマンの可能性はより高くなったか。
しかし、そうなってくると話は変わってくるな。
「とりあえず聞いた情報は以上だ、それでなんだが新しい情報も入ったところでここいらで一度話を全て白紙にしようと思う。」
「……それは、初めに行っていた父の濡れ衣を晴らしブリット子爵を潰すといっていた話の事でしょうか?」
「そういうことだな。」
その表情は明らかに不満を見せていたが、言葉を口には出さず奥で噛み締めていた。
「……わかりました。」
「仕方がありません、流石に今回は相手が悪すぎました、今は領主として力を蓄えることに専念しましょう」
「……ええ、そうですね。」
マリスが悔しさを滲ませて俯く、そして今度は今の話を聞いていた奴隷たちから声が上がる。
「おい、ちょっと待て、それって俺たちはどう言うことになるんだ?まさか今更なしにとは言わねえよな?」
白紙という言葉に反応したのか、奴隷達が少し焦った様子で尋ねてくる。
「それなら安心しろ、約束は守る、この後すぐにでもお前たちは解放してやる。」
「マジかよ!」
「へへ、やったぜ!」
そう伝えると奴隷達から騒ぎ出す、まあ元々こんな大所帯の面倒なんて見られなかったから解放する予定ではあったしな。解放後の事についていろいろ不穏な言葉が聞こえてくるが俺がどうこう言う事じゃない。
「では私達は今後のことを考えてはいかなくてはなりませんね。」
「しかし、そうなると今後ブリットの方をどうするかですな、また何か企んでくる可能性もありますし」
マリスたちも今後についてモンベルと話し始める、それに合わせるかのようにエッジ達が俺の方に歩み寄ってくる。
「で、俺たちはどうするんだ?」
「その様子だともうわかってるんだろ?」
尋ねて来た四人の表情はもう察してるのか何とも言えない苦笑にも似た表情を浮かべている。
「じゃ、じゃあ、やっぱり――」
「ああ、そういうこと、俺たちはこれより標的をブリットからノイマンを変えて動く。」




