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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
一章 商人編

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行商人としての人生

 俺が奴隷を脱走してからの時間はあっという間で、気が付けばレクター一家と旅を始めてから一年が経とうとしていた。


 こんな世界だから常に平穏な毎日とはいかなく、時には旅の途中で盗賊やモンスターに襲われたこともあり、時には荒くれの冒険者とのいざこざなどもあったが、以前あったほどの大きな騒動はなく、結果的にすべて事なきを得て、問題なく過ごせていた。


 各地を転々とした事で俺もこの国の事をさらに深く知ることができたし、あちこちに顔見知りもできたりもした。

 そしてその間にジェームスの下で働き、本格的に商人としてもノウハウも学んでいたので、今ではジェームスやエルザの指示を待たずに一通りの作業ができるようにもなっていた。


 その事もあってか、最近はマリーと一緒に露店を任され、ジェームス達は仕入れや商談の方を重点的に行う事が多くなってきている。

 ジェームスもここ最近の商談の成功により自信を手に入れたのか出会った時に比べると堂々としており、元々商人としての実力があった分非常に頼もしくも思えた。


 エルザ曰く、一因としては自信を持ったことの他に、家族の中に男の子が一人増えたのが大きいと話していた。

 俺は前世でも家族関係は複雑だったからあまりわからないが、それが事実ならくすぐったくはあるが悪い気はしない。


 そしてこの夫婦には将来的に、店だけでなくマリーも任せたいなどと言われ、それを聞いていたマリーは顔を真っ赤にして慌てていた。

 ……まあ、俺も本人がいいならまんざらでもない。


 今の俺はこの世界の人間だ。

 他に帰るところもなければやりたいこともない、そして初めは借りを返すまでと考えていたこの生活も今では日常となっている。


 現状俺に取って最も大事なのはこの家族だ。

 このままこの三人と共に表の人間として生きて、そしてできる事ならずっと近くで守っていきたい。


……だが、そう上手くはいかないのが世の中と言うものだ。


――


 俺達は南地方にあるパルマ―という片田舎の町を訪れていた。

 そこは以前にも訪れた事がある町で、町と言っても村に近く、時より吹く緩やかな風に風車が回る非常に長閑なところだ。

 住民たちも穏やかの者が多く前回来た時も色々と世話になったりもした。


 特段仕入れたい物などがあるわけではないが、皆がこの町を気に入っており、近くに寄ったついでに訪れてみたのだが、そこは前に来た時と雰囲気が違っていた。


 町の入り口には以前来た時にはいなかった衛兵とみられる二人の兵士が立っており、町へ入ろうとする俺達の行く手を阻んだ。


「止まれ、何者だ?」


 兵士たちが物々しい態度で尋ねる。


「行商人をやっているレクターというものです。」


 ジェームスは臆すことなくハッキリと名乗ると、国から発行された行商時に必要な手形を見せる。

 兵士たちは見せられた手形を確認する。


「ふむ、確かに。では町への入場料を払ってもらおうか。」

「通行料?以前来た時にはなかったはずだが。」


 そもそも、町に入るのに入場料なんか取る町はない。


「現在この町を治める領主様のブーゼル伯爵によりこの町の警備は強化されている、それに伴いその費用を入場料でという形で賄う事になっているのだ。」


 ……どうにも腑に落ちない話だ。

この町は確かにギルドもないほど小さな町だが、そこまで警備を強化するほど危険があるような場所でもなかったはずだ。


「通行料は積み荷の量から決めさせてもらうので、一度その馬車の中を調べさせてもらう。」


 そう言って兵士達に促され俺達四人は一度馬車から降りる。

 すると、一人の兵士が降りて来たマリーを何か見定めるようにジッと観察していた。


「ほう……」

「?」


 マリーもその視線に気が付いたのかすぐさま俺の背中に身を隠す。

 そして、馬車の中を調べていた兵士が戻ってくると、兵士たちは少し離れた場所に行き、二人で何やら密談の様に話し込み始める。


 ……嫌な予感がするな。


「なんだか嫌な予感がします、ここは一度町に入るのはやめたほうがいいかと。」

「ああ、なんだか、私もそう思うよ。」


 ジェームスに耳打ちすると、この雰囲気を感じ取ったのかジェームスも同意する。

 そして一度町に入るのをやめることに決めると話し合いを終えて戻ってきた兵士達にそのことを告げる


「喜べ、積み荷を覗いたところどうやら貴公らはそれなりの商人と判断した、この町の有益となり得るため、特別に入場料は免除しよう。」

「あ、いえ、実は少し前の町に用事を思い出したので一度戻ろうかと。」

