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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
三章 組織作り編

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発起

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 激しく燃え上がったゲイルの断末魔が酒場内に響き渡ると、その場は騒然となる。

 ゲイルは狂った様に藻掻き、なんとか火を消そうとあちこちに動き回るが火は消える事なく、それどころか火は店内にまでも燃え移ってゆく。


「な、何で急にゲイルに火が⁉︎」

「そんなもの魔法かスキルに決まっているだろ!それよりも早く火を消すんだ!」


 突如燃え上がったゲイルを見て周囲は混乱に陥る。

 どうやら向こうには発火の原因はわかっていないらしい。

 中には水の代わりにゲイルが飲んでいた度数の高い酒をぶっかけて更に悪化させているやつもいる。


 まあ、アルコールを毒素と呼んでる世界だ、その性質なんて知られていないのだろう。

 何故そう呼ぶのか、もしくは別物なのかこの世界の知識のない俺にはわからないが、同一性のものであることには変わりはない。


 料理人など酒に関わることの多い人間ならもしかしたらこの性質に気づいてるやつもいるかもしれないが、少なくとも飲むことがメインの冒険者達の中にはそんな奴はいないようだ。


「おい、なにしている!早くしろ」

「水だ!早く水魔法を!」


 仲間の奴らが火を消そうと周りに指示を出すが、殆どの客は避難を優先し外へと逃げていく。

 アイアンヘッドのパーティーの魔法使いと思われるやつが水の魔法で、火を消そうとしているが苦しむゲイルの姿と勢いを増す炎の熱さと煙に焦って上手く詠唱できていない。


 そうしている間にも火だるまのゲイルは床をのたうち回り、その場はたちまち火の海と化す。

 そして、ゲイルの動きも徐々に鈍くなっていく。


「もうダメだ。俺たちも逃げるぞ!」

「ゲイル……クソっ」


 仲間の奴らも諦めて外へと出ていく、俺もそろそろ逃げないとな。

 そう思い、外へ向かおうとすると焼け焦げて動かなくなったゲイルとは別に、一人床に伏せ縮こまっている子供を発見する。

 恐らくこいつがエッジの言っていた奴隷だろう、とりあえず拾い上げる。


「わ⁉︎えっ?誰?」

「お前とおんなじ元奴隷だ。」

「えと……おじさんの仲間?」

「まあ、似た様なもんだ。」


 比較的軽いその体を肩に抱えて燃え盛る酒場から脱出を図る。

 外に出るとそこには燃える酒場を野次馬たちが囲んでおり、最後に出て来た俺達に注目する。

 特に気にすることなく歩き出すと、野次馬たちもざわつきはするものの特に何かしてくるわけでもなく自然と道を開けていく。


 ……が、そんな中俺達の前に数人の男が立ちはだかる。


「テメェ、よくもゲイルを殺りやがったな!」


 アイアンヘッドの一人である男がこちらに剣を向ける。


「先に手を出したのはそっちだ、人様の家を燃やしたんだから、自分が燃やされる覚悟くらいしておけ。」

「あ、あれは元はと言えば、お前のとこの奴がそこの奴隷を奪おうとしたから――」

「その件に関して俺は何もしていない、お前らがどこの誰と喧嘩しようが知ったこっちゃねえ。が、俺を巻き込むのなら容赦はしねえ、ガキじゃねえんだ知らなかったですむと思うなよ。」


 剣を向ける男の目を正面から睨み付ける。

 

「それでも文句があるのならかかって来い。ただしエモノを出してる以上、こちらも容赦はしねえがな。」


 抱えてた少女を降ろし、軽く指の骨を鳴らして向こうの出方を窺う。

 向こうも剣を出して威嚇するが次の一歩は出てこない。

 後ろで燃えている酒場に先ほどのゲイルの姿がちらついているのかそっちも気にしている様子も見られる。


「おい、もうやめとけ、このガキ、普通じゃないぜ。」

「ああ、なんだが雰囲気がやべぇ、まるでAランクモンスターに出くわした時みたいだ。」

「これ以上関わらない方が身のためだぜ」

「……くっ」


 男は仲間達に諭されると、結局何もせずに剣をしまいその場を立ち去っていく。

 すぐにこの場から離れたいこちらとしてもありがたい選択だった。


 その後、俺は拾った奴隷の少女を連れてマーカス達の待つ小屋へと戻ると、三人はその少女を見て、何も聞かずに出迎えた。

 俺も今日の出来事は特に話すことなく、ただこの奴隷は戦利品とだけ伝えといた。


 ……まあ翌日になればその話は嫌でも耳にすることになったがな。


 朝になるとアイアンヘッドのリーダー、ゲイル襲撃の一件は一夜にして町中に知れ渡っていた。

 元々問題の多い男だったため、襲われたことには誰も不思議とは思わなかったようだが、腐ってもBランクパーティーのリーダーであるだけにこうもあっさりと殺されたことには少しばかりの驚きがあった様だ。


