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奴隷の帝王~無能な奴隷に転生した最強ヤクザの最底辺からの成り上がり~  作者: 三太華雄
四章 学園編

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エッジと冒険者

「はぁ、はぁ……あいつらは、うまく逃げ切れたようだな。」


 四人の冒険者を一人で足止めしていたエッジが、姿の消えた仲間たちの方向を見て安堵する。

 だが、自身はその四人に囲まれて逃げられる状況ではなくなっていた。


「他の奴らには逃げられたか……」

「気にするな。こいつを捕まえて目的を吐かせればいいだけだ。」


 そう言うと四人の冒険者は、エッジを逃がすまいと、一瞬たりとも目を離さずにいる。


 ――どうやら逃げられそうにねえな。いや、捕まった方が好都合か?


 そんな強がりを思い浮かべながらも、再び剣を構え、抵抗の意を見せる。

 そして、エッジはバルドという男と剣を打ち合う。

 両者の実力は拮抗していた。だが、相手の仲間たちから飛んでくる魔法の援護や、交代しながらの攻撃によって、エッジの体力は徐々に削られていく。


「はぁ、はぁ……敵ながら大した根性だが、そろそろ限界のようだな。」

「はぁ、はぁ……うるせえ。」


 エッジは息を切らしながらも、決して構えを崩さずバルドたちを睨みつける。

 そんなエッジの気迫に、バルドたちもわずかに戸惑いの色を見せる。


「お前たちがここにきた目的はなんだ?ここで何をしていた?」

「はぁ、はぁ、誰が言うかよ。てめえらこそ、ミリアムをどうするつもりだ?」

「ミリアム?誰だそれは?」

「へっ、雇われの冒険者には何も伝えられてねえってか?」

「雇われ……何のことだ?」

「とぼけんじゃねえよ!てめえら、グリエルの手先だろ!」

「はぁ⁉何言ってやがる!むしろそれはお前らじゃないのか!」

「なんだ!」

「ああっ⁉」


 二人の言葉は噛み合わず、押し問答が続く。

 やがて、疲労で熱くなっていた頭が少しずつ冷え始め、お互いに落ち着きを取り戻していく。


「……本当にお前らはグリエルの手先じゃないってのか?」

「それはこっちのセリフなんだが……」

 ……


 エッジたちは一度剣を下ろし、話し合うことにした。


 ――


「……えーと、つまりなんだ……お前らは最近、この辺りを嗅ぎ回ってる連中を探していて……」

「お前はグリエルのことを嗅ぎ回っていたら、ここまで来たということか……」


 お互いに誤解していたことに気づくと、エッジと冒険者たちの間に、なんとも気まずい沈黙が流れる。


「すまん、勘違いしていたみたいだ。」

「それはお互い様だ、俺たちの方こそ済まない。」


 エッジが勢いのままに手を合わせて謝ると、バルドも釣られるように頭を下げた。


「……えっと、改めて。俺はバルド、Cランク冒険者『カンピオーネ』のリーダーだ。」

「攻撃魔法担当のサンよ。」

「補助魔法担当のエニーです。」

「武闘家のウボーだ。」

「俺はDランク冒険者『ツルハシの旅団』の剣士、エッジだ。」


 お互いに自己紹介を終えると、改めて和解の握手を交わした。


「それで、どうしてエッジたちはこんなところに?」

「グリエルのことを調べていた時に、とある男からこの場所を調べるように聞いたんだが……それで、ここはどういった場所なんだ?」


 エッジが遠くにみえる、ボロボロの浮浪者たちを見て、バルドに尋ねる。


「元はただの貧民区だったが、最近グリエルが不都合な人間を捨てている場所さ。仕事で怪我を負った兵士や、病気を患った使用人などの使えなくなった部下。そして討伐などで亡くなった兵士の家族など保証で金のかかりそうな人間をな。他にもイサイラに移住を考えている有力者なんかがいたら、市民や店の人間をここに放り込み場所を空けたりしている。」

「は?なんだよそれ⁉どうしてわざわざこんなところに……」


 エッジは怒りをあらわにし、声を荒らげた。


「こんな扱いでも、一応市民扱いにはなってるんだ。国に人口を報告する際、人口が多い方が発展していると見なされるからな。ここは目の届かない場所だろ?だから、野垂れ死にしても気づかないふりができるし、人口を減らして報告する必要もないってわけだ。」

「……そこまでやるのかよ?」

「そこまでやらないと持たないということだろう。」


 思っていた以上に酷いイサイラの状況にオギニは考え込む。

 今の話が本当なら、グリエルがミリアムを保護したのは間違いなく、善意などではないだろう。


 ――やはりミリアムを助けないと、だが、


 そんな時、四人を見て、エッジがふと疑問を抱く。


「なら、あんたたちはどうしてこんなところにいるんだ?」


 Cランク冒険者は、冒険者としては一人前と呼ばれるランクでそれなりに飯を食っていけるはず。

 こんな場所にいる理由はない。


「ここは俺達が幼い頃から育った場所だ、どんなに酷くなろうがそう簡単に離れることなんてできないさ……」

「ただ、それもそろそろ限界かもね。」

「どういうことだ?」

「こんなこといつまでも上手くいくわけないでしょ?既にメッキがはがれ始め、噂がところどころで漏れ始めてるの。他の街に移住する人も多数出てきているし、この街はもう持たないわよ。今グリエルがなんとか食い扶持が繋げているのは、ウィルスたちの遺産を食いつぶしているだけなのよ……」

「ウィルス?」

「俺達の幼馴染の一人さ。」


 そう説明すると今度はバルドがエッジに尋ねる。


「そう言えば、なんでお前達はグリエルを調べているんだ?」

「ああ、ミリアムを取り戻したくてな。」

「ミリアムって?」

「それは……俺のむ……いや、仲間の少女だ。」


 娘という言葉にはまだ抵抗があり、エッジはそう紹介する。

 するとミリアムの名前にエニーが反応する。


「ミリアムって……ちょっと待って!その子ってもしかしてミサリーとウィルスの子じゃない?」

「なに⁉それは本当か?」


 エニーがそう言うと、今まで黙って様子を見ていた武闘家のウボーが、思わず話に割って入った。


「い、いや、両親の名前までは知らないが、一応グリエルの姪らしい。」

「やっぱりそうよ!ウィルスとミサリーの子だわ!」

「まさか、あいつらの子供が生きていたのか……」

「ええっと、どういうことだ?」


 困惑するエッジをよそに、エニーとウボーは興奮気味に話を続けている。

 その様子を見かねたサンが、代わりに説明をする。


「さっきバルドが言ったわよね?ここは思い出の場所だって?ここはね、幼い頃私たち四人とウィルスとミサリーそして……いえ、この六人の思い出の場所なの」


そう言って、サンはこの場を見渡すと懐かしそうに遠い眼をした。





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