役目と仕事
「……成程な、それで俺の所に来たという訳か。」
「ああ、あんたなら力になってくれると思ってな、オギニ。」
ミリアム救出のために動き出したエッジ達が頼ったのは、同じ竜王会のメンバーである男、オギニ・ブランドン。
オギニはかつてとある国の将軍だったが、忠誠を誓っていた姫の復讐のために国王を殺害し国が亡ぶ要因となった男で、『忠義と裏切りの将』の将と呼ばれていた。
性格は竜王会の中では珍しく生真面目且つ、正義感の強い男で、以前は自分への戒めとして自ら奴隷となってビビアン・レオナルドの下で働いていた。
現在はお互いの利害のためにティアの下についているが、ティアに忠誠を誓っているわけではないので盃はまだ交わしていない。
ただ、それでも与えられた仕事は忠実にこなしている。
オギニは仕事中にも関わらずいきなりやってきたツルハシの旅団に対しても、嫌な顔をせずに対応していた。
「あいつの言ってたのはこの事か……」
「え?」
「いや、なんでもない。まずは話を聞かせてもらおう、どういった状況かわからないと俺も答えようがないからな。」
「あ、ああ!よろしく頼む!」
オギニが快諾してくれると、エッジが早速事の詳細について説明する。
「……ということなんだが、何かミリアムを助ける方法はないか?」
「ふむ……。」
顎に触れながら考え込むオギニに対し、エッジが前のめりになりながら尋ねる。
「そうだな……ならお前達が初めにすることは、まず焦らない事だな。」
「え?」
「話を聞いた限り、今の話はあくまでアンデスの推測に過ぎない、本当にミリアムの事を思って引き取った可能性だってある。仮にその推測が正しかったとしても、そのグリエル伯爵とやらはミリアムが何かしらに必要だから引き取ったのだろう、ならば無碍に扱われたりはしていないはずだ。焦る必要はない、逆に焦って強引にも攫おうと考えるなら愚の骨頂だぞ?」
「お、おう……」
(……あぶなかったスね)
(ああ、やっぱり俺達じゃ考えるのは無理だな。)
動揺を見せるエッジの後ろでマーカスとビレッジが小声でそんな話をする。
先ほどまでそういった話が出ていただけに、四人は改めてオギニに相談して良かったと思った。
「で、今の話を踏まえてまずやるのが情報収集だ。向こうはどういった人物で、どう言った状況なのか、そこを調べ上げて目的を見極めるんだ、本格的に仕掛けるのはそれからだな。」
「成程……」
「ならイービルアイとかに依頼した方がいいっスかね?」
「いや、別に難しい情報じゃなくていい。グリエル伯爵の評判や噂話など、まずはそういった表向きなところで得られる情報を集めるんだ、そういう情報収集ならお前たちの得意分野だろ?」
オギニの言葉に四人はハッとする。
ツルハシの旅団がこの一年で行ってきた仕事は、主に情報収集である。
ごく普通の冒険者の振りをして聞き込みをしたり、依頼をこなして酒の席で冒険者たちと情報を交換したりと、冒険者として活動しつつ、ティアから言われた情報などを集めていた。
当時は、こんな簡単な情報集める必要があるのかと思ったこともあったがここに来てその意味に気づく。
「特にマーカスの持つ『鑑定』スキルはここで大きく役立つだろうな。」
「え?でもアッシの鑑定はスキルやステータスと言った個人情報は知ることはできるっスけど、こういう情報収集ではあんまり役に立ちそうにはないっスよ?」
確かにマーカスの持つ『鑑定』は貴重なスキルで、この能力のお陰で奴隷時代ティアが魔石島で十年も奴隷をやっている事に気づけたし、盲目のミリアムが無自覚で防御魔法が使えるようになっていた事も知ることができた。
ただ、得られる情報はあくまで個人の情報で、相手の持つ知識や考えてる事、心などは読むことはできるわけではないので、仕事で鑑定スキルを使う事は殆どなかった。
自信なさげに言うマーカスに対し、オギニは小さく首を振る。
「そんな事はない、お前が見ることができる情報には『称号』と言うものが見られたはずだ。称号が分かれば街の中にいる裏組織や、他の貴族達の関係性、そしてその情報からグリエルが誰と接触しているのかや、どう動いているのかがわかる。そこから得た情報からミリアムを使って何をしたいかが見えて来るはずだ。」
「おお!成程、それならアッシにもできそうっス!」
マーカスがスキルで見れる称号というのは、いわば相手の立場と言うものがわかるようになっている。
例えば飲食店で働いているなら『料理人』、騎士団に所属している裏で盗賊をやっているなら『盗賊』と、誰がどのように判断しているのかは不明だが、その魂に現在最も刻み込まれた内容が記されているという話だ。実際マーカスは、この能力でティアが、十年生き続けていた奴隷と見抜き、接触していた。
「な、なんだがいけそうな気がしてきたぞ?」
「待て、油断するな、なあ、他には何かないか?」
「そうだな……あとアドバイスがあるとするなら、困ったときはティアならどう動くかを考えろ」
「ティアならどう動くか?」
「ああ、お前たちは一番付き合いが長いんだろ?ならある程度は分かっていたりするんじゃないか?」
そう言われて、エッジ達は今までティアが行ってきた出来事について思い出す、確かに大胆なところもあり行動力は大きいが、常に落ち着いて計画を練って動いていた気がする。
それはまさに今現在、エッジ達が忘れがちになっている事だ。
そして四人も付き合いが長い分、とんでもない発言にも予想ができ驚くことも少なくなっている。
「確かにこれは覚えていた方が良さそうだな。」
「すまねえ、助かった、やっぱりあんたを頼って良かったぜ。」
「フッ、役に立てたなら何よりだ。俺は俺で仕事があるから動けないが、他にできることがあるならいつでも頼ってくれ。」
「ああ。」
エッジ達は改めてオギニに頭を下げると外に出る。
「……これで目的は決まったな。」
「ああ、まずはイサイラで情報収集だな。」
「よーし、ならすぐにもイサイラへ向かうぞ!」
エッジの号令にツルハシの旅団は勢いよく返事をすると、四人はミリアムと別れた街、イサイラへと向かった。