「いやぁ、流石兄貴、相変わらず容赦ないですね。」

「ついてこなくて正解だっただろ?」


 そう尋ねるとルースも苦笑いを見せる。


「しかしこうなると流石に顔は知れ渡ったんじゃないですか?」

「だろうな。」


 ビレッジの言う通り、俺の顔は一気に知れ渡っただろう。

 紺色の明るい髪色にこの世界でも珍しい紅い瞳、そして子供の見た目だ。

 目撃者の中でも記憶に残るものも多いだろう、アイアンヘッドの奴らも昨日のうちにギルドに駆け込み報告したらしいからな。

 そしてそうなれば流石のあの手配書と同一人物だと気づくやつは出てくる。

 手配書の情報もより詳細になり今後余計に表を歩きにくくなるな。


 まあそれも想定通りだ。

 あとはその事についてレーグニックの奴と話ができれば良いんだが、奴が再びこの町に来るまでここに留まるのは難しそうだ。


「あの……お兄さん、何かやったの?」


 話を聞いていた奴隷の少女、ミリアムが尋ねてくる。


「もしかしてまた私のため――」

「安心しろ全て俺のためだ。」


 そう言って頭を撫でる。


「へぇ……兄貴でもやっぱ子供には優しいんですね。」

「別に俺も意味もなく暴れたりはしねーよ。」


 そんな他愛もない話をしていると、今日釈放予定だったエッジを迎えに行っていたマーカスがエッジを連れて入って来る。


「そ、そいつは……」

「……おじさん?」


 エッジは中に入ると真っ先にミリアムの方に眼を向け近づくと、無事を確かめるように肩に触れる。


「そっか、無事だったんだな、良かった。」

「うん、怪我もお兄さんがくれたポーションで少し治ったみたい。」


 ミリアムに渡したのは中級のポーションだ、そこまで良い性能ではないが下級ポーションよりは効く、昨日今日できた怪我くらいは何とか治すことはできたようだった。

 ミリアムの無事を確認したエッジが嬉しそうな笑みをこぼした後、一度息を吐いて顔を引き締める。

そして次に俺の方に体を向けてその場に正座をする。


「話は町中で聞いた、覚悟は出来ている、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」

「ほう……」


 するとその様子をみていたマーカスが慌てて割りこんできて同じようにエッジの横に座り頭を下げる。


「ア、アニキ、すいやせん!出来ればどうか旦那の命だけは助けて貰えないっすか?アッシの指でも何でも差し上げますんで!」

「な⁉」

「お、俺も」

「俺もです。」


 マーカスに続いてルースとビレッジも同じように頭を下げる。


「お、お前ら、なんで……」

「せっかくここまで一緒に来たんです、こうなりゃとことん一緒に生きましょう。」

「お前ら……」

「……へぇ、そりゃいい覚悟だ。そうだな……ならば――」


 俺が考えるフリをして答えを焦らすと、三人が大きく唾を飲み込み喉を鳴らす。


「……お前ら全員俺の下につけ。」

「……え⁉︎」


 その言葉に四人が一斉に頭を上げて俺の方を見上げる。


「ちょうど兵隊が欲しいと思っていたところだ、どうだ?」

「え?いや、それは問題ないんですが……」

「そんな事でいいのか?」

「ああ、正直一人で動くには限界がある、それに俺はスキルも魔法も、使えねえしな。」


 スキルや魔法の脅威はもう十分わかっている、自分で使えないのは少々残念だがならば使える奴を使えばいいだけだ。

 特にマーカスのスキルは情報を必要とする俺にとっては大きな存在だ。

 

「でもエッジの旦那やマーカスさんはともかく俺らなんてなんの役に立てないですよ?」

「ああ、戦闘も凄いスキルも持ってないし。」


 ルースとビレッジが申し訳なさそうに言ってくる。


「別になくていいんだよ、普通でいいんだ、普通じゃねえ俺にはそれすらも役に立つんだからな。」


 普通じゃねえ俺は普通のことができない、表を堂々と歩くことさえな、だからこそ表を普通に歩けて普通に人と話のできるやつも戦力になる。


「他に異論はないか?……よし、ならエッジ、お前に最初の命令だ。ミリアムに自分のことを伝えろ。」

「え⁉︎」


 その命令にエッジは一瞬目を細め硬直するが、自分でも必要な事だと悟ったのだろう。

 エッジはすぐに頷きミリアムに向き合い真実を伝えた。


「……と言うわけだ、お前を奴隷として売ったのは俺だったんだ、本当にすまなかった。」


 話を聞いたミリアムは気持ちの整理をしているのか無言で固まっていた。

 そしてゆっくりと口を開く。


「……正直、今までのことを思い出すと辛いし許せない。」

「……」

「でも、今は助けてくれた嬉しい気持ちの方が強いの、それにもしあそこで、おじさんに捕まっていなくて目が見えず動けなかった私は死んでたと思う。だから、許します……」


 そう言ってミリアムはニコリと笑うとエッジは最後にもう一度ミリアムに深く頭を下げる。


「フッ、話は終わったようだな、ならミリアムについては今後お前に全て任せる。」

「あ、ああ!任せてくれ!」


 エッジが強く胸を叩いて返事をする。


「さて、一段落したところで改めて今後のことを話すとしようか。お前らこっちに並べ。」


 俺はミリアムを含めた四人を前に横一列で並ばせる。


「言っておくが俺の下についた以上今までのような()()()()を歩めると思うな。お前らにはこれから俺の手足、時には目や耳にもなってもらう、お前らの一つ一つの行動が俺の行動となるんだ、その覚悟を持って動け!」

「は、はい!」

「だが、それは逆にいえばお前らに起こることも全て俺の事となる、……だからもし今回のようにお前らに何かあれば遠慮なく言え、俺も動く。」

「アニキ……は、はい!」


 四人の気合いの入った大きな返事に満足すると、俺はそのまま今後の事についても話していった。

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