「なんだ?せっかく入場料は取らないと言ってるのに帰ろうとするとは、そうなってくると少し怪しく感じられるな。」

「え、そんな……⁉」


 そう言われると俺達はここから出るという選択肢を塞がれ、強制的に町に滞在することとなった。


 中に入ると、そこには以前来たときのような活気はなく、まるで別の町のように寂れており、町の所々には兵士達が巡回して物々しい雰囲気を漂わせていた。


 人気のない通りで馬車を引く俺達は自然と目立ってしまう。

 俺たちは兵士たちの視線を浴びながら以前世話になった宿へと向かった。


 宿に着き、馬車を馬小屋のある裏手に止め宿の中に入ると、酒場となっている一階のカウンターに客がおらず退屈そうに暇を持て余しているこの宿の女将がいた。


「あ、いらっしゃ――おや、あんた達⁉」


 以前あった時と比べ髪型が変わり少し痩せていた女将はこっちの事を覚えていたようで、俺達の姿を見るやすぐにカウンターを抜け出しこちらにやってくる。


「女将さん、お久しぶりです。」

「また、お世話になります。」


 ジェームスとエルザが挨拶すると、女将はパッと嬉しそうな笑顔を見せたがその表情はすぐに険しいものへと変わる。


「あんた達……また、随分タイミングの悪い時にやってきたね。」

「と言うと、やはり何かあったんですかい?」


 俺が尋ねると女将はコクリと頷き、町の現状を説明し始める。


「実は最近この町の領主様が変わってね、なんでも元は王都のある中央地方にいた貴族だとか。で、その新しい領主がまたとんでもない人でね、税を大幅に引き上げるわ、町に入場料をとるわでやりたい放題さ、そのせいもあって町に来る人もめっきり減って、このザマさ。今じゃ客足も途絶えて貯蓄を崩して税を払うのが精いっぱいだよ。一応それなりの権力者らしいけどどうしてこんな田舎な街になんかに……」


 そう言って女将が恨み節を呟く。

 話を聞く限り恐らく左遷だろうな、大方、汚職か犯罪でもみつかったんだろう。


「国の方には連絡したんですか?」

「ああ、もちろんしたよ、それで状況を確認するために国の使者が来たんだ、でも来たのはいいけどその使者はロクに調査もせずに帰っちまったんだよ。そしてそれからさ、町のあちこちに兵士達が巡回し始めたのは。」


 恐らく使者は賄賂でも受け取ったのだろうな、そしてこの町の兵士は外から町を守っているのではなく、町の者が外に出ないように監視しているという訳か。


「町に来た兵士達は誰の眼も届かないことを良いことに、町の者を暴行したり、店から金や商品を奪ったりやりたい放題さ。」

「そんな、酷い……。」

「あんた達も気をつけな、兵士たちは町の人間だけでなく外からくる人間にも容赦しないからね。この前は何も知らずに帰省してきた武器屋の娘さんが、罪をでっちあげられて駐屯所にへ連れていかれて辱めを受けたなんてこともあったからね、ここにいる間、特に女性は部屋から出ない方がいい、この宿にも夜になれば兵士達が酒を飲みにくるからね。」

「でも、そうなったら女将さんが……」

「ハハハ、私を心配してくれるのかい?安心しな、あんたみたいに若くもなければ可愛くもない女なんて誰もどうこうしようなんて思わないさ。」


 そう言って笑い飛ばしていた女将だったが、髪を下して隠していた額の傷に俺達全員が気づいていた。


――


「どうにかできないのかな?」


 部屋につき荷物を下したマリーが真っ先に口を開いた。


「正直、私達じゃ何もできないよ。相手は貴族だ、もし何かすれば以前の冒険者達みたいにこちらが罪に仕立て上げられる。あの時は()()あの三人が死んでしまったからどうにかなったけど、今回はそうはいかないしね。せめて、今の町の状況を聖騎士団に伝えることが出来ればね。」


 聖騎士団……確か国直属の精鋭部隊だったか?

 各地で話を何度か聞いたことはあったが確かにどこでも悪い噂は聞かなかったな。

 だが、こんな片田舎の町にそんなエリート集団が来てくれるか怪しいがな。


「とりあえず、本来ならすぐにでも旅立つか四人で引きこもっていたいところだけど、流石にそれじゃあ、また怪しまれそうだしニ、三日滞在して、私とティア君で形だけでも商売を――。」

「なら、この町にいる間は俺が仕事を引き受けるので親父さんは二人と一緒に部屋にいてください。」

「で、でも、それじゃあティア君が……」

「俺はこういう輩には慣れてますんで。」


 俺がジェームスの目を真っすぐ見て言うと、ジェームスも分かったと言って頷いた。

 以前のように怯えてでの承諾ではなく、俺を信頼してくれての承諾だ。


「ティア君もここでは極力揉め事は避けてね、もし何か要求されたら大人しく渡していいから。」

「……わかりやした。」

「ティア、気を付けてね。」

「ああ。」


 本当に……何事もなければいいがな。


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