『ツルハシの旅団』
「クソッ!クソッ!クソッ!」
ティアの部屋を飛び出したエッジは、自分の部屋に戻ると、目に付いたテーブルを八つ当たりで何度も叩く。
壊す勢いで叩かれたテーブルは大きく揺れ、上に置かれていた酒瓶が倒れて床に転がり落ちると、瓶の割れる音が外まで響き渡った。
その音を聞いたツルハシの旅団のメンバーが慌てて中に入ると、エッジはテーブルに寄りかかりながら悔しそうに膝をついていた。
「エッジさん……」
「……わかっている。わかっているんだ……あいつのいう事は正しい。だからこそ自分の馬鹿さ加減が許せねえんだ……」
エッジが今までの事を振り返り拳を固く握る、思えばいつもそうだった。
小さな村の農民の子供だったエッジは、五歳の時行ったスキルの鑑定で、自分が村で一番高い剣スキルを持っていることがわかると、その事を鼻にかけ村一番の悪童となった。
スキルの低い子供を虐め、大人たちを見下し、注意されると暴れまわり周囲の人間に迷惑をかけていた。
そして青年になると生まれ育った村を捨て、エッジは自分のスキルが生かせるであろう領主の兵士になった。
しかし、実際はスキルだけじゃどうにもならなかった。厳しい訓練や剃り合わない上司、そして何より低い剣スキルでありながら自分よりも実力がある者達の存在に耐えきれず、エッジは討伐の遠征に行った際にそのまま逃げ出すと、周辺で暴れ回っていた野盗のメンバーに加わった。
そこからは十年ほど野盗として活動していたが、近くで起きた内戦により脱走兵や村を焼かれた村人達が合流し規模が大きくなると、方針や戦利品の分配をめぐって仲間内で対立が生まれ、内部分裂を起こった。
そしてエッジは一部の仲間を連れて別の地域で自分がリーダーとなって盗賊を始めた。
エッジの盗賊活動は初めこそ順調だったが、欲が出て貴族の馬車を襲った事で護衛をしていた冒険者に捕縛されると、犯罪者奴隷として魔石島に送られることになった。
そこでティア達に出会い現在に至るのだが、それ以降の出来事でも自分の短絡的な行動で失敗している。
脱走した時もそうだ。今考えれば、いくら無能とはいえ魔石島からの脱出を成功させたティアが普通の子供ではない事は分かるし、『アイアンヘッド』からミリアムを救おうとした時だって、もっと冷静に動いていれば事を荒立てずに済んだのかもしれない。
仲間やミリアムの存在に、新しく生まれ変わろうと本気で頑張ってきたが、それから三年経った今でも自分で考えて動いた行動はどれも裏目に出ているのだ。
「……今まで上手くいっていたのは全てお前らや周りの奴らのお陰だ。そんな成長できない自分に余計腹が立つ。」
エッジの落ちぶれた背中を見て、マーカスやビレッジがどう声をかければいいのかわからず、顔を見合わせていると、ルースがエッジへと歩み寄る。
「なあエッジ……それって悪い事か?」
「……何?」
「確かにエッジは……いや、俺達はここにいる他の奴らみたいに計算高くないし、それを補えるようなスキルや実力もない、今も昔も変わらないただの凡人だ。だけどな、それでも俺達とミリアムの五人で活動してからは一度も失敗はしていないし、こんな危険な世界にいながらもこうやって生きている。それは俺達五人で協力し合ってきた事と、そんな俺達をティアが上手く使ってくれているお陰だ、なら、わざわざ一人で何でもできる必要なんてないんじゃないか?」
「ルース……」
ルースの言葉にエッジが言葉を失っていると、続いてマーカスとビレッジも口を開く。
「……そっスね、アッシも『鑑定』なんてスキル持って情報屋なんてやってたっスけど、結局上手く使えてなくて余計な情報流して売られちまいやしたから。」
「俺も、商人の息子でなんの力もないのに冒険者で上手くやってるしな、でも俺一人じゃ絶対無理だってことはわかるぜ?」
「俺達は、一人じゃ何も変わっていないのかもしれない、だが俺達が四人でいる時は『ツルハシの旅団』という冒険者に変わる。ならば俺達が集まってる時くらいはもう少し自信を持っていいんじゃないか?」
「お前ら……そうだな、すまねえ、ちょっと弱気になっていたのかもしれねえ。」
ルースの励ましの言葉に、エッジは立ち上がると両手で頬を叩き気合を入れる。
「そうだ、今の俺は『竜王会』の『ツルハシの旅団』だ。ならばツルハシの旅団として動き、同じ一員であるミリアムを取り戻す!お前らもついてきてくれ!」
エッジの言葉に三人が応えると四人で手を重ねて団結する。
「そういや、今の俺はリーダーじゃなかったな、すまねえルース。お前を置いて出しゃばっちまって。」
「いや、俺は演技のためのリーダーであって本当のリーダーでは……」
「んなことねえよ、さっきのお前の言葉……すっげぇ響いたぜ?」
「そうそう、それに一人じゃただの農民でも、皆といる時は『ツルハシの旅団』のリーダーだろ?」
「それは……参ったな……。」
自分の言った言葉を使われたルースが少し顔を赤くしながら恥ずかしそうに頭を掻くと、その場は少し和やかな雰囲気になる。
そして、少し場が和らいだところで改めて本題に戻る。
「それで、具体的にどうすればいいッスかね?」
「んー、深夜に忍び込んで攫ってくるとか?」
「馬鹿いえ、それじゃあ今までと変わんねえじゃねえか。」
「と言っても、俺達にはこれくらいしか思い浮かばねえしな……」
四人が唸りながら考えこむ。
「なら交渉するとかは?ルースはリーダーとしてよく交渉してただろ?」
「あれはただティアの指示通りにしてただけだ。ビレッジは?元商人の家の出だろ?」
「交渉が上手く出来るなら、奴隷になってなんていねえよ。」
「それもそっか……。」
そしてそれからも四人は浮かんだ作戦をあげていくが、どれも上手くいくとは思えず再び振出しに戻る。
「……やっぱ俺達だけじゃ無理か。」
「仕方ねえ、所詮俺達は凡人だ、難しい事は考えたってわからねえ。なら、わかりそうなやつに聞くだけだ。」
「でも、俺達の相談に乗ってくれそうな奴なんているか?」
「いたとしても見返りは必要だろうな。金で解決できるならいいが……ここの奴らはそうじゃねえからなあ。」
「……いや、一人だけいるな。強くて頭もキレて無償で相談に乗ってくれそうな、この組織の良心とも言える男が……」
エッジが言った言葉に他の四人も思い当たる節があったのか、揃って顔をあげる。
「……ああ、あいつか。確かにあいつなら力になってくれるかもしれねえ。」
「確かあの人は今近くの町にいるはずだ。」
「よし、じゃあ早速会いに行こう。」
名前を出さずに四人の中で答えが一致すると、エッジ達は助けになってくれそうな男の元へと向かった。




