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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
四章 学園編

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転移陣

「で?あの家で何を盗もうとしてたんニャ?盗人」

「だから誤解だって、言ってんじゃねえか!」


 転移陣で裏路地からフィオーネ男爵家の屋敷へ移動したエッジは、屋敷を出た直後に聖騎士団に拘束され、現在滞在している宿屋の部屋で尋問を受けていた。

 彼を尋問しているのは、猫の獣人族の女性団員と、褐色肌が特徴的な男性団員という、種族や身分差別が根強い騎士団の中では、かなり珍しい組み合わせである。


「なら、なんであんなところにいたんですか?」

「それは……」


 褐色肌の男性団員に問い詰められ、エッジは言葉を詰まらせる。

 バルドたちが転移陣の存在を隠している以上、エッジとしても話すわけにはいかない。


「そもそもあの家は、魔道具によって家の人間以外は外から入れないようになっていたはずです。どうやって入ったのですか?」

「……」

「言えないようなことなんですか……」

「そろそろ疲れてきたんじゃニャイか? さっさと吐いて楽にニャるニャ。それとも、『マニャビー』でも吸うかニャ?」


 そう言うと、獣人族の団員が机の上に、強烈な臭いを放つ花を置いた。


「うわっ! ちょ、なんだこのクセェ花は⁉ 拷問のつもりか⁉」

「臭くないニャ!マニャビーは、ケットシーに伝わる精神を安定させる薬草だニャ!」

「……テメェら、何遊んでやがる?」


 そのとき、ドアが開くと同時に、聞き覚えのあるくぐもった声が聞こえてきた。


「レーグニック副団長。」


 ――レーグニック⁉


 その名前にエッジが振り向くと、自分たち『竜王会』とも縁のある聖騎士団の副団長、グレイス・レーグニックが部屋の前で呆れたようにこちらを見ていた。


「遊んでないニャ、これはれっきとした尋問だニャ!」

「テメェの尋問で吐くのなんて、唾かゲロくらいだろうよ。」

「ニャンと失礼ニャ⁉︎」

「それで、そいつが例の盗人か?」


 レーグニックは女性団員の抗議など完全に無視し、面倒くさそうに頭を掻きながらずかずかと歩み寄ってくる。

 そしてエッジの顔を見た瞬間、露骨に眉をひそめた。


「お前は竜……レーベルの冒険者の……。」

「この男は副長の知り合いですか?」

「あ、ああそうだ!俺とお前のところの副団長は知り合いだぜ!」

「ますます怪しいニャ!」

「なんでだよ!」


 エッジが思わずツッコミを入れると、レーグニックは相変わらず独特な笑い声をあげる。


「ケハハ、まあ日頃の行いというやつだ。」

「こいつ本当に聖騎士団かよ……」

「ま、それは置いといて。お前ら、そいつを解放してやれ」

「え?しかし――」

「そいつはミリアム・フィオーネ令嬢を保護していた冒険者だ。屋敷の鍵を持っていてもおかしくはないだろう。」

「はあ……」


 レーグニックにそう言われると褐色肌の男は渋々エッジの拘束を解く。

 そして二人はレーグニックに巡回を命じられると、文句を言いながら部屋を出ていった。


「それで、お前はこんなところで何やってんだ?」

「え?それは……」

「しょっ引かれたくなければ、さっさと言え。別に、上司(うえ)に報告したりはしないからよ。」


 ニヤニヤ笑うレーグニックを見て、逃げられないと悟ったエッジは観念すると、ここに着くまでの経緯を説明した。


「……なるほど、転移陣か。ウィルスの野郎はそんなものまで作っていたのか……」


 話を聞いたレーグニックは、先程とは違い神妙な顔立ちで考え込む。


「なあ、この転移陣ってそんなヤバいものなのか?だってこれがあれば移動がかなり楽になるんじゃないのか?」

「……確かにそれがあれば移動は楽になるだろう。だが逆に言えば、それを街に設置すれば誰でも街に入り放題ということだ。」

「っ⁉」


 その説明に、エッジはようやく転移陣の恐ろしさを理解し始めた。

 レーグニックはエッジの心境など気にせず、さらに話を続ける。


「大勢の軍隊を一瞬で移動させられるなら、戦争で大きな優位を得られるし、たとえ距離や人数に制限があったとしても、あらかじめ街の中に設置しておけば、外部から工作部隊やモンスターを送り込んで混乱させることもできる。やり方次第では、とんでもない脅威になりうる代物だ。」


 その言葉を聞き、エッジの背筋に冷たいものが走った。


「な、なあ……転移陣の事なんだが。」

「安心しろ、()()誰にも言うつもりはない。余計なこと言って、これ以上仕事が増えるのは嫌だからな。」


 レーグニックは疲れた表情を浮かべ、めんどくさそう言う。


「そう言えば、聖騎士団がなんでこんなところにいるんだ?」

「そりゃお前のせいだ。」

「お、俺の?」

「お前がフィオーネの嬢ちゃんをグリエルに()()()ことで、グリエルを後見人に、凍結していたフィオーネ男爵家を復活させる話が出ているんだ。なんせ、フィオーネ家はあのバルデスが直々に派閥に引き入れた家だ。その家が復活、しかも当主となるのがまだ幼い盲目の少女となれば、他の貴族にとって都合がいいからな。それで改めて、フィオーネ領の調査に来たというわけだ。」


 レーグニックの棘のある説明に、エッジは内心でズキリと刺さるものを感じつつも、聞き流して話を進めた。


「それで、この町はどうなんだ?」

「まあ、ひでぇ有様よ。一応グリエルの管理下になっているが、ほとんど放置状態だ。元々小さな町だったが、フィオーネ商会の拠点があったことで、それなりに賑わっていたらしい。だが、商会がグリエルに引き継がれたと同時に、別の商会に買収されちまって、今じゃこの街には何もない。幸い道の整備は行き届いているから、ほとんどの住人は隣町まで出稼ぎに出ているよ。」


 ……と、レーグニックは呆れたように言い、ため息を吐いた。


「お前も、特に用がないなら、あいつらが戻ってこないうちに、早く帰りな。」


 そう言ったレーグニックに促されるように、エッジは宿を後にした。

 結局、何も見つからないまま、エッジは再び転移陣を使い、裏路地へ戻る。

 しかし……


「なっ!」


 裏路地に着くと、そこにはこの街の兵士とは違う、鎧を着た兵士複数人と、それに囲まれ横たわる『カンピオーネ』の面々がいた。


「な、なんだ!テメェら⁉」

「お、戻ってきたか。」


 すると、エッジの声に反応するように兵士たちの奥から声が聞こえた。

 その声に兵士たちが動いて道を開けると、姿を現したのはエッジたち裏路地のことを教えたあの酒場の男だった。

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