聖騎士団①
「どうやら、その転移陣は問題なく使えているようだな。」
転移陣から戻ったエッジの目に映ったのは、地面に倒れ込み、傷だらけになった『カンピオーネ』の面々と、彼らを囲む、グリエル伯爵とは違う貴族の紋章の入った兵士だった。
そして、その兵士たちを率いている酒場で出会った男は、エッジが出てきた転移陣を興味深そうに眺めていた。
「まさか、こんな肥溜めのような場所でこのような代物に出会えるとは。これを持ち帰り、基盤として魔道具を作れば、我が国の魔道技術は大きな発展を遂げるだろう。」
「さ、させるかよ……!」
バルドは手をつき、なんとか体を起こすと、再び剣を構える。
しかしその足は激しく震え、立っているのがやっとだった 。
そんなバルドの姿を見て、男は嘲笑を浮かべる。
「フン、低ランクの雑魚冒険者の分際でまだ楯突くか……殺れ。」
男の冷ややかな命令と同時に、兵士の一人がバルドへ斬りかかる。
だがその刃は、すかさず前に出たエッジの剣によって受け止められた。
エッジが受け止めた剣を弾き返すと、周囲の兵士たちが一斉に動き、エッジの前を取り囲んだ。
「なんだ、貴様も逆らうつもりか?」
「てめぇら……何者だ?」
「俺たちか?俺たちは北部地方のコーデリア伯爵家に仕える兵士で、俺は、この隊を預かるランドだ。」
――……伯爵貴族?
ランドと名乗った男は、そう言うと、自分の剣に刻まれた家紋をエッジに見せつける。
だがそれに対し、エッジはどこか違和感を覚える。
「お前らがバルドの言っていた、ここを嗅ぎまわっていた連中か?」
「ああ、グリエルからこの場所を譲り受ける事になっていたのだが、調査している間に噂が立ってしまってね。我々のような貴族が、こんなところいるなんて噂が表まで出回ったら少々面倒なので、その噂をお前達に押し付けるために裏路地へ向かわせたのだが、まさか転移陣なんてものを発見するとはな。」
「そのこんなところを手に入れて、お前達は一体何をするつもりなんだ?」
「それをお前に教える必要などない。」
――やはり何かおかしい。
エッジはこの男の言葉がどうにも腑に落ちない。
このランドという男は、自分たちの目的を隠し、噂が出回るのを恐れているという割に、素性に関しては一切隠そうともせず、わざわざ家紋まで見せつけてきた。
それにエッジはこの二年間で、何人もの貴族を見てきたが、目の前の兵士たちにも、ランドにも、あの独特の貴族らしさがまるで感じられなかった。どちらかと言えば、自分たち冒険者に近い雰囲気すらある。
それに兵士という割には剣の構えにも、どこか違和感がある。
エッジは短い間だったが、昔兵士だった頃があった。そしてその際、基本的な剣や槍の構えと言うものを叩きこまれた。
だが、この兵士たちの構えは剣の角度も重心もバラバラで、持っている武器の種類すら統一されていない。
「さて、おしゃべりはここまでだ。この男も一緒に殺せ」
「なあ旦那、この女どもは……好きにしていいんですかい?」
「……好きにしろ。ただし持ち帰りは無しだ。終わったらきちんと始末しろ。
それと、どこで誰が聞いているかわからんのだ、そんな下卑た口の利き方は控えろ。」
「へいへい……了解しましたよっと。」
エッジはバルドたちを背に、兵士たちに剣を向ける。
どの兵士が先に動くか、全員の動きを警戒しながら、相手の出方を窺う。
だが、突如、エッジの背に焼き尽くすような炎が襲いかかった。
気づけば、後ろにも回り込まれていたようで、炎の魔法を受けたエッジが怯むと、その隙に前方の兵士に斬りつけられる。
「グァ!」
エッジの身体から血しぶきが出る。
今までにも斬りつけられることはあったが、その時はミリアムの防御魔法によりダメージは最小限で済んでいたが、今回はその補助もなくエッジはその痛みに膝を落とす。
「おいおい、たった一撃でそのざまかよ。」
「ま、所詮はDランク冒険者だな。」
痛みに顔をゆがませるエッジを見て兵士たちは笑い声をあげる。
だが、今の言葉を聞いてエッジはこの兵士の正体に思い当たるものを感じた。
「もう、いいだろう。さあ、殺せ!」
「なら俺にやらせろ、その頭、派手にかち割ってやるぜ!」
そう言って前に出た兵士の手に握られていたのは、剣ではなく重量感のあるバトルアックスだった。
そして、まだ身体が動かないエッジへ向けて、大きく振りかぶる。
――クソ、ここまでか。
「それじゃあ俺達はあっちを、楽しむとするか。」
エッジが項垂れると、エッジへの興味を失った他の兵士たちは、倒れているサンたち女性陣の方へ歩み出す。
しかしその瞬間、転移陣がまばゆい光を放ち、起動した。
「ん?なんだ?」
「――おんニャの敵は……私の敵ニャー!」
そして転移陣の中から獣人族の女性が現れると、そのまま兵士たちに向かって跳躍し、鋭い飛び蹴りを放った。




